一ヶ月
彼女が帰ってきた。どうやら一晩のうちに指名手配書が出回ったようで、指名手配犯になってしまった。しかも賞金がなんと十億ゴールドと一生遊んで暮らせる程なのだとか。外は未だに兵士が多く、聞き込みもしているようだ。何とか外に出られるようにと色々調べているのだとか。
俺の日用品も買ってきてくれた。大きめな服やタオル、歯ブラシや石鹸、暇潰しの本などだ。あまりお金が無いため、ベッドや布団は買えないと言っていたが、それでもとても有難い。
彼女は色々な情報を集めて俺に報告してくる。
特に勇者の話を中心に。けれど噂程度でどれも確信が持てない。そもそも良くない噂の方が少ない。
ティーネの家で暮らし始めて一ヶ月が経った。彼女との暮らしにもある程度慣れてきた。彼女のいない間は魔力操作の特訓をし、帰ってきたら話したり、夕食の準備をし一緒に食べたりする。
彼女の家には風呂もなければシャワーもない。基本、沸かした湯で体を濡らしタオルで拭く。
男女一つ屋根の下で暮らせばハプニングは起こるもの。
着替え中に鉢合わせたり、俺が体を拭いている最中にティーネが入ってきたり、トイレで鉢合わせなんてことも。
ベッドが一つのため、一緒に寝ているが朝はどうしても勃ってしまうのは男というもの、気まずい空気が流れたりする。
何故、一緒に寝ているのかと言うと、ティーネが提案してきた。勿論拒否したが、俺の話を聞こうとしない。強制的に一緒に寝ている。抱き枕として。
と言うのも最初の話。
最近、ティーネは夜遅くに帰ってくるようになった。朝早いのに、夜遅い。なので元気がない。家に帰ってきて、夕食を食べずに寝てしまうことも。俺のせいだと分かる。
一生このままって訳には行かない。ヒモの生活はいいと思うが、人間として終わっている気がする。
何とかしないと。でも、どうすれば…。
朝、ティーネが倒れていた。
出かける準備をしていたのだろう。脱ぎ掛けである。
息が荒い、額を触るととても熱い。
持ち上げベッドへと、運ぶ。
看病というものがほど遠い存在だったため、なんの知識もない。けれど、しなければならない。
服を脱がせる。白い肌と下着が目に入るがそんなの気にしている場合ではない。クローゼットから部屋着らしき服を手に取り着せる。
冷えた水を染み込ませた小さいタオルをティーネの額に乗せる。
俺に出来るのはここまでなのかもしれない。後はティーネが目覚めるまで、付きっきりで、たまにタオルを取り替えるくらいしかない。
ティーネにお世話になりっぱなしなダメ人間。指名手配されていなければ働きに行けるのに…。
それこそ言い訳か…。
「ん〜」
眠い目を擦る。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
窓から射す光は部屋を綺麗な黄昏色に染めている。
ベッドに寄り伏せている体を起こす。すると先に起きていたティーネと目が合った。
「おはよう」
「おはようございます。」
「体調は大丈夫か?」
「はい、お陰様で…」
ティーネは頭を下げた。
「すみません…」
「いや、俺の方こそこんなに無理させてしまって…何か食べます?お腹すいないですか?」
「いえ、いただきます…」
ティーネは力無く笑顔を作る。
返事を聞き、台所へ向かう。米みたいなのがあるので水を沢山張った鍋に入れ火にかける。火をつける時魔力がないため火打石と打金を使う。
二十分くらいして火から上げ、塩と何か細かくした野菜を入れかき混ぜる。
「お待たせ。出来たよ」
お盆をベッドの横にある机に置き、ティーネにお粥をよそった器を差し出した。
「ありがとうございます…」
ティーネは器を受け取り匙でお粥をすくう。そのまま口元に持っていき食べる。と思いきやそのまま器に戻してしまった。
「どうした?大丈夫?食べられなかった?」
心配だ。きっと食べられないほど辛いのではないだろうか?
「先に水だったね、ごめん、今持ってくるから…!」
席を立とうとすると呼び止めまれた。
「待って…違う…」
「えっ!」
「違うの食べられる…けど…食べさせて欲しいなって…」
弱い声で言われたら食べさせるしかない。
ティーネに向き直る。器を渡してもらい匙でお粥をすくう。二、三回軽く息を吹きかけ冷まし彼女の口へと持っていく。
「あむ…」
幸せそうに口の中に入れる。
「美味しい!」
「そっか、良かった」
ティーネは雛鳥のように口を開け待つのでつい笑ってしまった。
「何で笑うんですか…病人ですよ!」
「いや、ごめん、雛鳥みたいで面白くて…」
頬を少し膨らませ不満そうに怒る姿はとても可愛い。
ティーネは間食した。
片付けを済ませ、水を張ったコップ持っていく。それを手渡す。
「ありがとうございます」
「いや、俺に出来ることはこんなもんしかないよ…他にやって欲しいことがあったらなんでも言って欲しい。お世話になりっぱなしだし…」
「わかりました、それでは一ついいですか…?」
「おう!」