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第五話  モブキャラD的なお父さん。新たな出会い。友情とまたかよな勘違い!?(上)



その人はどこにでもいる本当に何でもない、例えるなら村人D的な人でした。


モブもモブ。それこそ平日のドラマの通行人くらいな立ち位置にいる人でした。


ごく普通に生活をしていたそんな彼も、はや四十歳に突入。ごく普通に恋愛をしてごく普通に結婚をしてごく普通に二人の子供に恵まれました。


ただそんなモブ的な彼が実は主人公の一人であるのには訳があったのです。


そう。


彼はごく平凡でおおらかなこと以外何の取りえもございませんでしたが、


彼の奥様はいくつもの世界を次元を救ってきた伝説と最強の名をほしいままにする美女で


息子は小物作りが趣味な癖にその辺りのヤクザやマフィアなどからも恐れられている恐面の格闘家で


娘は仙女とか妖怪とか神とかいわれ崇められ畏怖されている女子大生で


実は彼自身もまた、平凡なりに家族(家付き)と一緒に異世界へとトリップするというという特殊体験を現在進行系で体験している最中だったのです。






「そうだ葵、お父さんもちょっとこの世界をエンジョイしてみようと思うんだ。どこかオススメの場所はないかい?」


「急にどうしたのお父さん。いままで引きこもってたのに外出たいだなんて」


「いやな?この世界に来て大分たつし、戦国時代だなんてなんだか危なさそうだから家から極力出ないようにしていたんだけどそろそろ退屈でなぁ。これからずっとこの世界にいるんだろ?流石に今のじゃいけない気がしてきたんだよ」


最近運動不足のせいか若干弛んできつつある腹をなでながら言うと、葵はソファーにだらしなく寝そべりながらふぅんと気のない返事をした。


外は快晴。風もなく少し肌寒くはあるが気温もそこまで低いというわけでもない。


つまるところ絶好の散歩日和というわけだ。


「んー、確かにこのままずっと家に引きこもっているわけにもいかないよねー」


「まぁせっかくいい天気だし、ちょっと散歩でもしてこようと思うんだがいいかな?」


「いいと思うよ?そうだ、せっかくだから城下町にでも行ってきたら?何か面白いことあるかもしれないしさ」


麓の村では顔が割れているためいきなり拝まれたりしても困るだけでしょという葵に、それもそうかと頷く。


麓の村では茜雲一家=神仙ないし妖怪の類として拝まれることが当たり前になってきつつあるため、確かにのんびりはしにくいかもしれない。


この前葵と二人で村に下りたことがあったが、なんだか年配の人には有り難いものでも見るような眼差しで手を合わされ小さい子供には仙人様などといわれ始終騒がれていたことを思いだし納得する。


そんな扱いをされる元凶の筆頭である葵を流石だなぁと感心してしまうやら親として鼻が高いやらでなんだか少し気分が高揚する。


前々からすごいすごいとは思っていたが、あの世界ではどんな風にすごいのかがいまいち曖昧でわからなかった。しかし、この世界で間接的にではあるが家族の無茶ぶりを感じることができてやっとどれだけすごいのかがわってきたのだ。


ちなみにこれをすごいの一言で終わらせてしまっているあたり、どれだけ昭義がずれているかわかる。


「城下かぁ。きっと賑やかなんだろうなあ。お父さんお城なんてテレビの中でしかみたことないよ」


「私は行ったことないけど、聞いた話じゃかなり賑わってるっぽいよ?治安もいいみたいだし気分転換にはもってこいじゃない?一応瞬きの鏡と全能の珠を渡しておくから、迷子になったり変な人に絡まれたりなんかしたら人目があってもいいから戻ってきてね」


触れて念じるだけで拠点に戻ってくることができる手鏡と、万能属性の攻撃以外すべての攻撃を無効化する透明な直径三センチくらいの珠(に穴を開けてネックレス状にしたもの)を渡す。


本当なら葵が着いていくのが一番良いのだろうが、暖かな陽気に誘われて若干眠い葵はどうしてもソファーを動く気にはなれなかった。


とりあえず防御最高にして脱出アイテムを持たせておけばいいだろうと考えてついていかなかったのだが、後にこの選択に頭を抱えることになるなどと、眠気に大分頭をやられている葵は思いもしなかった。


あくび混じりにテレポートと言った葵は気付かない。


司国の城下より少し離れたところに転送するはずだったテレポートを失敗してしまったことを。


平凡で自分達みたいな能力を持っていないとはいえ、それでも茜雲一家最強である母、千梨の夫であり無茶振り息子と娘の父であることを。


本人が望む望まない自覚あるないに関わらず厄介事は向こうからやってくることを。


その時葵は全くといっていいほど気付かなかった。


一方うっかりテレポートを失敗されてしまった昭義はテレポートされた先で若干途方に暮れていた。


てっきり映画の中のような町並みが広がっていると思っていたのだが、いざ景色が変わってみるとそこはどこかの屋敷の中だったのだ。


目の前にはこれが日本の庭園ですといわんばかりの庭が広がっており、しかもかなり広い。


もしかしなくてもきっとどこかの偉い人の家なのだろうということは流石に鈍い昭義にもわかった。


(まいったなぁ。お父さん知らないうちに知らない人の家に不法侵入しちゃったよどうしよう)


このまま不審者として警察に通報されてしまうのだろうかと途方にくれながらそう思っていると、急に背後にあった障子が開いた。


慌てて振り返ると、そこには抜き身の刀を首に突き付けた道久が立ち油断なく昭義を睨んでいた。


「何物だオッサン。ここが司国の国主、篠ノ井道久しののいみちひさの城だと知っての侵入か?」


「ん?いやちょっと迷ってただけだよ」


「・・・どこをどうしたらそんな言い訳が聞けんだよ、あんたふざけてんのか?」


「いやいや、気分転換に城下をぶらぶらしようと思ってたんだけどなんだか娘に間違ったところに飛ばされちゃったみたいでなぁ。ええっとここどこだかわかるかい?」


刀が今にも切れそうなほど鋭い光を放っており、少し首に食い込んだが全能の球のおかげで怪我はしていない。見る人が見ればかなりの名刀だということがわかるが、今まで刃物なんて包丁とかカッターとかその程度しか見たことなかったためなんだかよく切れそうな刀だなとしか感想が沸かなかった。


それにしてもなんだかちょっと目つきの悪い子だな。これが噂の不良息子というやつか。


目つきの悪さもがたいのよさも息子で見慣れているためいくら睨まれてもたいしてこたえない。痛いくらいの殺気をたたき付けられたところで平和な世界で争いごととは無縁の生活を送って来たため察することもできない昭義はとりあえず笑っとけとばかりにへらりと締まりのない笑顔で笑った。






------道久視点------






一方少し時間を戻して、今日も今日とて執務に没頭していた道久は心構え一つでここまで人って変わるものものだとしみじみと実感していた。


以前までは苦手でどうにか回避できないかと思っていた執務が、今ではどれだけこなしても苦にならない。それどころかその日のうちの執務を終えればまだ何かやれることはないかと探してしまう。


少し前の自分では考えられないことだ。


おかけで最初こそ喜んでいた側近達はこの頃ではむしろサボることを進めるしまつ。仕事をしろといっていたのはお前らだろと突っ込んだのは記憶に新しい。


しかしそろそろ休息しなければ心配性の目付け役に一服盛られて強制的に休まされかねない。


すっかりと凝り固まってしまった肩の筋肉を揉みほぐすと、お茶でも運ばせようと声をあげようとしたその時障子を挟んだ外側に突如一つの気配があらわれた。


とっさにそばに置いてあった刀を手に掴み抜刀すると、いつでも斬り掛かれるように構える。立場がら暗殺者の類をよく向けられるためいつものことかと苦々しく思うが、今回の相手はどうにもいつもの奴らとは違うらしい。


いくら執務に集中していたからとはいえ誰にも気付かれず城主の執務室の前まで侵入し、さっきまで己にも気配を悟らせなかったためかなりの実力があるはずだ。相手を暗殺者と仮定し、それこそ、気がつかないうちに目的あんさつを終えることも可能だっただろう。


しかし、相手は襲ってくるわけでもなく逃げるでもない。それどころか弱冠困っているらしくおろおろとした気配がこちらにまで伝わってくるようだ。


(なんだこいつ、馬鹿にしてんのか?)


侵入者の分際でどうしようか迷ってるなんざいい度胸だ。


そう思って腹立ちまぎれに勢いよく障子を開けて侵入者の首筋に刀を突き付けた。


慌てたように振り返った男の首に刃が食い込むが、どういうわけだか血がにじむ様子も切り裂いた感触もない。


「何物だオッサン。ここが司国の国主、篠ノ井道久しののいみちひさの城だと知っての侵入か?」


ありったけの殺気を込めて睨み付けるが、男はどこか気の抜ける惚けた顔で首を傾げただけで怯んだ様子はない。


かなり強い殺気を突き付けられのほほんとした態度を貫けるこの男がすごいのか、それとも殺気に気がつかない馬鹿なのか。


「ん?いやちょっと迷ってただけだよ」


「・・・どこをどうしたらそんな言い訳が聞けんだよ、あんたふざけてんのか?」


「いやいや、気分転換に城下をぶらぶらしようと思ってたんだけどなんだか娘に間違ったところに飛ばされちゃったみたいでなぁ。正直困ってたところなんだ」


本気でここがどこか目の前にいる道久が誰かわかっていないような態度に、思わず毒気を抜かれかけるがこれが相手の手口かもしれないと思い慌てて気を引き締める。


なんというか、そこにいるだけで空気が和むような、時間がのんびり進むような気がしそうな男である。実際は平和ぼけしただけの中年男なだけだが。


「・・・さっきも言ったが、ここは司国の国主、篠ノ井道久の、つまり俺の城だ」


いい意味でも悪い意味でも得体の知れない男に俺が城主だといってみる。


刺客なら襲い掛かるなり警戒するなりするだろう。町人ならまず無礼を働いたと顔を青くする。無いとは思うが家臣なら臣下の礼をとるだろう。


そう思って相手のどんな些細な行動も見逃すまいと睨み付けていたが、男はただ一言こう言った。


「おお、そうなのか」


はっきりいって拍子抜けするというか、全く予想していない反応だった。


「まだずいぶん若いのに頑張ってるんだね。国主ってあれだろ?殿様だろ?おじさん感心するなぁ」


なんというか、まるで小さな子供を褒めるように褒められ、いいようのないむず痒さというか、ある種の気恥ずかしさに襲われる。


お前ほんとに意味わかってんのかよとか、俺は小さいガキかとか、感心するって何だよ感心するってとか。とにかくいろいろ言いたいことがどっと喉から競り上がってきたが、それらのすべてをかろうじて飲み込む。何だか刺客とか色々考えていた自分が馬鹿のようだ。


頭をがりがり掻いて相手に突き付けていた刀を鞘にしまうと縁側に座る。すると男も隣に座った。


距離は四十センチ程度。


近すぎるわけではなく、さりとて遠いわけでもない。ただ世間話をするのにはちょうどいい距離。


「なぁオッサン、娘に間違って飛ばされたとか言ってたが、そりゃどういうことだ?」


「うーん。俺もよくはわからないんだけど相手を任意の場所へ一瞬で移動させる術があるらしいんだよ。それで城下へと移動させてもらったんだけど失敗したらしくて気がついたら道久君のお家の中にいたというわけなんだ」


「道久く・・・いや、あえてツッコまねぇぜ。しかしずいぶんと抜けてんだなあんたの娘は」


「普段はこう、しっかりしているんだけどたまぁにうっかりうっかりやらかしちゃうんだよ」


「あー、たまに俺もあるぜそんなこと。何気ないところでうっかり失敗するんだよな」


あるあると相打ちを打ちながら、道久はいつの間にか相手のことを警戒するのをやめている自分に気がついた。


相手はさっき会ったばかりの、しかも不法侵入者で怪しいことこの上ない人物なはずなのに。まるで何年も付き合ってきた知り合いのような気軽さで次から次へと言葉が出てくることに何の違和感も感じない。


生まれてこのかた良き統治者になるべく厳しくしつけられてきた。


友と呼べる人間もおらず、気心の知れた者も心を許した者もいるが最後の一線で臣下であり続けられた。


こんな風に対等に話が出来る者に、何の気負いもなく腹を割って話が出来る者にであったことはない。


頭の中でちらりと警報がなる。これがこいつの手口なのだと、騙して近づいて来ているのだと誰かが囁くがそれならそれで構わないとそう思えた。


それがどれだけ危険なことかなど、十分承知のうえだ。


「おっさんどこから来たんだ?間違えて来ちまったんなら帰り道わかんねぇだろ」


男の話を信じたわけではない。そもそも、一瞬で人間を別の場所へ移動する術など聞いたことがなかった。


いや、もしかしたらできるかもしれない存在はに少し前会ったが。


男の出処を探りたいわけではなかったし特に他意があったわけでもなかったが、話の流れで聞いたことに、男はやはり惚けたような顔で答えた。


「一応最近じゃ桃郷山とか呼ばれてる山に住んでるなぁ。娘が妖怪とか仙人とか呼ばれてて最近賑やかになってきたところなんだ」


耳を、一瞬疑った。


嘘か冗談を言っているんじゃないかと探るように見てみるがこんな気配はない。いたって本気のようだ。


まるで明日の天気の話をするようにさらりと爆弾発言をしてくれた男に、冷汗が一筋流れる。


「・・・なぁおっさん、つかぬことを聞くがあんたなんて名前なんだ?」


「そういえば自己紹介してなかったね。俺は茜雲 昭義って言って、最近噂になってる娘は茜雲 葵っていうんだ。道久君知ってるかい?」


予感は見事に的中。一瞬フリーズした道久はフリーズが解けるや否やあまりの事に大絶叫した。

一番平凡であったはずのお父さんがなんだか一番すごい人に見えてしまうというマジック。

道久君呼ばわりです。お父さんにかかれば殿さまだろうがなんだろうが近所のお子様扱いです。これぞまさにお父さんマジック!!

この後お父さんはとある人物に勘違いされてしまいます。こうご期待!!!

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