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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第2章 道連れ

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第2章 (1)新たな目的地

 宿場町ゲーテを後にしたバッシュとエライザは、街道を歩きながら今後の旅路について話し合っていた。当初の目的地は、バッシュの過去の手がかりがあるかもしれない「賢者の庵」だった。しかし、その存在は曖昧な噂に過ぎず、確かな情報がない。


「賢者に会うか…ただ噂に過ぎないかもしれない…」


 バッシュはそう呟いた。このまま不確かな情報を追うのは効率的ではない。彼の目的は、自身の指輪と刻印、そしてエライザが「鍵」であることの真実を解き明かすことだ。そのためには、より多くの情報が必要だった。


「情報が足りない…」


 彼の言葉に、エライザも静かに頷いた。彼女もまた、自身の里が滅ぼされた理由、そして「鍵」としての意味を知りたいと願っている。


 熟考の末、バッシュは新たな目的地を口にした。


「皇国の首都バリスに向かうか。」


 バリスは、アイシア皇国の中心であり、この大陸で最も栄え、多くの情報が集まる場所だ。図書館やギルド、そして様々な種族や人物が行き交う首都ならば、賢者の庵に関する手がかりや、エライザの過去に関する情報が見つかる可能性が高い。何より、大勢の軍隊が里を滅ぼしたというエライザの証言から、何らかの国家レベルの動きが関わっている可能性があり、首都で情報を集めるのが最も合理的だ。


「どうだ、エライザ。構わないか?」


 バッシュは、隣を歩くエライザの顔を伺うように問いかけた。彼女が「鍵」として追われる身である以上、大都市に向かうことは、新たな危険を伴う可能性もある。彼の問いに、エライザは一瞬考え込むように目を伏せたが、やがて顔を上げ、きっぱりと頷いた。


「ええ、構いません。行きましょう…」


 気丈に振る舞おうとするエライザに、バッシュは優しくほほ笑んだ。


 バリスへの道は遠く、様々な危険が潜んでいるだろう。しかし、二人は新たな覚悟を胸に、皇国の首都を目指して歩き出した。


 バッシュとエライザは、皇国の首都バリスを目指し、街道を歩き始めた。ゲーテの町を後にすると、道は再び森や丘陵地帯へと続いていく。日差しが強くなり、時折、遠くで鳥の鳴き声が響く。


 エライザは、新しい旅装に身を包み、慣れないながらも懸命にバッシュについていく。時折、好奇心旺盛に周囲の景色を眺めたり、見たことのない植物に目を奪われたりする。しかし、彼女の心には、故郷の悲劇と、自身が「鍵」と呼ばれる謎が深く刻み込まれており、その表情には、どこか物憂げな影も落ちていた。


 バッシュは、彼女の隣を歩きながら、常に周囲に気を配っていた。街道は整備されているとはいえ、野盗や魔獣の危険がないとは限らない。そして何より、あの冷たい視線が、再び彼らを追っている可能性も捨てきれなかった。彼の指は、時折、腰の剣の柄に触れる。


 彼らの行く手には、どのような出会いが、そしてどのような試練が待ち受けているのだろうか。首都バリスは、遠い。


 街道を歩き続ける中、バッシュの視線がふと、エライザの胸元に留まった。新しい深緑のチュニックのわずかな隙間から、小さなペンダントが覗いている。それは、里を滅ぼされた悲劇の中を生き延びた彼女が、唯一身につけている装飾品だった。


 そのペンダントは、シンプルな銀の鎖に繋がれた、いびつな形をした透明な石だった。光を浴びると、まるで内部に小さな星を宿しているかのように、かすかに輝いている。バッシュは、それが単なる飾りではないことを直感した。エルフの巫女の娘であるエライザが、幼い頃から身につけていたであろうこのペンダントには、彼女の過去、そして「鍵」としての意味に繋がる、何か重要な秘密が隠されているのではないか。


 エライザは、バッシュの視線に気づき、そっとペンダントに触れた。その表情には、どこか遠い目をして、懐かしさと、そしてわずかな悲しみが混じり合っているように見えた。


 バッシュは、エライザの胸元に輝くペンダントに視線を奪われ、思わずそのまま見つめてしまっていた。彼女がそれに気づき、そっと触れたのを見て、彼ははっと我に返った。自分の視線が、彼女を不快にさせてしまったかもしれないと、すぐに謝罪の言葉を口にした。


「すまない…つい…気になって…」


 彼の声には、好奇心と、わずかな気まずさが混じっていた。しかし、その言葉の裏には、エライザの過去、そして彼女が「鍵」であることの謎を解き明かしたいという、彼の強い思いがあった。


 エライザは、バッシュの謝罪を聞き、ゆっくりと彼の方を向いた。彼女の表情は穏やかで、怒っている様子はない。むしろ、その瞳には、何かを語ろうとするような、複雑な感情が宿っていた。


 エライザは、バッシュの視線と謝罪に、そっとペンダントを握りしめた。その透明な石は、彼女の掌の中で、かすかに温かい光を放っているように見えた。


「…このペンダントは、子供の頃に母がくれたもの…」


 彼女の声は、どこか遠い記憶を探るようだった。巫女の娘であるエライザの母。その存在は、このペンダントに込められた意味を、より神秘的なものにしている。


「貴方を守るものだからと…」


 エライザの言葉は、バッシュの胸に深く響いた。「貴方を守るもの」という母の言葉。それは、この石が単なる装飾品ではないことを示唆していた。彼女が何度も危機を乗り越え、この森でバッシュに助けられたのも、このペンダントが持つ何らかの「守護」の力によるものなのだろうか。


 エライザは、ペンダントをギュッと握りしめた。それは、失われた故郷と母への愛着、そして、これから始まる過酷な旅路における、唯一の拠り所のような存在であるようだった。彼女の瞳には、過去への郷愁と、未来への不安、そしてペンダントに込められた母の願いが複雑に混じり合っていた。


 エライザは、母から託されたペンダントをそっと握りしめたまま、おもむろにバッシュを見上げた。彼女の瞳には、言葉では表現しきれないほどの感謝と、彼への深い信頼が宿っていた。


「ありがとう…」


 彼女の声は、風に揺れる木々の葉音のようにか細く、しかし、その一言には、過酷な運命の中で出会った彼への、心からの感謝が込められていた。故郷を失い、一人で絶望の淵をさまよっていた彼女にとって、バッシュの存在は、まさに光そのものだった。あの夜の聖域での癒し、新しい装い、そして何よりも、共に歩むという彼の決意。それら全てが、彼女の心を温かく満たしていた。


 バッシュは、エライザの囁きを聞き、静かに頷いた。言葉は交わさずとも、その瞬間、二人の間に確かな絆が結ばれたことを感じていた。



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