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ガラスのくつ〜いつも無邪気を装い顔合わせのたびに部屋へ入ってきて相手の関心を誘ってわざと失敗させ、私のお見合いを邪魔する姉が嫌いなのですが〜

作者: リーシャ

アイナの人生が変わったのは、父が再婚した時だった。


まさに不幸の始まり。


コイスイという街にずっと住み、変化など知らない人生。


大体は、変化というものに弱い一人っ子だから、とても戸惑っていたのをぼんやりと覚えている。


再婚に伴って姉も、同時にできてしまったのだ。


誰だってこうなれば混乱する。


そして、一人っ子には体験のない我慢をいくどとなく、強いられた。


普通立場は逆だろ、と思った。


父も義母には弱いのだろう、デレッとしている馬鹿夫婦だ。


姉は初対面では普通だった。


けれど、親のいない所でアイナをパシリの様に扱う。


まさに某童話のように。


辟易としながら、姉の言うことを聞き流すと「我が儘な妹」だと言われた。


どっちが我が儘だと言いたくなる横暴さである。


姉は巧みに、いい子と悪女を使い分けて振る舞った。


しかも、姉は血が繋がっていないので似てないが、所謂美人だと言われ持てはやされる。


そして、連れ子は向こうなのに姉妹というだけで似てないだのお姉さんの方がよくできるだの意味の分からない比較をされた。


親達は、子供の自分達を差別するなんてことはしなかったが、それでもやはり色々と支障は出てくる。


世の中は他人だらけなのである。


だから、比較されてこちらはできのよくない方と言われるのはテンプレートとなった。


学校なんて、好奇心と思春期の溜まり場だったので、耳を傾ければ比較する声は止まない。


自分を見てくれる人が現れるのを諦めた。


できるだけ、姉と関わらずに生きていきたいのに、姉が無理矢理介入したりアイナを引き立て役にする。


前に彼氏と付き合っていたことがあるのだが、姉とたまたま(きっとわざと)町で会った時に彼氏は彼女に惹かれてしまった。


そして、別れる決定的な理由は「好きな人ができた」である。


姉に印象を悪くしたくないのか、口止めをしてくる彼も居た。


二人目だった。


三人目はもう引っかからせないと思って頑張っても彼は引っかかってしまう。


しかも、姉に心を奪われたのを感じて別れ話をいつ言われるのかと待っているとなかなか来ないので様子を見ると、どうやら姉に近付く為に別れないままアイナをツールにしているらしい。


これは流石に自分勝手だと憤ってこっちから振ることにした。


別れる際に姉との繋がりを無くすのが嫌なのか断ってきたが「好きな人居るんでしょ」と投げつけると黙ったので決定打である。


もう誰とも付き合わないと決めて学生時代を過ごして数年後。


現在お見合いの席にて座らされている。


何故こんな無駄なことをしているかというと、父が持ってくるのだ。


いらないと言うのに彼は「このままじゃ行き遅れるぞ」と焦り気味に迫ってきて余計な真似をしてくれる。


このお見合いも三度目だ。


いや、四度目だったかもしれない。


曖昧な記憶にぼんやりしていると「遅くなりました」と清楚な声が聞こえた。


ここは、何処かのご飯を食べる少し高めの店らしく和風な感じで、自身の姿も着物である。


声が聞こえて、入り口に人が入ってくると男性の視線がそこへ縫いつけられるのを感じて、今回もかと内心反吐が出そうになった。


「初めまして。姉のユズリです」


する必要がなんら感じられない、気合いの入った化粧をしてくるなんて、とても計算高い。


一体誰がこの場所を教えたんだと思った。


きっと彼女の母親らへんが教えたのだろうか。


色々考えてから「もう始まってるからユズリさん」と言ってみる。


すると、彼女はムカつく程シラを切った。


「あら、それは知らなかったわ。お邪魔しました」


「あ、ま、待ってく」


言いかけたのは真ん前に居るお見合い相手だ。


話す相手を間違えている。


姉と言ったときにこちらを向いて密かに顔を見たのもちゃんと理解していた。


この人はもうお見合い相手として成立しないと。


冷ややかな目で姉のユズリを止めた男を見ると男性は気まずげに目を逸らす。


ユズリはさっさと退出した。


今頃嘲笑っていることだろう。


その狡猾さに不味い唾を飲み込む。


「あの……貴女のお姉さんはお幾つで?」


「私よりも二つ上です」


「成る程。お姉さんはとても聡明そうな方ですね」


惚れ惚れと言う男に冷たくなっていく頭。


「それに、とても丁寧な方で。何というか……」


勝手にベラベラと話す男の話しを聞き流すことにした。


そういう言葉は遠の昔に聞き飽きている。


「同じ家に住んでおられるので?」


「……私ですか?」


「え?貴女のお姉さんですが」


「共に住んでおります」


段々、声に覇気がなくなっていく。


「ほぉ……家事はなさるので?」


「姉のことでしょうか」


もう、こちらのお見合いの会話ではなくなってしまった。


「勿論です」


(言い切ったなこの人。私がお見合い相手ってことすっかり忘れてる)


話題はもう姉のユズリのことだ。


少しもアイナのことを聞いてこない。


既に彼の頭の中はユズリについて、ユズリの顔について、ユズリのことのみしかなさそうだ。


この経験を、もう三回も繰り返すと泣きたくなるのはなんら可笑しくないだろう。


でも、決して泣かない。


こういうことも、こうなることも既に覚悟していた。


自分の人生の伴侶すら満足に探せない。


だからお見合いなんてしたくなかったのだ。


お見合いのセッティングも、この男も、最早何の価値もない。


俯いているとまた聞いてくる男に微笑んだ。


「そんなに知りたければ私とではなく姉とお話しになればいいのでは。お邪魔なのは私のようですからね」


嫌味を残して立ち上がり目を点にする男を放置して帰った。






家に帰ると休日だったので父が居た。


出て行ってから三十分も経過していないので彼は首を傾げてどうしたんだと聞いてくる。


「父さん。ユズリさんにお見合いの場所教えた?また来たんだけど」


「いや。教えてないぞ?また行ったのかユズリは……もしかして相手の人は」


それに首を振ると肩を落とす父。


ユズリに場所を教えないのは別に彼女が意地悪な性格だからではない。


父も義母も彼女を優等生でいい子だと思っているので、それはなかった。


ただ、彼女が顔を見せるとその容姿に夢中になって、相手が見惚れてお見合いどころではないからだ。


それを三回目にして実感した父はそれ以来彼女に居場所を告げなくなった。


しかし、どこから情報が漏れたのだろうと考えて、最後に行き着くのは母親である人。


彼女は意地悪な娘と違いのほほんとして裏表のない人だ。


彼女が天然の『うっかり』さで娘に教えてしまったのだろう。


父もいい加減妻に教えるのを止めればいいのに、腹が立つ。


ユズリも父からお見合い先に行かないようにと緩く釘を刺された筈だが、母親のような天然さを“装って″来たのだろう。


彼女は決して天然ではない。


天然ならばとっくに何かしらアイナはアクションを起こしている。


溜息を飲み込んで父親にこれからはもうお見合いなんて持ってこないように言うと、何か言い掛ける相手の声を振り切って部屋を後にした。






後日、またお見合いを持ってこられた。


日記でも書いている気分でそれを伝えよう。


どうやら今回の相手は知人の知人らしくとてもややこしい。


聞いた瞬間「いらない」と一蹴した。


それに父は残念そうな顔をして頼み込んでくる。


「酒場で意気投合してなー。どうも彼の知人に何か恋をさせたいらしくてセッティングを頼まれたんだよ」


「じゃあユズリさんに見合いさせれば」


そう言うと父はユズリはモテるから必要ないだろ、と言ってきて血管が今にも切れそうになる。


どう言うことだ。


本当に彼は自分の実父だろうかと本気で思う時がある。


「私に彼氏や恋人できないの。殆ど私のせいじゃないし」


「まーまーそう言わずに、な?今回切りで最後にするから」


「嘘だったら縁切るから。それでも約束できる?」


凄むと父は少し腰を低くしながら頷く。


できないとでも思っているのだろうか。


「絶対にユズリさんに言わないでね」


最後の最後に言えば心得たという父。


母にも言わないでね、と付け加えると少し考えているのか頷くのが遅い。


取り敢えず顔だけは見て、後は期待しないでおこうと決めた。


そして、お見合い当日。


また和風な場所でやるようで、着物を着させられた。


うちの父は何か和に拘りがあるのだろうか。


それとも固定のイメージだろうかと、一昔前のお見合い風景を思い出す。


テレビらへんに影響されてるな、きっと。


悶々とした気持ちを落ち着かせてから前を向くと、入り口越しに足音がした。


相手だろうかと見ると、どうやら違うらしい。


通り過ぎる音に心音を落ち着かせる。


やはり、自分も人の子だから緊張するのだろう。


こうしてぼんやりとしているように見えて色々考えなければ初対面の人と気軽に顔なんて合わせられない臆病さを持っている。


耳に足音が二つ聞こえてきた。


確か向こう側は二人来ると聞いてきたので期待が高まる。


足音が止むとゆっくりと開かれる扉。


横に開く扉を凝視していれば見えたのは一般人に見えないメガネをかけた人だった。


驚いて固まっていると二人目が入室してくる。


(うわ……芸能人みたい)


第一印象にそう感じた。


見惚れてしまうというは初めての体験だったが、綺麗なものに目を奪われるのは本能なのかもしれない。


「君がアイナさんかな」


メガネの人が聞いてくるので頷く。


「はい。お初にお目にかかります。今日は宜しくお願いします」


どちらがお見合い相手か知らないので挨拶をして返事を待つ。


「いいお嬢さんじゃないか。なぁ、ワイス」


「ああ、そうだな」


やや気怠げに答える人は眠そうだ。


もしかして、退屈なのだろうか。


それとも、この人も望まぬ見合いなのだろうかと勝手に親近感が湧く。


しかし、今日も姉が乱入してくることを思うと、既に諦めが胸を占めていた。


(この人もどうせユズリさんに堕ちる)


冷めた目を向けたくなるのは最早避けられない。


しかし、初対面なので体のいい子を演じておこう。


お互いに自己紹介を始めようとしてからまた耳に足音が聞こえてくる。


来た、と悪魔の足音に気持ちが萎んでいく。


「遅れました」


呼んでもいないのにユズリが姿を現した。


そして、中へ入ってきて姉だと告げると彼女はワイスを見た。


──コトン


(え?)


人が恋に落ちる瞬間を見てしまった。


彼女は相手の男性を見た途端、その完璧な笑顔が崩れて一心にその姿に食い入る。


どうやら、彼女は本気になってしまったらしい。


「おや、アイナさんの姉ですか。私はゴーシュと言う。彼の兄だ」


「ただの従兄弟だろ。おれは認めてねぇ」


その人は初めて言葉という言葉を話した。


無口かと思いきや、違ったようだ。


「さて、われわれはここから去るとしよう」


ユズリに声を掛けて退室するゴーシュ。


ユズリは彼に見惚れていて反応が遅れる。


「ユズリさん」


二度目の声掛けでやっと反応したユズリは慌てて出て行く。


しかし、名残惜しい顔をしていたので彼は狙われたも同然。


ロックオンだ。


呆れつつそれを見送ると溜息を吐きたくなる。


二人切りになると相手は仕切り直しだと名前を言ってくる。


「トウテルン・ワイスだ」


驚いた。


いや、唖然とした。


だって彼がユズリに心を奪われた様子がなかったのだ。


「メイル・アイナです」


これが五回目のお見合い相手との出会いだった。




感動した。


ユズリに見向きもしないなんて。


「あ……あの、最初に聞いておきたいことがあるんですが」


「何をだ」


ドキドキする。


もしユズリが気になっていると言われたらもうアイナは二度とお見合いはしない。


できないだろう。


もう十分トラウマだ。


「私の姉……どう思いました?」


「そうだな」


どうか、どうか。


「もし、気に入ったと言ったらお前はどうするつもりなんだ」


逆に聞かれてしまう。


それは肯定なのか。


(それとも試してる?)


そのようにも聞こえた。


「このお話はなかったということに……ご縁がなかったと思って私は帰ります」


きっぱり言い切る。


「成る程……な」


何かに納得をして、口元を上げる男にどうしたのだろうと思う。


もしかして、繋がりを持ちたくて考えているのだろうか。


「答えは……ノーだ。お前の姉をどうとも思ってない。初対面でどうこう感想なんて抱けるわけもねぇ」


普通はそう、そうなのだ。


「そ、そうですよね……ははは」


笑って誤魔化したけれど内心驚いていて、戸惑っていた。


彼女の清楚な外面に堕ちないなんて、と。


「もしかして、お見合いを五回もおじゃんにしてる理由が関係してんのか?」


「え!?なんでそれを……?」


びっくりして瞠目するとらゴーシュがお前の父親から聞いて、知っていると言われた。


お父さん、と悲壮感が胸に漂う。


五回もお見合いした、などと言うとは恥ずかしすぎる。


しかし、聞かれたことだしと理由をオブラートに包む。


どうせなくなるのも、時間の問題である今日のお見合いなのだ。


二度目なんて、とっくに有り得ないと諦めているからスラスラと話せた。


話し終えると、ワイスはクスッと笑う。


そして、お前も苦労してるんだな、と言われる。


「それ程でもありますね」


「ははっ、お前面白いな」


笑った、突然。


「え?どこら辺がでしょう……」


「全体的にだな」


「まだ始まって、五分も経ってませんが?」


どうやらワイスは、何かにツボったらしい。


お見合いはもうこれっきりなので、と話していると、ワイスから提案があると言われる。


「付き合うというのは別にして、友人から始めてみる気はねぇか」


「断る理由はありませんが」


そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。


もしかして、可哀想だとでも思われてしまったのかもしれない。


そんなつもりで話したわけではなく、ワイスがユズリになびかなかったから、感動してこの人なら分かってくれるかも、とついつい口が軽くなっただけだ。


ワイスに、それとなく同情ではないですよね、と聞く。


失礼にならないように薄くなる覇気。


「同情じゃねぇ。お前みたいなタイプはいないしな」


「タイプ?私もトウテルンさんは新種みたいな気がしてたんです」


姉になびかない新種。


耐性のある人間だ、つまり。


是非とも友達として、話を聞いてほしくなる。


「私、愚痴とか言っちゃいますけど。構わないんですか?」


「くく。ああ、大歓迎ってところだな。その代わりおれも愚痴るぞ?」


「はいっ。愚痴られるのは慣れてます」


聞く側として学生時代を過ごしたのだから、得意である。


だが、吐き出す側としては消化不良としか言えない。


姉のことを少し言ったとき、友達が「気のせいだよ」とちっとも話を信じてくれなくて、がっかりだった。


それを遂に解消してくれる人が現れた。


その感動に今日のお見合いを受けて良かった、と五回目にして漸く実った気がする。


離れたもの達が話すことができる通信機器でやり取りをしようと、思い立つ。


ワイスと、魔導通信機器を使うためのメールアドレスの交換をしてから少しだけ話して後はまた、と去り際に交わし、お互い別れた。


もしかして、自然消滅か暗黙の了解的なその場限りのお話だったかもしれないと、我に返って落ち込む。


彼は自分には不釣り合いだ。


綺麗だし、格好いいし。


ハイスペックだ。


「私、なに浮かれてんだろ」


友達、なんて今日の日をよくする体のいい言葉だったのかもしれない。


ベッドの上で悩んでいると、魔導メールが一着届く。


『今日は有意義だった。また今度食べに行けるか?』


メールはワイスからで、いつ予定が空いているかという内容だった。


杞憂だった、ということ実に心が沸き立つ。


少し慎重に文章を考えて、メールを打つと送信してからベッドに寝ころぶ。


「誘ってくれた……夢じゃない……っ!」


思わず呟いてしまうのは、姉のことを知ったワイスと本音を言い合える、という嬉しさから来るものだ。


(やっと……やっと私……)


念願の共有できる友を得られた。


数年後、かしずいた彼から指にリングを填められて涙を零すのは、また別のお話。



その後、アイナの家族について。


姉はその後結婚したが、人のものを欲しがる性格でワイスに色目を使うので旦那は愛想を尽かし離婚。


出戻った姉を流石に大歓迎だとはならず、父も義理の母も娘を持て余している。


ワイスはいつでもかっこいいので、離婚したあとであれ、会いに来たりしたが、気持ち悪いという気持ちを隠さないために、ユズリは愛される妹をみながら歯軋りして悔しがる、という光景が見られることとなる。


父達はそんな姉を連れ戻す、という行為を恥だと思っているようで、こちらに目を合わせることなく帰っていった。

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― 新着の感想 ―
アイナ:姉、ユズリ:妹として読んだ場合、なら完成度高く、面白かった。 しかし本作はアイナ:妹、ユズリ:姉設定に人捻り加えられているけど、 『「姉未婚・婚約者なしに妹見合い行う」=「両親は姉に問題がある…
親たちが、ないわー 先のコメントと同じの感想ですな。 自覚のない悪意は悪意のある悪意よりたちが悪い。 状況を悪化させる悪意のない天然程苛つくんだよなぁ 多分、父親もアレだけど母親は少年誌でよくある、女…
 主人公アイナはしっかり現実を見ていると感じられました。  姉ユズリは悪意の自覚がある分だけまだマシです。結婚後もワイスに色目使って旦那に離婚されるのは自業自得ですし、ワイスが無理だと分かった時点で他…
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