【カフェ・りゅうぐうじょう】へようこそ!
それを見て、嶋子は我が目を疑った。
“何でこんな所にこんなモノが……?”
ここはとある海岸近くの空き地。そこには昨日まで何も無かった筈である。
突如現れたそれは何ともボロっちい掘っ立て小屋で、ボロボロの板にペンキでなぐり書きされた看板が、今にも落っこちるんじゃないかと思うくらいに傾いて掛かっていた。
そして、その看板には
【カフェ・りゅうぐうじょう】
と、判別が難しい程グッチャグチャな字で書かれていたのだ。
“り……りゅうぐうじょう……?”
【りゅうぐうじょう】とは……あの【竜宮城】で間違い無いんだよね……?
嶋子は、おとぎ話の【竜宮城】とは余りにもイメージが異なるその【りゅうぐうじょう】から何故か目が離せなかった。
「……お邪魔しま〜す」
結局、好奇心に負けてその掘っ立て小屋の扉をエイヤ! と押して中を覗く嶋子。
すると
「いらっしゃいませ」
と声がした。
それにホッとして中に足を踏み入れると……
「え? え?」
内装は、外観をまるっきり裏切る非常に小洒落た造りになっていた。
「は? え? 一体どうなってんの!?」
嶋子は訳が分からずにただひたすらキョロキョロと見回すばかりだった。
「……どうぞ、お好きな席へ」
マスターと思しきオジサマにそう言われ、嶋子はソロソロと手近なテーブルに腰を下ろした。
“本当にどうなってんの!?”
嶋子はまだ目の前に広がる光景が信じられない。
“ここ、何で海底みたいなのよ!?!?”
そう。外観は今にも崩れ落ちそうな掘っ立て小屋だったのに、中は何と全面ガラス張りで、まるで水族館のように外には色々な魚が泳ぎ回っているのだ。
余りにも信じがたい光景に大混乱する嶋子にマスターは
「ご注文は?」
と、実に渋〜い声で尋ねてくる。
「あ、はい!……え〜っと……」
と、ここで嶋子は困惑した。
“え? メニュー表が無い!!”
これではこの店に何があるかが分からない。
「あの……お勧めとかって、何がありますか……?」
仕方がないのでマスターにお勧めを尋ねる。
「……本日はこちらのコーヒーがお勧めでございます」
と、既に淹れ終わっていたらしいコーヒーを運んで来た。
「あ、ありがとうございます」
嶋子は礼を述べてコーヒーを一口飲んでみる。
“わ! 美味しい!!”
嶋子は特にコーヒー好きでは無いが別に嫌いでもない。
故にコーヒーの銘柄など碌に知らないが、このコーヒーは後味がスッキリしていて非常に飲みやすい。
“これにフレンチトーストとかパンケーキとかがあったら最高だな”
な〜んて思っていると
「こちら、当店自慢のサンドイッチでございます」
と、特に頼んでいないのにサンドイッチが出て来た。
“わ! 美味しそう!”
出て来たサンドイッチは具沢山かつ彩り豊かで、非常にボリュームがある。
ここでお腹がグ〜ッと鳴った。
“そういえば今日、お昼食べ損ねたんだった”
今日は仕事でトラブルがあり、その処理の為に走り回っていたので昼食を食べていなかった事を思い出した。
“いただきます!”
嶋子は夢中になってサンドイッチを平らげた。
「ふう。ごちそうさまでした」
嶋子はサンドイッチを平らげ、食後のコーヒーを飲んだ後
「お会計をお願いします」
レジが何処だか分からなかったので、マスターにそう声を掛ける。
「ありがとうございます。✕✕✕✕円になります」
嶋子は会計を済ませ、店を出る。
そして
「あれ?」
嶋子は再び我が目を疑った。
「お店が……無くなってる……」
何気なく店の方を振り返ると、今出て来たばかりの【カフェ・りゅうぐうじょう】は跡形もなく無くなっており、そこにはただ空き地が広がっていた。
本作をお読み頂きありがとうございました。