表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第2章 道連れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/102

第2章 (12)手合わせ

 ロイドの申し出に、バッシュの胸にも熱いものが込み上げた。商人でありながら、あの引き締まった身体と鋭い眼光。彼の剣がどれほどのものか、バッシュ自身も確かめてみたかった。


「いいだろう。次の休憩でな。」


 バッシュはそう答え、ロイドも満足げに頷いた。


 数時間後、街道脇の広くなった場所で馬車が停められた。グラハムとソフィアはそのまま荷台に残し、バッシュとロイドは少し離れた場所へと移動する。エライザは、不安げな表情で二人を見守っていた。


「お手柔らかに頼むぜ、剣士さん。」


 ロイドはにこやかにそう言いながらも、その手には短剣が握られていた。一般的な剣士が使う長剣ではなく、軽やかな短剣。その選択が、彼の剣術スタイルを暗示しているようだった。バッシュは腰の剣を抜き、構えを取る。


 最初は、互いに相手の力量を探るような軽い動きだった。ロイドは短剣を巧みに操り、素早いフェイントを繰り返す。その動きはしなやかで、まるで風のように軽やかだった。彼の短剣は、まるで生き物のように踊り、あらゆる角度から予測不能な軌道で襲いかかる。それは、敵の隙を突き、急所を狙う、まさに暗殺者の技にも似ていた。


 対するバッシュは、一歩一歩、大地を踏みしめるような重い足取りで間合いを詰める。彼の剣は、無駄な動きを一切排除し、最短で相手を仕留めるためだけに存在しているかのようだった。


 軽くのつもりで始めた手合わせは、次第に熱を帯びていった。ロイドの表情から笑みが消え、その動きはさらに研ぎ澄まされていく。彼の短剣は、嵐の前の静けさのように鋭く、バッシュの剣の間隙を縫うように迫る。しかし、バッシュはそれらを紙一重でかわし、時には重い一撃で弾き飛ばした。


 バッシュの剣は、ロイドの軽やかな動きを捉え、じりじりと押し込んでいく。力と正確さで、相手の自由を奪っていくような剣さばきだ。バッシュの剣筋は、まるで計算され尽くしたかのように無駄がなく、その一振り一振りが風を切り裂く音を立てる。その重さと速さは、まさに圧倒的で、ロイドの短剣がかすめ飛ぶたびに、周囲の空気が震えるかのようだった。


 ロイドは防御に徹し、バッシュの剣をいなすことで何とか体勢を保っていた。彼の動きは確かに優雅で対照的だが、バッシュの圧倒的な力の前では、その華麗さが少しずつ霞んでいくように見えた。


 やがて、バッシュの剣がロイドの懐深くへと突きつけられた。その一撃は、まるで雷鳴が轟くかのような速さと重さを伴い、ロイドの短剣による幾重もの防御を打ち破った。ロイドは寸前で身をかわしたが、その頬を掠めた剣の風圧に、小さく息を呑んだ。あと一歩、いや、ほんの紙一重の差で、彼の命は刈り取られていただろう。


「参ったぜ…」


 ロイドはそう言って、短剣を下ろした。その額には、わずかに汗が滲んでいる。彼の本気度がどこまでだったのか、バッシュには測りかねた。しかし、彼がただの商人ではないことは、この手合わせで確信できた。


 エライザは、二人の手合わせを呆然と見つめていた。バッシュが強いことは知っていた。森での野盗との戦いで、その剣技はすでに目の当たりにしていた。しかし、改めて間近で見るその剣の動きは、まるで別次元のようだった。彼の剣は、力強く、そして美しかった。それは、単なる武術ではなく、何か圧倒的な「存在」を目の当たりにしているかのようだった。


(バッシュは…本当にすごい…)


 エライザの瞳には、尊敬と、そして深い安堵の色が浮かんでいた。彼の隣にいれば、どんな困難も乗り越えられる。そう、改めて強く感じた。


 手合わせを終え、ロイドは相変わらずのヘラヘラとした笑顔で「参った参った」と声を上げ、軽やかに荷馬車へと戻っていった。彼の剣さばきは確かに見事だった。まるで舞うような流れる動きは、バッシュの力強い剣とは対照的だ。


 バッシュは、その背中を見送りながら確信した。


(やはり、ただの商人とは思えないな。あの剣さばきは洗練されている。特定の流派に属していなくても、相当な鍛錬を積んでいるはずだ。何かの組織か?あるいは軍隊か?)


 もし軍の者だとしたら、その目的は何なのか。ここでバッシュを殺そうとしないということは、敵ではない。むしろ、グラハムのことを知っている者なのか?だとしたら、もしかするとロイドもまた、皇国に潜む「裏切り者」を探す側にいるのかもしれない。バッシュの頭の中で、新たな可能性が浮かび上がった。


 エライザは、手合わせの一部始終を固唾をのんで見つめていて、バッシュの圧倒的な強さを改めて目の当たりにしたが、あまりに激しい模擬戦だったので急にとても心配になり、彼の服の裾をギュッと掴んだ。


「大丈夫?」


 エライザは、不安げな表情でバッシュを見上げた。彼女の瞳には、まだ二人の剣の残像が焼き付いているかのようだ。


 バッシュは、エライザの不安を和らげるように、そっと彼女の頭を撫でた。


「ああ、大丈夫だ。心配ない。」


 彼の言葉は、迷いなく真っすぐにエライザの心に届いた。彼女はホッと息をつくと、彼の服を掴んでいた手にさらに力を込め、ほほ笑んだ。バッシュの温かさと、彼の傍にいられることの安堵が、エライザの全身にじんわりと広がっていく。


 彼はロイドの背中をちらりと見た。ロイドの真意はまだ掴めないが、彼が彼らをバリスへと導くための重要な存在なのは間違いない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ