キスをするとタイムリープする能力
ついさっき夢で見たあのクソガキが――14歳の千夏が、仰向けに倒れる俺の胸に飛び込んできた。
ははーん。もしかして、そういうこと? 馬鹿でも気付くよなぁ? この違和感に。
あの雷に打たれたようなバチっとくる衝撃は何だ?
しかも、千夏とキスをした途端にこれだ。
「なあ、千夏」
「……ちょっと待って。さすがに恥ずかしいかも」
このガキは耳で赤くして本気で恥ずかしがっているようだ。
状況から見るに、お前が押し倒してきただろうに、なんで恥ずかしがってるんだ。
「キスしていいか?」
「待って待って! まだ心の準備できてない! ほら、私背も低いし、まだ中2だし! ユータが高校で普段見てる女と比べていろいろ子どもかもだよ!?」
俺の胸の上で暴れる千夏を強引に抱き寄せる。
少し涙を浮かべて、顔を真っ赤にした千夏が驚いたように大きく目を開く。
バチっと身体の中を稲妻が駆け巡る感覚。
やっぱりそうだ。
目の前にいるのは大人の千夏――キスをすると、今と昔が入れ替わっている。
「悪い千夏、ちょっと確かめさせて」
「え、あ……うん」
困惑した表情の千夏を他所に、体を抱き寄せてキスをする。
また、身体に電撃が走る。
そして目の前には、中2の千夏がいる。
「夢じゃない……」
「とぼけてんじゃねーよ! ちょっと待ってって言ってるだろ!?」
千夏のグーパンチが飛んでくる。
「痛い。てことは、現実だ……ッ!」
「現実だよ馬鹿!」
「……千夏、もう一回、確かめさせて」
「ひぃっ!」
中2の千夏にキスをする。
目の前には大人の千夏がいる。
「やっぱり……」
「……あの、ユータ? なんか目が怖いんだけど」
大人の千夏にキスをする。
目の前には、中2の千夏がいる。
「おいユータ、謝るなら今のうちだぞ」
なるほど、タイムリープってやつか。
どういう理屈か分からないが、千夏とキスをすることで今と昔を行き来することが出来るらしい。
しかも、千夏が言っていた、俺たちが別れることになるクリスマスの日に。
でも、なぜだろう。
別れるような雰囲気ではないと思うが……。
「なあ、千夏」
「……なんだよ」
「俺のこと、好き?」
「それずるくない!? 好きに決まってるだろ!? でもそれとコレは別!」
口調は怒っているが、今も俺の胸に抱き付いているし、とても嫌われているようには感じない。
この後、なんで別れることになってしまうんだ。
「……まあ、もういいけど。それよりさ、ユータ。野球、どうすんの? 本当にやめちゃっていいの?」
そっか……、3年の先輩が抜けてから部員が少なくなって、もうこの時は野球やってなかったんだっけ。
「ユータ、本当は野球続けたいんじゃないの?」
これってもしかして、過去に戻って未来を変える的な展開だったりする?
「んー、そうだなあ。とりあえず人数集めからやってみるか」
「ほんとに!? 嬉しい! 私にも何かできることあったら言って!」
よし、これで未来は変わっているのだろうか。
あまり覚えていないが、昔の俺は高1までしか野球やってなかったけど、部員の数を確保できれば練習も試合もできるしな。
「そしたら千夏」
「お、早速なになに? なんか手伝おうか?」
「キスさせてくれ」
「……そうじゃねーだろ」
怒った千夏の頭突きが俺の顎を直撃する。
「待て、怒るな千夏。変な意味じゃないぞ、ちょっと確かめたくてさ」
「確かめるって何をだよ! どう考えても変な意味じゃねーか!」
ああ、そっか。
俺がタイムリープしていることは千夏は知らないのか。
「千夏とキスすると未来に帰れるんだ」
「は? てめー頭大丈夫か?」
「だからキスさせてくれ」
「だめ! しばらくはキスしない! ユータが暴走するから!」
「え、それは困る」
キスしないと未来に戻れないじゃないか。
「おいこらエロ河童」
「ひでぇ言われようだな」
「とにかく! しばらくキスしないからね!」
未来の様子を見に行けないのは困るが、しばらくって千夏も言っていることだし、キスさせてもらえるまでの間、高1の俺を過ごしてみることにした。




