出会い
目を覚ますと目の前に見知らぬ美女の顔がある。
「あぁ、ここは天国か?それとも地獄か?死んだのか俺…」
「いいえ、生きていますよ」
笑みを浮かべ、優しく美女の口からそう告げられた。
「間に合ってよかった。」
そう言うと優しく頭を撫でられた。頭の下は柔らかく美女の胸が見える。顔を覗き込む様な姿、これは俗に言う膝枕の様だ!
「あぁ、もう死んでもいいかも…」
「ダメですよ!」
頭を撫でている手で優しく小突かれた。
「風邪ひいてしまいますので、移動したいのですが、体は大丈夫ですか?歩けますか?」
そう聞かれて気付く。さっきであんなに重い体が軽くなっている気がする。
「あ、あぁ、歩けると思う」
そう言い体を起こす。なにか、布が落ちた。それを拾うとローブのようだ。どうやらローブを掛けられていたらしい。
「ローブ、使ってください。このままでは風邪ひいてしまいます。少し小さいですが無いよりはマシだと思うので」
「…分かった。ありがたく使わせてもらうよ」
少し考えてからありがたく着ることにした。腕を通すと、少し小さいが着れないこともない。全裸のためそのまま着ると色々汚いモノが服にあたる。
美女が立ち上がる。修道服に身を包んでいる。身長は俺とほとんど同じ少し小さいかなくらいだ。俺の身長が百六十五であるので、だいたい百六十くらいだろうか。髪は綺麗なブロンドでロングである。
「着いて来て下さい」
そう言い手を取って歩き始める。
大通りを通らず、わざわざ遠回りである曲がりくねった複雑な路地裏を通る。
何を知っているのか分からないが助かる。
しばらくすると家に着いたのだろう、鍵を手に持ちドアを開ける。
「着きました。どうぞ」
促されるまま家の中に入る。外よりは寒くはないが、それでも冷蔵庫並みに寒い。
「今、火を付けますね」
そう言い暖炉に薪をくべる。温かな光が暖炉に灯る。
「すみません、何も用意が出来なくて」
「いえいえ、助けて貰ってそんな…」
「服小さくてすみません。大きなタオルと、ローブを持ってきますね」
そう言い、奥の方から大きなタオルと、ローブを持ってきて手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
受け取りタオルで濡れた体を拭きローブを身につける。来ていたローブを渡そうとしたが、流石に汚いモノが当たっていたのに返すのは悪いかなと思い戸惑っていると
「大丈夫ですよ。私、気にしてませんよ」
そう言われたので、返した。
「優しいんですね」
「そんな、優しくないですよ。俺なんて醜くてキモくて、きた…」
汚くてと続けるつもりだったのに美女の人差し指が口に触れ言葉を止める。
「そんなことありませんよ。ほんの少しの時間でしたが貴方はとても優しく強くとてもカッコイイですよ。そう思いました」
「カッコイイ」照れくさそうに美女にそう言われた。生まれて初めて言われた言葉だった。
「そうだ!自己紹介まだでしたね。私、ティーネ・エルリンと申します。修道女に通っています」
「ど、どうも…えっと、俺は神道遮です。えっと、信じて貰えるかどうかは知りませんが、異世界から来ました…」
そう俺は神道遮、異世界から召喚された異世界人である。
「サエギさんですね。カッコイイ名前ですね!信じますよ、良く噂話など聞くので」
彼女は信じると言ってくれた。しかもカッコイイとまた言ってくれた。勘違いしてしまいそうになる。男は女に優しくしてくれるとどうしても意識してしまうのだ。心では乱れているが外には出さない。平静を装わなければならない。長椅子に座るよう促されたので長椅子に座る。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言うのと同時に暖炉の方からカタカタと鳴る音が聞こえる。
「あっ!お湯が湧きました。お茶用意しますね」
彼女は慌ただしくコップに茶葉とお湯を注ぎ持ってくる。
「熱いので気を付けてくださいね」
「ありがとうございます」
手渡されたお茶に口をつける。
とても温かく優しい味がする。
「美味しい…」
「それは良かった」
つい、美味しすぎてぼそっと呟いた言葉に笑顔で優しく嬉しそうに頷き応える。
「あの、どうしてあんな場所に倒れていたのでしょう?」
突然の質問に動揺してしまい、お茶をこぼしそうになった。
動揺も何も普通に疑問に思うことだ。あんな場所に全裸で血塗れ倒れていると余計にだ。信じてくれるか分からない。だが、ここまでしてくれたのなら、話さないわけにはいかず口を開く。
「実は…兵士に追われていたんです。」
「追われてた?」
「はい、罪を犯したんです。それで逃げてあそこに…」
「それは、悪いことですね。でも、本当ですか?貴方みたいな優しい人がそんなことするなんて、私信じられないです。何か理由でもあるんですか?もしあるならお願いです、聞かせてください!他言しないと誓います!命でもなんでもかけるので、なので…」
両手で俺の手を握って真剣に頼み込んでくる。手が小さく温かい。そこまで言われたら話さないわけにはいかない。
「実は、俺は巻き込まれたんです」
「巻き込まれた?」
「はい、異世界から勇者として召喚されたんですが、俺は勇者ではなく巻き込まれたんです。勇者ってレベルやスキルがあって訓練するとレベルが上がりスキルを覚えることができるんですけど、俺にはその能力が無くて、魔力もなければ何も出来ない無能な人間であるとしばらく訓練していて気づかれたんです。そしたら何故か、イジメがエスカレートして…反抗したらこの通り…」
何故か涙が溢れ出し、拭っても拭っても止まらない。真剣に聞いていた彼女は突然抱き締めてきた。
「辛かったんですね。それまで努力し続けたんでしょ?」
言葉が出ない、ただ首を縦に振るだけ。
「そうですよね。とてもカッコイイです。酷いですね。今は我慢しないで下さい。私が付いていますので」
抱きしめる彼女の腕は優しく、それでいてさっきよりも強く。とても安心し、嗚咽が漏れる。
俺は長い長い時間泣いた。