005
投 宮部 裕太 1年 ユータ
右投右打 176cm 65kg
捕 早乙女 颯 2年 ウー先輩
右投右打 177cm 78kg
一 小林 賢 2年 コバケン先輩
右投右打 169cm 70kg
二 土屋 春馬 1年 ツッチー
右投左打 162cm 49kg
三 馬渡 彰 1年 アッくん
右投右打 182cm 71kg
遊 織田 光成 1年 ミッチー
右投左打 161cm 48kg
左
中
右
マ 咲良 小春 2年 コハル先輩 159cm
マ 望月 秋葉 1年 アキバちゃん 152cm
サ 七瀬 千夏 中2 147cm
本格的に過去が変わり始めたことを実感した高校1年の12月25日。
一階のキッチンでは、夜勤明けでつい先程まで寝ていた母さんが夕飯の支度を始めていた。
プリン頭の金髪は、寝癖でぐしゃぐしゃに乱れている。
換気扇が回る音、包丁がまな板を叩く音、漂ってくる美味しそうな匂い――その全てが懐かしく、その全てが愛おしい。
若い時は当たり前と思っていたこの風景。
今ならマザコンと呼ばれたとしても、はいそうですと頷く程に母親の有り難さを感じている。
「千夏、遅くならないうちに帰れよなー」
エプロン姿の母さんが、背中越しに俺と千夏に話しかける。
「えー、帰っても暇だし」
「どーせ明日も明後日も遊びに来るからいいだろ。昨日は泊まりで家帰ってないんだから、あんま親に心配かけんな」
「……はーい。あと1時間くらいしたら帰るー」
「寒いし暗いから、ユータ送って行けよ」
「うん……」
母さんとの会話は少し恥ずかしい。
俺は約20年振りに見る母親に、どういう態度で接すればよいのかまだ要領を掴めずにいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二階にある俺の部屋に入ると、千夏がいきなり抱きついてきた。
そして、満面の笑顔を俺に向ける。
「野球部、なんとかなりそうじゃない?」
「そうだな。でもどうしてお前が誇らしげにしてんだよ」
「あ? 私がゴリラ先輩に連絡しろって言ってやったからだろ?」
自分の手柄を自慢するように、抱きついたままぐりぐりと頭を押し付けてくる。
なるほど、そういうこと?
俗に言うイチャイチャタイムってやつ?
「千夏様のおかげだな」
「そうだろー? 感謝しろよなー」
「でもゴリラって言うのはやめろ」
「えー、本人の前では言わなかったから」
笑いながら、次第に俺たちは絡み合い、ゆっくりとベッドに倒れ込む。
「あー、早くユータが野球してるところ見たいなー」
「冬場は肩使わない練習ばっかだけどな」
「そんなのどーでもいいの。帽子被って、ユニフォーム着て、私を甲子園に連れて行くために一生懸命頑張ってるユータが大好きなの」
「それ、言ってて恥ずかしくないわけ?」
「恥ずかしくないし。私はあの時……甲子園に連れて行ってやるって言ってくれたユータに惚れたんだから」
あの時って、どの時だろう。
「だから、もう野球諦めるとか言わないでね……」
「ああ、言わない」
過去を変えるチャンス、諦められるかよ。
一瞬、千夏は暗い表情になったが、すぐに夏の太陽みたいな笑顔に戻った。
「ありがとう。ユータ、大好き」
やばい、幸せだ。
おそらく俺の家庭は裕福ではないが、それでも、たった1人、母さんが働いてくれているから、高校に行くことができて、野球を続けることができている。
それに、卒業後は大学まで行かせてもらったことを、俺は過去の事実にとして知っている。
社会人になるまで育ててくれて、俺は金に困ることはなかったが、金では買えない大切な何かを失っていた。
母さんがいて、千夏がいて、野球部のメンバーも再び集まることができて――今、心が満たされていることを実感できる。
「ありがとう、千夏」
お互いに目を閉じる。
もう、そういう流れ、そういう雰囲気であることを拒むことはできない。
俺は千夏の後頭部と細い腰を抱き込み、千夏は俺の服を固く握りしめる。
昨晩はしばらくキスをしないと怒っていた千夏も、今は自然に身を任せている。
俺たちは磁力のように惹かれ合う。
そして唇が触れ合った途端、身体にバチっと電撃が走った。
ゆっくりと目を開ける。
目の前には、大人になった千夏がいた。
現代にタイムリープしたのだ。
母さんが亡くなって、実家の片付けを手伝うために千夏が訪れてくれたあの日に戻ってきた。
千夏が仏壇にあげてくれた線香はまだ煙が立っている――つまり、俺は過去に戻って1日過ごしてきたのに現代では数分も経過していないというわけか。
「……あれ、私、どうしちゃったんだろ」
なにやら戸惑った様子で千夏は周りを見渡している。
「ごめんユータ、変なこと言うけど怒らないでね? 今思い出したっていうか……急に記憶が蘇ったというか。あるはずのない記憶が、まるで本当だったようにはっきり覚えているの……」
次の千夏の言葉に、俺は驚愕した。
「すごく悲しい過去……私が中学2年のとき、ユータがおかしくなっちゃって、別れた記憶があるの。そんなわけ、ないのにね……」
現代に戻る前の千夏は、あのクリスマスの日に別れたと言っていた。
千夏の記憶が入れ替わっているんだ。
そしてどういうわけか、入れ替わる前の記憶を千夏も共有している。
未来が変わったんだ。
「千夏、俺も変なこと言うけど驚かないでくれ」
「……うん」
「さっきまで、高校1年だった過去に戻っていたんだ。千夏が中2で、俺が高1のクリスマス。本当はそこで別れるはずだったけど、過去に戻って別れない未来に変えたんだよ」
「……うん?」
「千夏とキスしたらタイムリープできるんだよ!」
「うん!? ちょっと待って、どういう意味?」
合理的な説明はできない。
でも、事実だ。
嬉しい――過去を変えれば未来が変わることが証明されたんだ。
「さっき千夏も言ったじゃないか! 中2の時に俺と別れた記憶があるって。キスする前の千夏があのクリスマスの日に別れたって教えてくれたから、その過去を変えたんだよ!」
「……本気で言ってる?」
「本気だよ。だからもう一度キスさせてくれ」
「え……ん!? どゆこと!?」
千夏が言い終わる前に、その唇を塞ぐ。
身体に電撃が走る。
恥ずかしそうな顔で睨みながら、仰向けに転がる中2の千夏がそこにいる。
そして、グーパンチが俺の顔面を捉えた。




