平穏に暮らしたいだけなのに
「どこ行きやがった、あのブタ!許さねぇ…殺してやる!」
「探せ!探せ!探せ!まだ近くにいるはずだ!」
「隊長!城下町に逃げる影を確認しました!」
「本当か、それはまた厄介な…指名手配書を準備する。お前たちは捜索を続けろ!もし捕まえたらその場で速やかに始末しろ、必ずだ!生かしては危険だ!」
「了解しました!」
雪が吹きすさぶ夜のこと。世界一危険とされている一人の男が脱走した。
「へっぐぢょん!あっ!」
大きなくしゃみが辺りを響かせ、それを慌てて手で塞ぐ。
ガチャガチャと重く高い音を響かせ男が走ってきた。
「この辺りから声が聞こえたような…気のせいかな?」
鎧を身にまとった男が来た方向と同じ方向に走り去って行く。
「あっぶねぇ、大丈夫か?」
樽の中から顔を出し確認する。大通りは兵士で賑わっているが路地裏は静けさが辺りを支配している。
樽から這い出て重い体に鞭を打ち壁を伝い移動する。
空は白く暗い。雪が吹きすさぶ中、服を着ず、全裸で積もったゆきに足跡や血痕を残しながら歩いて行く。
どのくらい時間がたったのだろう。俺は何故こんなにも運が無いのか。俺はただただ平穏に暮らしたいだけなのに。
昔からそうだ、こんな容姿のせいで嫌われ虐められ、死にかける。親にも友達と思っていた人にも裏切られ、努力しても認めて貰えない。頑張って頑張って貯めたお金で整形もしたが失敗続きで醜い顔に。どうしてこうなった。
いつの間にか倒れ伏している。足が動かない。息が苦しい。死ぬのか俺?
嫌だ、死にたくない。死んでなるものか。見返してやる。こんな俺でも幸せになれるって。絶対に、
「死んで…なるもの…」
起き上がろうとした瞬間、視界が暗転する。