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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第2章 道連れ

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第2章 (2)実力

 バッシュとエライザは、宿場町ゲーテを後にし、皇国の首都バリスを目指して街道を歩き続けた。エライザの胸元では、母から託された透明なペンダントが、わずかに輝きを放っている。その輝きは、彼女を守る光であると同時に、彼らが追い求める真実への道標のようでもあった。


 街道は、次第に森の奥深くへと入り込んでいく。木々は鬱蒼と茂り、陽の光も届きにくい。昼間だというのに、薄暗い森の中は、どこか神秘的で、しかし同時に危険な気配に満ちていた。獣の唸り声や、風に揺れる木々の葉音が、旅人の不安を煽る。


 バッシュは、剣の柄に手を置き、常に周囲を警戒していた。ゲーテの町で感じた視線が、再び彼らを追っているかもしれないという感覚は、気のせいではなかった。森の静寂が、彼らの足音と心臓の鼓動を一層際立たせる。


 その時、遠くから、何かがこちらへ向かってくる気配を感じた。複数の足音。それは、獣のものではない。


 バッシュは、その気配を確信するや否や、素早くエライザの前に躍り出た。肌を刺すような殺気が、森の静寂を切り裂き、彼らの全身を包み込む。それは、人間が放つ、明確な敵意だった。


「まちぶせか!?気をつけろ!」


 バッシュの警告と同時に、左右の茂みから複数の人影が躍り出た。彼らは粗末な革鎧をまとい、手には錆びた剣や棍棒を構えている。その眼は飢えた獣のようにギラつき、彼らを獲物と見定めていた。野盗か、あるいはあの追手の一味か。いずれにせよ、彼らの目的が略奪、あるいは捕獲であることは明白だった。


 エライザは、突然の展開に息を呑んだ。だが、バッシュの背中が、彼女を完全に覆い隠すように立ちはだかっている。彼女の胸元のペンダントが、かすかに光を強めたように見えた。


 バッシュは、茂みから飛び出してきた野盗たちを一瞥すると、迷いなく腰の剣を抜き放った。刃が煌めき、森の薄暗闇に銀色の光を走らせる。


「エライザ、離れないで、大丈夫。」


 彼の声は、殺気に満ちた森の空気に響き渡り、エライザに安心感を与えた。その言葉には、彼女を何があっても守り抜くという、揺るぎない決意が込められていた。彼の瞳には一点の曇りもなく、目の前の敵を仕留めることだけを考えていた。


 野盗の一人が、奇声を上げてバッシュに襲いかかってきた。錆びた剣が振り下ろされる。だが、バッシュはすでにその動きを読み切っていた。彼はためらいなく剣を構え、迎え撃つ。その剣筋は、迷いがなく、ただひたすらに鋭い。


 バッシュの剣は、まさに力強さと正確さの塊だった。彼の剣筋には、洗練された流派の型こそ見られないものの、一撃一撃が重く、野盗たちの粗野な構えをやすやすと打ち砕いていく。


 一人の野盗が、側面から棍棒を振り上げて襲いかかった。しかし、バッシュはまるで背中に目があるかのように、振り返ることなく剣を横に薙ぎ払う。見事なまでに的を射た一撃は、野盗の棍棒を弾き飛ばし、その腕を痺れさせた。


 また別の野盗が、卑怯にもエライザへと狙いを定めた。だが、その動きをバッシュは見逃さない。彼は剣を構えたまま、まるで舞うように一歩横へ滑り、野盗の剣を軽くいなし、その懐へと踏み込んだ。そして、最小限の動きで剣を突き出し、相手の戦意を喪失させる。


 エライザは、その戦いを息を呑んで見つめていた。彼の剣は、野盗の攻撃を全て読み切り、的確に相手の急所を狙っている。まるで、彼の周囲だけ時間の流れが違うかのように、全ての動きが彼にとって有利に運んでいる。彼女は、彼の剣技が、単なる力任せのものではないことを理解した。それは、経験と直感、そして研ぎ澄まされた感覚が融合した、我流ながらも恐るべき技だった。


 バッシュの剣は、次々と野盗を退けていった。彼の剣筋はまるで生き物のように、相手の攻撃を紙一重でかわし、的確な反撃を繰り出す。一人の野盗が、バッシュの剣を恐れて後ずさり、別の野盗が怯んで武器を取り落とす。彼の剣には、相手の戦意を挫くほどの圧倒的な力が宿っていた。


 野盗たちは、彼がただの旅人ではないことを悟ったようだった。数で優位に立っていたはずの彼らの勢いは、完全に削がれていた。


 エライザは、その光景を呆然と見つめていた。故郷が襲われた時の無力感、そして森でグリフォンに襲われた際の恐怖。それら全てが、彼の剣によって払拭されていくかのようだった。彼の背中は、彼女にとって、どんな魔法よりも確かな守護の壁となっていた。


 バッシュは、野盗たちの士気が完全に失われたことを悟ると、守りの姿勢から一転、攻勢へと転じた。彼の動きは、先ほどまでの冷静な剣技とは打って変わり、まるで獣のように荒々しくなった。しかし、その荒々しさの中にも、恐るべき正確さが宿っていた。


 彼は、獲物を狩る獣がごとく、迷いなく野盗たちの間を駆け巡る。一歩踏み込むたびに、剣が唸り、狙いを定めた部位を的確に捉え、仕留めていく。それは、致命傷を与えるためではなく、相手の戦闘能力を奪い、完全に戦意を喪失させるための、容赦のない攻撃だった。


 野盗たちは、彼の剣の前に次々と倒れ伏し、森の地面に呻き声を響かせた。彼らはもはや、自身の命を守ることに精一杯だった。バッシュの剣は、彼らに残されたわずかな抵抗の意志さえも打ち砕いていった。


 エライザは、その圧倒的な光景をただ見つめていた。彼の剣は、彼女の目の前で、理不尽な暴力を打ち砕く力そのものだった。故郷を滅ぼされた時の無力感が、彼の剣によって、少しずつ洗い流されていくようだった。彼女の心に、バッシュへの深い信頼と、新たな感情が芽生え始めていた。

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