表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼氏に言われました。ゲームは人生、縛りプレイは許さないと。なので、わからせることにします。

作者: 猫長明

 なんとも評価が難しいMMORPGがある。


 ストーリーはユーザーの95%が「人生最高」と評する傑作。

 新規イベントは毎月。

 その都度新シナリオと新ダンジョンが公開。

 やり込み要素もあり戦闘システムも飽きさせない。

 インターフェイスもよく考えられた便利なデザイン。

 サーバー落ちは一度も起きておらず不正対策も万全。


 そんなどう考えても傑作なのだが。


 レアドロップの確率が平気で1万分の1。

 最強装備はガチャ産。

 しかもそのガチャの確率も渋く天井もない。


 プレイすれば確実な人生の満足が約束される。

 だがユーザー人口の増加率は低い。

 そのMMORPGの名は。


 Vulpes et UVA(狐と葡萄)、通称VUVA。


 そんなVUVA内のトップクラン、WORKS。

 クランの標語は「VUVAは人生」


 毎月一定以上のやり込みを要求。

 ノルマ未達成者は容赦なく退団させられる。

 だがVUVAの毎月の上位クラン報酬は凄まじい。

 故に誰もがWORKSへの加入を目指している。


 そんなVUVAのクランリーダー、銀。

 ゲーム内ランキングでも常に上位2桁。

 そのプレイスタイルはお世辞にも良いとは言えない。


 評判の良くないクエストも報酬が良ければ周回。

 不正スレスレのプレイヤーチートも平気で利用。

 銀に嫌気が差しWORKSを脱退するメンバーがいるほどだ。

 彼は言う。


「本気でやるやつだけが楽しめるのがこのゲームだ。

 強くなるため、楽しむために手段を選ぶな。

 勝手に縛りプレイをはじめるやつとは遊べない。

 VUVAは、人生だ」


 ある意味VUVAの理念に適合している。

 だが彼は1つだけ不公平な点がある。

 それがWORKS内に1人だけ居る特別役職。

 プレイヤー名、フミ。

 彼女だけにはクランのノルマが無い。


 どうやら彼女はリアルで銀と同棲している彼女らしい。

 ようするに身内びいきだ。

 そんなこともまた銀を嫌なやつに感じさせている。


「ごめんねぇ。私だけ特別扱いされてて。

 忙しくてなかなかログインできないのよ。

 ほんとは脱退させてもらうよう銀に頼んでるんだけど」

「いやいや! フミさんは悪くないですよ!」


 しかしこのフミ、非常に人が出来ている。

 がつがつしたクランにおいて1人だけ空気が違う。

 それもあってフミの評価は悪くない。

 むしろ彼女こそが銀の最大の被害者だと思われている。


「フミさん、その、相談が……」

「また銀が酷いこと言ってるの?」

「はい、実は……」


 かくかくしかじか。


「それは酷いわね。

 私がちゃんと文句言っておくわ」

「ありがとうございます!

 それで、俺、今月のノルマが」

「それはダメね」


 と、良き相談役ではあるがノルマだけは許さない。

 自分だけはノルマを守れていないのに。

 それがフミの唯一最大の欠点。

 それ以外が完璧故に有耶無耶にされている。


 そんなクランでついに革命が起きる。

 いくらなんでも銀の横暴が過ぎたのだ。

 PVPエリアに誘い込まれた銀を取り囲むメンバー。

 このまま数の暴力で格上の銀をPKし資産を奪うつもりだ。


「てめぇら! 本気か!?」

「本気ですよ。だって銀さんいつも言ってますよね。

 楽しむため、強くなるために手段を選ぶなと。

 嫌なあんたを倒し俺達は強くなる。

 一石二鳥じゃないですか」


「それでもゲーマーの良識ってもんがある!

 人から一方的に奪う非道は認められない!」

「へぇ、それは銀さんがいつも言う縛りプレイでは?」


 完全にブーメランが決まっている状況。

 しかもその反乱軍の先頭に立つのが。


「ごめんねぇ。

 でも、銀は少し痛い目を見るべきよ」


 特別役にして同棲中の彼女、フミである。

 これには銀も文句を言えない。


「わかった……

 なら、ゲームらしく決着をつけてやる!」


 銀は武器を構えた。

 1対多の状況だが、銀の装備は最上級。

 当然プレイヤースキルも高い。

 彼はわずかながらにも勝算が見えていた。


 当然銀は苦戦する。

 だが、虎の子の蘇生回復役を湯水のように使用。

 文字通り手段を選ばずこのピンチに向き合う。

 彼は彼で己のルールを貫こうと戦った。

 そして反乱軍は残り、フミただ1人である。


「俺の勝ちだ。

 フミ、今ならまだ無かったことにしてやる」

「そういう私への特別扱いも今回のきっかけよね」

「わかってる。だが俺には俺のルールがある」

「……本当、一番縛りプレイをしているの、あなたよね」


 そういってメニューウィンドウを開くフミ。




 装備変更。




 目の前で全身の装備を入れ替えたフミに銀は顎が外れる。


「お、お前! その装備は!?」


 盾、ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 兜、ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 鎧(上)、ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 小手、ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 鎧(下)ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 靴、ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 アクセ(スロット1)ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 アクセ(スロット2)ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.1%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 ここまで入手確率を95%で計算して。

 総課金額、約1200万円。


 さらに。


 剣。ガチャ産SSR。

 ※10連1000円のガチャから0.01%排出。

  最強状態まで4個を合成。


 入手確率を95%で計算して。

 1本1497万8000円。


「バカな! ありえない!

 八王子のボロアパート家賃4万で俺と暮らしてるのに!」

「本番無しのマッサージ店で働いて種銭を集めつつ勉強して投資をやったの」

「何故俺に黙ってそんな無駄遣いをしたんだ!」


 フミは笑って答える。


「楽しむため、強くなるために手段を選ばない。

 VUVAは人生。縛りプレイをしない。

 そして、人から一方的に奪う非道も認めない。

 すべて、あなたの言ったことだわ」




~~それから30年後




「俺達、来るところまで来たなぁ」


 30年前。

 PVPエリア、もとい、八王子の安アパートで人生が変わった。

 フミの商才。銀の熱意。

 2人はベンチャー企業を起こし、今やその総資産額は2人あわせて数千億円。

 都心のタワマンから都会を見下ろして銀は言う。


「そうね。そろそろ、好きなことにお金を使ってもいいかもしれないわ」


 そういってフミは笑い。


「金に糸目をつけない、最高のMMORPGを作りましょう」


 銀は答えた。


「制作費回収のため、ガチャはめっちゃ渋くしないとな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ