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ある暑い夏の日の神隠し

作者: 明日香

 それは、とても暑い夏の日だった。


 連日の暑さは、ニュースで「観測史上初の気温」だの「記録的猛暑」だの言われ続けている程。


 だからだろう。


 少しでも涼を得ようとスマホで怪談話なんか調べ始めたのは…


 ==============


 潰れそうなアパートの安っぽいクーラーは連日の猛暑に負けて故障中。


 修理業者を呼ぼうにも、クーラーの修理依頼は再来週まで予約で一杯だと断られた。


 そして、親に無理を言って一人暮らしをさせてもらってる貧乏学生の身分じゃ新しいクーラーなんて買う金があるわけもない。


 そんな僕らが最後に頼った涼しくなる方法が怪談話だったわけだ。


 「この『怖い噂話』だけどさ」


 ベッドに裸で寝転び、スマホでネットサーフィンして見つけた『怖い噂話』ってサイトに出てる怪談話を幾つか読んだ僕は、トイレから何か持って戻ってきて隣に寝そべった彼女、多々羅童子(たたら・わらべこ)さんにスマホを見せる。


 「テンプレって言うか似たようなパターンが多くない?」


 「んー?」


 「思うんだけどさ」


 「何?」


 「幽霊が出るって噂の場所に肝試しに行きますって時に、何で都合よく霊感が強い人が居て『そこは本当に危ないから止めよう』とか言うわけ?」


 「確かに、そのパターンあるね」


 「でさ」


 「うん?」


 「何で、霊感強い人は一緒に肝試しに行って怪奇現象に会うわけ?

 霊感強くて危険って分かってるなら自分だけは行かなきゃいいじゃん。

 何なの?1人で居ると死ぬ病気なの?友達と3分以上離れたら死んじゃうの?」


 「まあ、解説役と解決のためのお寺の住職とか霊能者とかを紹介する役割が必要なんだろうけどね」


 僕の彼女という事になっている童子(わらべこ)さん…童子(どうじ)と呼んだらガチで切れて金ぼu…じゃない、金属バットで殴ってくるから絶対呼べない…は、特徴的な銀色の髪の毛をかき上げながら言う。


 金が無いし、どこかに出掛けるなんて選択肢が無い僕は、童子(わらべこ)さんの見ているスマホに別の怪談話のページを表示させた。


 「こっちのさ。

 田舎の祖父母の家に遊びに行ったら地元の怪異に遭遇して云々ってテンプレもさ」


 「ああ、一昔前に流行った…何だっけ8シャーク様とかいうのの亜種ね」


 8シャーク様?

 

 いやいや八尺様な。

 

 何だよ8シャーク様って、メカゾンビダブルヘッド8シャーク様リターンズとかってB級映画でも作るのかよ。


 田舎の祖父母の家に遊びに行った主人公が、人間を取り殺す田舎の怪異に遭遇しちゃって、田舎の霊能者とかの力借りて都会に脱出するみたいな話であって、B級サメ映画じゃないからな。


 話が反れた。


 「そのパターンもさ、不思議に思わない?」


 「何を?」


 「爺さん婆さんは、そんなヤバい怪異が居る地元に何で可愛い孫を来させるんだよって?」


 「ああ、そこ疑問なんだ」


 「孫に会いたいなら自分たちが都会に行けば良いじゃん」


 「うん?」


 「リアルに考えるとさ、熊が出没する田舎の村に可愛い孫を呼ぶ祖父母って、そうとうのアホだろ」


 「まあ、そもそも事前に怪異の存在警戒して孫に来させないなら、話が始まらないからね」


 言いながら童子(わらべこ)さんは、僕にスマホを返す。


 「何て言うかさ」


 「何?」


 「さっき話した霊感ある人にしろ、怪異が出現する田舎の祖父母にしろさ」


 「うん?」


 「危機管理能力が足りないんだよね」


 そりゃ登場人物全員が、危機感持って安全策をとってしまったら、そもそも怪談話なんて始まらない。


 それにテンプレがあるって事は『噂話』とか言いながら実際には創作なんだろう。


 そんな僕の前で童子(わらべこ)さんは寝転んでいた身体を起こす。


 「危機管理能力ね…」


 何度見ても完璧な肢体と呼べる美しい裸体を晒す童子(わらべこ)さんは呆れたように言った。


 「それで、学生の身分で避妊もしない君は危機管理能力があるのかな?」


 童子(わらべこ)さんは、持っていた何かを僕に見せつけた。


 「こ…これって…」


 それを見た僕の身体はガタガタと震えていたと思う。


 それが何かを知らない程に僕は間抜けじゃない。


 それは妊娠検査薬…結果は…


 『陽性』


 その結果の恐怖でガタガタ震える僕に多々羅童子さんは、額に二本の角が生えた美貌に人でも喰い殺しそうな笑みを浮かべた。


 「じゃあ危機管理能力が足りなかった君は田舎に帰って私の婿になって貰おうかな」


 「鬼の婿なんて嫌だぁーっ!!」


 そんな僕の叫びは誰にも届かなくて。


 この話の結末は、ボロアパートの住人が1人神隠しになっただけで終わりなのだ。


 『完』

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