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key〜光の先へ〜  作者: 初 未来
第6章 破滅への序曲

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第6章 (9)悲報

 グスタフが治療院に戻ったのは、夜も更けた頃だった。彼は、馬の手綱を握りしめ、まるで何かの幽霊に取りかれたかのように、静かに、しかし、重い足取りで門をくぐった。ロイドと、グラハム、そしてサヤカたちは、彼の帰りを、心配そうに待っていた。彼らは、グスタフの顔を見て、一瞬、言葉を失った。彼の顔は、土煙で汚れ、瞳は、悲しみと疲労で、深くくぼんでいた。そして、彼の隣に、シルヴァの姿がない。その事実に、彼らの心臓は、強く締め付けられた。


「…グスタフ…どうした…?シルヴァ様は…?」


 ロイドの声は、震えていた。彼の問いかけに、グスタフは、何も答えることができなかった。彼は、ただ、ロイドの顔を見つめ、涙を流し始めた。その涙が、すべてを物語っていた。


 グスタフは、そのまま、静かに治療院の中へと進んでいく。彼の後ろを、ロイドたちが、無言でついていく。誰も、口を開くことはなかった。ただ、重い、沈黙だけが、彼らの間を支配していた。


 使い慣れた治療院の控室。グスタフは、そこにたどり着くと、静かに椅子に座り込んだ。彼は、まるで、すべての力を使い果たしたかのように、力なく肩を落とした。


 ロイドは、その様子を見て、静かに、しかし、確信を込めて、尋ねた。


「…まさか…本当なのか…?」


 グスタフは、ゆっくりと顔を上げた。彼の瞳は、赤く充血している。彼は、深く息を吸い込むと、震える声で、すべてを語り始めた。


「…はい…シルヴァ様は…もう…この世には…」


 グスタフの言葉に、ロイドの顔から、一斉に血の気が引いた。彼は、その場で、よろめき、壁に手をついた。言葉が出ない。彼の心は、絶望の淵へと突き落とされた。彼は、シルヴァを、一人の魔術師として、そして、一人の人間として、深く尊敬していた。そして、彼を失ったという事実は、彼の心を、容赦なく打ち砕いた。


 グラハムもまた、言葉を失っていた。彼の顔は、深い悲しみに満ちている。彼は、シルヴァを、義父として、そして、友として、深く信頼していた。彼の死は、グラハムの心に、深い傷跡を残した。


 グスタフは、静かに、シルヴァとの最期の会話を、そして、星詠みの寺院での出来事を、すべて語った。彼が、シルヴァを一人で行かせるしかなかったこと。シルヴァが、一人で、軍隊を相手に、いかに戦ったか。そして、寺院が崩壊し、シルヴァの遺体を、彼が一人で埋葬してきたこと。


 グスタフは、語り終えると、ポケットから、シルヴァの遺品を取り出した。小さな懐中時計と、小さな人形。それは、彼の心が、まだ、シルヴァと共にあったことを示している。


「…これが…シルヴァ様の…遺品です…」


 グスタフの声は、悲痛に満ちていた。彼は、その遺品を、グラハムに差し出した。グラハムは、震える手で、それを受け取った。懐中時計は、まだ、時を刻んでいた。その音が、彼らの心を、深く、静かに揺さぶる。


 その時、グラハムが、静かに、しかし、決意に満ちた声で口を開いた。


「…シルヴァ様は…我々に、未来を託された…」


 グラハムの声には、悲しみだけでなく、シルヴァの死を無駄にしないという、強い覚悟が込められていた。彼は、シルヴァの遺志を、自分たちが継がなければならないことを、強く感じていた。


「…必ず、この悲劇を、止めなければならぬ。シルヴァ様の犠牲を、決して無駄にしてはならない…!」


 グラハムの声に、ロイドとグスタフは、静かに頷いた。彼らの心には、悲しみだけでなく、シルヴァの死を乗り越え、この国の未来を、自分たちの手で切り開いていくという、強い決意が芽生えていた。


 グラハムは、再び、グスタフに視線を向けた。


「…グスタフ、封印の地は…消されたと言うことか…?」


 グスタフは、その問いに、悲痛な面持ちで頷いた。


「…はい…寺院は…完全に…」


 グラハムは、その言葉に、深くため息をついた。彼の予感が、最悪の形で的中した。


「…そうか…これで、彼らの目的は、最後の封印の地の場所へと移行する…」


 グラハムの声が、重く響く。ロイドは、グラハムの言葉に、ハッと顔を上げた。


「…おそらく、次に狙われるのは、ここであろう…」


 グラハムは、そう言って、静かに、しかし、確信を込めて呟いた。彼の言葉に、ロイドの心臓は、激しく高鳴る。彼は、この治療院が、次の戦いの舞台になることを、悟ったのだ。


 ロイドの脳裏に、バッシュとエライザの姿が浮かんだ。彼らは、今、ローレル王国にいる。もし、この国の陰謀が、彼らにまで及ぶとしたら、彼らを救わなければならない。しかし、その前に、彼らは、この場所で、彼ら自身と、グラハムを守らなければならない。


 ロイドは、グラハムの瞳を、真っ直ぐに見つめた。彼の瞳には、もう迷いはなかった。悲しみと、そして、シルヴァの死を無駄にしないという、強い決意が満ちている。


「…はい。私も、覚悟はできています。」


 ロイドは、静かに、しかし、力強く答えた。彼の言葉に、グスタフもまた、静かに頷く。彼らは、この日、シルヴァの死を乗り越え、新たな決意を胸に、戦いの舞台に立つことを、改めて心に誓った。


 夜の闇が、彼らを静かに包み込む。しかし、その闇の中には、彼らが持つ、強い光が、静かに、しかし、確実に、燃え上がっていた。彼らの戦いは、今、まさに、始まろうとしていた。

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