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投 宮部 裕太 1年 ユータ

  右投右打 176cm 65kg

捕 早乙女 颯 2年 ウー先輩

  右投右打 177cm 78kg

一 小林  賢 2年 コバケン先輩

  右投右打 169cm 70kg

二 土屋 春馬 1年 ツッチー

  右投左打 162cm 49kg

三 馬渡  彰 1年 アッくん

  右投右打 182cm 71kg

遊 織田 光成 1年 ミッチー

  右投左打 161cm 48kg

マ 咲良 小春 2年 コハル先輩  159cm

マ 望月 秋葉 1年 アキバちゃん 152cm

サ 七瀬 千夏 中2 147cm

 新年、1月1日――天気は快晴。

 窓からは輝く陽の光が差し込み、新しく生まれ変わった野球部が活動を始めるには最高の日となった。


 今日という日が待ちきれず、変にそわそわして昨晩はよく寝付けなかったが、不思議と寝不足感はなく、むしろ体のコンディションは絶好調だ。

 中年のオッサンが16歳の若い体に戻っているからという理由だけではない。

 当然それもあるだろうが、これから本格的に野球部活動が始まるという衝動が、俺の心と体を突き動かしている。

 こういう胸の高鳴りは、大人になってからは味わうことができない。


 学校のグラウンドに集合するのは13時。

 今は朝の8時前。

 やべえな、ワクワクが止まらねえ。


 リビングのテーブルに置いてある重箱には、昨晩母さんが作っていたお節料理が入っている。

 涙が出るほど幸せな新年を迎えた。

 大人になってからは、一人寂しく古いアパートで正月番組を見ているだけだったから、懐かしいというより、慣れない光景だ。


「お、ユータ起きてきたな」


 プリン頭の金髪をわしわしと掻きながら母さんがキッチンから顔を出す。


「喜べ、お年玉やるぞ」


 そう言うと母さんは自室に戻り、ラッピングされた箱を持ってきた。

 お年玉というより、プレゼントと言った方が正確かもしれないが、そんなことはどうでもいい。


「千夏が選んだから中身は知らんけどな」


 あまりにも幸せで、嬉しいはずなのに、すぐには感謝の言葉が出てこない。

 無言のまま箱を開けてみると、中にはランニングシューズが入っていた。


「へー、かっこいいじゃん。それ履いて頑張れってことだろうな」


「……母さん」


「ん? 礼なら千夏に言えよ。いつだったっけ? ユータがまた野球始めるって千夏が言ってただろ? だから私は千夏を年末大セールに連れて行ってやっただけだ」


 12月25日の朝、夜勤明けで母さんが帰ってきた時のだ……。

 なるほど、これは母さんからのクリスマスプレゼント兼お年玉ってわけか。

 口では何も買ってやらんとか言っていたが、こういうのを母の愛情と呼ぶのだろうか。


「……嬉しいよ、ありがとう母さん」


 母さんの顔を見ると泣いてしまいそうだったから、俺は背を向けてしまう。

 いつか面と向かってありがとうと言うから、もうちょっと待ってほしい。

 今はまだ、恥ずかしくて言えないから。


 母さんと二人、ゆっくりお節料理を食べる。

 会話は少ないが、温かい家族の温もりを感じることができる。

 二人暮らしにしては広い家。

 裕福ではないが、不自由でもない。


 過去に戻って体は高1の若造だが、当然俺の中身は30代後半のオッサンなので、落ち着いて今あるこの幸せを噛み締めていると、見た目も中身もクソガキのあいつがやって来た。


「あけおめー!」


 勢いよく玄関を開け、足音を響かせながら近づいてくる。

 久しぶりに聞いたけど、"あけおめ"って令和では死語になってる?


「まったく千夏、正月の朝くらい家でゆっくりしてろよな」


「あ、おばさん! ことよろー!」


「いや話聞けよ。つーか、おばさんはやめろ」


 "あけおめ"が死語なら、"ことよろ"もたぶん死語だろうな。


「ユータもことよろー!」


 年相応の可愛いクソガキ。

 いつから付き合っているのか知らない俺の彼女――千夏はリビングに入ってくるとすぐに俺の手を引いて立ち上がらせようとする。


「ほらユータ、お年玉あげるから私の家まで走っていくぞ! 早く着替えろ!」


「ユータ、千夏んち行ったらちゃんと挨拶しろよ。私は正月ダラダラ過ごすから一歩も家から出ないけどな」


 まるで現代の俺を見ているようだが、母さんはいつも頑張って働いてくれているから、ゆっくりできる時くらいはそうさせてあげよう。


 笑顔の千夏に急かされるまま家を出る。

 千夏の家の、でっかい農業倉庫の前に案内されると、そこには千夏の親父さんが待っていた。


「ユータ、待ってたぞー」


「……あ、明けましておめでとうございます」


「がはは! なんだなんだ、かしこまって!」


 千夏の親父さんは、田舎の農家のおっちゃんにありがちな、下品でガサツな人という印象で、昔から俺は苦手意識がある。


「お父さん! 早く早く!」


 千夏は幼い子供のように飛び跳ねて、父親に何かを急かしている。


「ユータ、驚くなよ? 俺と千夏からのお年玉だ!」


 親父さんが勢いよく倉庫を開けると、息をするのを忘れるくらいの感動が目の前に広がっていた。


「じゃじゃーん! どうだユータ、これでもう私を甲子園に連れていくしかなくなったぞー!」


 そこには、お手製のバッティングネットと特設のピッチャーマウンドがあった。


「ちなみにマウンドは移動式で、使わないときは端っこに片付けられるぜ! すげーだろ、俺に惚れんなよ? 千夏に怒られるからな、がはは!」


 いや、マジですげぇ。

 馬鹿デカイ農業倉庫があるとはいえ、娘の彼氏のためにこんなサポートをしてくれるなんて尋常じゃない。


「……親父さん、ありがとうございます」


「礼はいらねえよ。ほら、軽く投げてみろ」


 俺は素手でマウンドに、親父さんはグローブを持ってキャッチャーボックスに向かう。

 その様子を、千夏は目を輝かせて眺めている。


「軽くキャッチボールするだけだぞユータ。冬に肩使って故障したら困るからな」


 約20年の時を遡って当時の感覚が戻ってくる。

 ボールを握る感触、マウンドからの眺め、心地よい緊張感。

 勝手に体が動く。

 ゆっくり左足を上げ、胸を反り、右腕を振り抜く……!

 体重が右足から左足に乗り、腕がしなって、指先にボールがかかる――。

 パァーン! と、最高の捕球音が倉庫に響く。

 これだ……この乾いた音が、ピッチャーという人種を最高に興奮させるんだ……ッ!


「いやー、やっぱいきなり現役高校生の球捕るのは怖えな。ていうか軽くキャッチボールって言っただろ、まあまあ強めに投げやがって」


 そう言いながら、親父さんはゆっくりマウンドに歩み寄って、俺の右手にボールを手渡す。


「どうだユータ。最高のマウンドだろ?」


「はい、ありがとうございます」


「暖かくなってきたらキャッチャー道具揃えないとなー。さすがに硬球捕るのは怖えよ」


「……親父さんが、受けてくれるんですか?」


「あ、お前バカにしただろ。俺も高校まで野球やってたかんな? いつでも投げに来い。バッティングなら千夏がトス上げるから勝手に使え、硬球は危ねえから無理だけど、練習用に穴あきボールなら100球あるぜ」


「ありがとうございます。でも……俺のためにどうしてそこまでしてくれるんですか?」


「がはは! 全部買ったのは千夏だ。小遣い貯めてたんだとよ。我が娘ながら最高の彼女だろ?」


「……はい」


「千夏泣かせたら殺すぞ」


「えっ!? いや、そんなことしないですよ!」


「がはは! 冗談だよ。でもちゃんとゴムは着けろよ?」


「え、な、何の話ですか!?」


「隠すな隠すな、男同士じゃねーか! 若えってのはいいよなー。3回戦くらい余裕だろ? やっぱ制服でってのが学生の頃の楽しみだよな?」


「……いや、俺たちはまだ何も……」


 やっぱり、この人は苦手だ。


「こらー、喋ってないで早く投げろー!」


 ナイス千夏、マジで助かった……。

 その後も親父さんと軽くキャッチボールをした俺はお礼の挨拶をして家に戻る。

 ちなみに千夏も一緒だ。

 いい具合に体も温まった。

 昼飯を食べたら、いよいよ野球部の活動開始だ!

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