【2-3】新しい出逢い
アレンたちは湖のほとりを拠点とし、
一晩を明かした。
夜の静けさに包まれる森は、
これまでに見た瘴気に覆われた場所とは違い、
安らかな空気に満ちていた。
彼は夜中に目を覚まし、
夜明け前の静けさを肌で感じていたが、
何かが引っかかる。
それは、森がただ平和なだけではなく、
特別な力に守られているような感覚だった。
夜明けが近づくと、
アレンは見張をしていた騎士に挨拶をし、
軽装で湖のほとりへ向かった。
水面は朝焼けに染まり、
木々の間から漏れる光が
神秘的な雰囲気を漂わせている。
穏やかな朝の空気に一人佇むアレンは、
目の前に広がるこの静寂が、
森の秘密を隠しているような気がしていた。
その時、アレンの視線の先に、
静かに水辺に近づく影があった。
それは、一人の女性だった。
彼女は誰だ...?
――森に住む孤独な女性。
この森と似たような不思議な雰囲気のある人だ。
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ミアは身を清め、
少し溜まっていた洗濯をするために、
いつものように朝早くに
家から少し離れた水辺を訪れたのだが、
今朝は違和感を覚えていた。
人の気配。
昨日、遠くから感じたその存在が、
今日ここにいるのを確信した。
ミア「……誰かいる……」
一緒にいた妖精たちに
咄嗟に姿を隠すように伝え、
ミアは水辺に足を踏み入れる前に、
周囲を警戒する。
その視線がアレンと交わった瞬間、
彼もまた彼女に気づいた。
アレンはゆっくりと動き、
彼女に向かって声をかける。
アレン「……君は、この森の者か?」
その低く穏やかな声に、
一瞬ミアの身体が強張る。
彼女の緑色の瞳がアレンを見つめ返すが、
すぐに視線を逸らした。
ミア「ええ、……
失礼ですが、あなたは....?」
とミアは静かに答えた。
ミアの声には警戒が含まれており、
手には洗濯物のはいった
大きなカゴを強く抱えたままだ。
普段、この森には人が訪れることなどない。
それが突然、
見知らぬ者たちが現れたことに不安を感じていた。
アレンもまた、
目の前の女性がただの住民ではないことを
感じ取っていた。
彼女が纏う雰囲気は、
この森とよく似ている。
理由はわからないが
とても不思議な気配があるのだ。
「俺は王城騎士団の副団長、アレンだ。
国中に広がる瘴気の調査で、この森にやってきた。」
瘴気――その不穏な言葉に、
ミアの表情が強張る。
ミア「この森に……??!
私はここで瘴気なんてみたこと...。」
アレン「そうか...。
だが、目撃証言があった以上、
調査しないわけにもいかないんだ。
詳しいことは教えられないが、
この森全体の調査をさせていただく。
君も安全が確認できるまでは
なるべく外出を控えてもらえるだろうか?」
二人の間には一瞬の沈黙が流れた。
突然で不安にさせてしまったかと
アレンは何かを言いかけたが、
ミアはそれ以上彼に近づくことなく、
軽く頭を下げ、
そのまま、足早に水辺を後にした。
アレンはその姿を見送りながら、
どこか謎めいた彼女の存在に
引き寄せられる気がしたが、
深く追いかけることはなかった。
ミアは水辺から離れ、
いつもの場所へと戻っていく。
彼女の心は落ち着かず、
何かが起ころうとしているような不安を感じていた。
突然の来訪者たち――
昨日感じた気配はやはり彼らだったのだ。
そして、この森に何が起きようとしているのかを
リディに伝えなければならない、と強く感じていた。
「早くリディに会わなきゃ……」
そう呟きながら、
彼女は森の奥へと消えていった。