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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第2章 道連れ

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第2章 (3)尋問

 バッシュは、次々と倒れ伏す野盗たちには目もくれず、真っ先にその首領と見られる男へと狙いを定めた。彼は、他の野盗たちよりも一際大きく、その顔には幾多の悪事を重ねてきたような凶悪な笑みが張り付いていた。


 首領は、仲間たちが倒れていく様を見て、恐怖に顔を引きつらせていた。彼が逃げ出そうとしたその瞬間、バッシュは手を緩めることなく、電光石火の速さで距離を詰めた。首領が反応する間もなく、バッシュの剣は、その喉元に鋭く突きつけられていた。


 冷たい刃が首筋に触れ、首領の顔から血の気が引く。彼は呻き声を上げることすらできず、ただ恐怖に目を見開いていた。森の静寂が、倒れた野盗たちのうめき声と、首領の荒い息遣いだけを際立たせる。


 エライザは、その光景を固唾をのんで見守っていた。バッシュの剣は、彼女を狙う者たちを決して許さないという、彼の強い意志を示していた。


 バッシュは、野盗の首領の首筋に剣を突きつけたまま、冷徹な声で問いかけた。


「答えろ。お前たちは、ただの野盗か?それとも、誰かの差し金か?」


 彼の声は低く、森の静寂に響き渡る。その眼光は鋭く、首領は恐怖で声も出せずにいた。バッシュの質問の意図は明白だ。この襲撃が単なる偶然の略奪なのか、それともエライザ、あるいはバッシュ自身を狙った組織的なものなのか、それを知る必要があった。特に、ゲーテの町で感じたあの視線のことを、バッシュは決して忘れていなかった。


 首領の目には、命乞いをしようとするような怯えと、しかし同時に、何かを隠そうとするような葛藤が浮かんでいた。


 野盗の首領は、バッシュの剣の切っ先が喉元に食い込むのを感じ、死の恐怖に顔を歪ませた。彼の目に宿っていた最後の抵抗の光が消え、震える声で命乞いを始めた。


「待て…言う…」


 彼は必死に唾を飲み込み、途切れ途切れに言葉を絞り出す。


「町で大金をもらった…それが誰かは知らねぇ…本当だ…」


 首領の言葉は、この襲撃が単なる偶然の野盗によるものではないことを示唆していた。彼らがわざわざ街道に出て、バッシュとエライザを狙ったのは、何者かによる依頼があったからだ。しかし、「それが誰かは知らねぇ」という言葉が真実なのかは定かではない。本当に知らないのか、あるいは知っていても口を割らないのか。


 バッシュの表情は変わらない。彼の眼差しは依然として冷たく、首領の言葉の真偽を見極めようとしていた。エライザは、バッシュの背後で、固唾をのんでそのやり取りを見守っていた。彼女の胸元のペンダントが、かすかに、しかし確かな光を放っている。


 バッシュは、野盗の首領の命乞いの言葉に冷徹な視線を向けたまま、さらに問い詰めた。


「どんな奴だ?」


 首領は、剣の切っ先から逃れようと必死に言葉を絞り出す。


「マントとフードでよくわからねぇ…ただ…甘い香りと、高価そうな金の耳飾りが見えた…それだけだ…他は分からねぇ…」


 彼の証言は、漠然としたものだった。しかし、「甘い香り」と「高価そうな金の耳飾り」という特徴は、ただの野盗の依頼主としては異質だ。それは、どこかの貴族か、あるいは高位の魔術師のような、特殊な背景を持つ人物を連想させた。森でエライザを襲ったグリフォンも、どこかの勢力が使役していた可能性も浮かび上がった。


 この情報が、旅の次の手がかりとなるかもしれない。バッシュの頭の中で、エライザの故郷を襲った軍隊と、この謎の依頼主が、薄い糸で繋がっているような感覚が芽生え始めていた。


 バッシュは、野盗の首領の言葉から新たな情報を得たものの、その確証は得られなかった。しかし、その時、隣に立つエライザの異変に気づいた。


 彼女の胸元で、母から託された透明なペンダントが、淡く、しかし確かな光を放ち始めたのだ。その光は次第に強まり、まるで薄い膜のようにエライザの全身を優しく包み込んだ。神秘的な輝きは、森の薄暗がりの中で、幻想的な光景を生み出している。


 エライザ自身も、その光に気づいているようだった。彼女はペンダントにそっと手を触れ、その表情には、驚きと安堵、そしてどこか懐かしい感情が入り混じっていた。それはまるで、遠い記憶が呼び覚まされたかのような、あるいは母の存在を感じているかのような、不思議な光景だった。


 この光は、単なる現象ではない。このペンダントが持つ「貴方を守るもの」という母の言葉が、今、現実のものとして現れたかのようだった。


 バッシュは、エライザを包み込むペンダントの神秘的な輝きを目の当たりにし、確信した。


「やはり、あのペンダントは普通じゃない…」


 彼は、その透明な石が単なる飾りではないと直感していたが、これほどまでに明確な現象を見るとは思わなかった。光は、確かにエライザを優しく包み込み、彼女の身を守っているかのようだった。


 彼の脳裏には、エライザの母の言葉が蘇った。「貴方を守るものだから」そして、森でグリフォンに襲われた際、彼女だけが逃げ延び助けられたこと。それらが全て、このペンダントの「守護」の力によるものだとすれば合点がいく。


「でも、エライザだからこそ反応するのか?やはり守護…」


 バッシュは、ペンダントがエライザの特定の資質、あるいは彼女が「鍵」であることと関係しているのではないかと考えた。通常の人間には発現しない、特別な力がこのペンダントには秘められているのかもしれない。


 彼は、その視線を再び野盗の首領へと向けた。首領は、エライザを包む光景に目を見開いて呆然としていた。その顔には、恐怖だけでなく、理解不能なものを見たことによる困惑が浮かんでいる。バッシュは、彼からこれ以上有益な情報を引き出せないと判断した。この男は、ただ金を渡されただけで、背後の真の黒幕については何も知らないのだろう。


 バッシュがエライザのペンダントの輝きに目を奪われた、その一瞬の隙だった。


 ヒュッ!


 風を切るような鋭い音が森に響き渡る。バッシュがハッと首領に視線を戻した時には、すでに遅かった。首領の喉元に突きつけていた彼の剣の、まさにその横をすり抜けるように、一本の矢が飛来し、野盗の首領の胸を正確に貫いた。


 首領は、苦悶の表情を浮かべたまま、その場に崩れ落ちた。彼の目から光が失われ、口から泡を吹いて、すぐに息絶えた。


 バッシュは即座に周囲に警戒の視線を走らせた。この森のどこかに、まだ敵が潜んでいる。そして、彼らが野盗の首領を消したのは、口封じのためか。あの「甘い香り」と「金の耳飾り」の人物の手の者なのか。


 エライザは、突然の出来事に息を呑み、バッシュの背中にさらに身を寄せた。彼女の胸元のペンダントは、まだ淡く光を放っている。


 バッシュは、森を駆け抜けた矢の軌跡を目で追ったが、その殺気は、まるで幻だったかのように一瞬で消え去った。熟練の弓使いによる、完璧な口封じ。野盗の首領の命を奪うことだけが目的だったかのようだ。彼らが、ただの野盗に金を渡し、生きたまま捕らえられる危険を冒すはずがない。背後にいる黒幕は、口の軽い野盗に真実を漏らされることを、徹底的に警戒している。


 バッシュは、素早く状況を判断した。矢を放った相手を追うのは無謀だ。奴らは、すでにこの場から遠ざかっているだろう。そして、この場所で時間を費やすのは、新たな危険を呼び込むだけだ。


 森に響いた矢の音と、野盗の首領の断末魔は、あっという間に消え去り、再び静寂が戻った。その静寂の中、エライザの胸元で輝いていたペンダントの光も、まるで使命を終えたかのようにおさまっていた。


 エライザは、バッシュの圧倒的な剣技と、目の前で繰り広げられた一連の出来事に、ただ呆然と立ち尽くしていた。彼女の瞳は、まだその光景を映したままで、息をすることも忘れているかのようだった。彼の剣は、彼女を襲う脅威を容赦なく打ち砕き、守り抜いた。その力強さと、時に見せる冷徹な判断力は、彼女がこれまで知っていた世界とはあまりにもかけ離れていた。


 バッシュは、エライザの前に立ち、周囲の警戒を続ける。もう追手の気配はない。しかし、この一件で、彼らの旅の危険性は、より一層明確になった。

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