001
12月25日の朝。
千夏とのキスで高1のクリスマスイブに戻ってから一晩過ぎた。
鏡に映る自分の姿は高校生の頃のまんまだし、若く体力があるせいなのか、体は嘘のように軽い。
本当にタイムリープしているんだなと今更ながら思う。
寝室には中2の千夏がまだ寝ている。
家が近所だからとはいえ、年頃の女子が彼氏の家に寝泊まりすることを許すなんてどうかしている――と思うのは、俺が中年のオッサンだからだろうか。
よし、この若い体を楽しむとするか。
寒空の下、白い息を吐きながら田舎町を軽く走り込む。
びっくりするほど疲れない――若いって素晴らしいな。
程よく体が温まってきたところで家に帰ると、千夏と母さんが朝飯を食べている。
千夏と母さんが、朝飯を食べている!?
「……母さん?」
平成初期のヤンキーのような、金髪のプリン頭が懐かしい。
「お、ユータ。どこ行ってたの? 私、夜勤明けだから飯食ったら寝るわよ。あんたも早く食べて、千夏と遊びに行ってこい」
「……母さん」
「ん、どした?」
母さんが、生きている。
最後に見た母親は、白髪混じりの痩せ細った顔に、白い布を被せられた姿だった。
この頃は、今の俺より年下ということもあり、違和感はあるものの、唯一血の繋がった母であることに間違いはない。
気を緩めると、たぶん泣いてしまう。
歯を食いしばり、気丈に振る舞う。
「……ただいま、母さん」
「うわ、きもちわる。なんだその態度、なんか欲しいもんでもあんのか?」
母さんがいれば、欲しいものなんて何もない――とは口が裂けても言えないが、心の底からそう思う。
「おばさん。ユータね、また野球始まるらしいから、道具かなんか欲しいんじゃない?」
千夏が味噌汁を啜りながら行儀悪く話す。
「私のことは姉さんって呼べって言ってるだろ。まだおばさんって歳じゃなくない。なあ、ユータ? てゆーか野球、頑張れよ。なんも買わんけど」
「そうだぞ、ユータ。まずは気合いと根性で仲間集めからだ。私も手伝うから」
「いや、野球の話はどうでもいいから、ちゃんと姉さんって呼べよ。お義母さまでもいいぞ。どーせそのうち結婚すんだろ?」
「まあ、そうなったらお義母さまって呼ぶよ」
「否定しないのかよ。ところで千夏、昨晩はどうだったのよ」
「べつになーんもないよ」
「ほんとかぁ?」
おい、俺の存在は無視か?
というか何だこの幸せ溢れる日常は――千夏と付き合っているし、何より母さんが元気に生きている。
「……母さん、腹減った」
「テキトーに作ってるから勝手に食え。私は寝る。うるさいの嫌だから食べたら千夏とどっか遊びに行ってこい」
何もかもが懐かしい。
昔からこんな感じの母さんだったな。
現代で千夏が言っていた、クリスマスの日に別れたって話もどうやら変わっているようだし、過去が変われば未来も少しは変わっているのだろうか。
早く未来を確かめたい。
そしてまた過去に戻ってきたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
家の鍵閉め、千夏の家に向かう。
千夏は俺が朝飯を食べている間に一度着替えるために近所にある自宅へ帰っていた。
俺の家に泊まる時は学校の制服とパジャマしか持ってきてなかったからな。
千夏の家は大きな農家で、家も庭も馬鹿みたいにデカい。
というか田舎あるあるで農家さんちは大抵デカいし広い。
「お待たせー」
外で待っていると小走りで千夏が現れる。
頭の中は中年のオッサンだが、心と体は青春時代に戻ったように若々しい。
「外寒っ! 遊びに行くのなし! 私の部屋で作戦会議しよ!」
「えー、なんのだよ」
「仲間集めの作戦会議!」
若いくせに寒さに負けた千夏に背中を押され、部屋に連れ込まれることとなった。
しかし、ここで野球部を存続させることが出来るなら、本当に未来は変わるかもしれない。
そう思うと、内心やる気に満ちている自分がいることを否定できない。
「達成したい目標に向かって作戦を練ることは大事だが、何よりもまずは現状を把握することが最も重要だ。現在位置が分からないんじゃ、何をどのくらい頑張ればいいか分からないからな」
「おぉ。ユータ。なんか頭良さそうに見える!」
頭の中はサラリーマンだ、そこらへんの高1の男子とは訳が違うぜ。
「で、今部員誰がいんの?」
「え、それ私に聞く?」
困った。
高校3年間ともに過ごした仲間というならいいが、約20年前に半年ちょっと一緒に野球やったメンバーなんて覚えていない。
しかも、灰色だった高校時代の記憶は俺の中で抹消されているに等しい。
「千夏……一旦、休暇しない?」
「野球やる気あるぅ!?」




