第四話 忍び寄る影。いつかは来ると思ってた。まさかの新フラグ成立!? 道久視点
司国はおおむね平和だった。本州の北の方では未だ小競り合いが続いており混沌としているが、南のほうは特にこれといった乱はない。
この戦乱の世ではつかの間である平穏。そうは長く続きはしないであろうということは皆理解している。理解しているからこそ、今というときを精一杯謳歌しているのだ。
海に近い場所では新鮮な魚介類が市に並び、山に近い場所ではその時時の旬の山の幸が市に並ぶ。
民の一人一人に活気があり、子供には笑顔が溢れていた。
しかし、いくら大切なものとはいえ平穏というものは退屈なものでもある。こと、血の気の多い若者にとっては堪え難いものだろう。
そしてそんな平穏という名の退屈を持て余している男が一人、城で頬杖をついて空を見上げていた。
「退屈だな」
「殿、そんなこと言ってる暇があるんだったらとっととこの溜まりに溜まっている書類どうにかしてください。そろそろ重義の勘忍袋の尾が切れるか胃に穴が空いて使い物にならなくなるから」
「芳光か。あー、大丈夫だろあいつなら。俺の見立てでは後三日は持つ」
「いい加減見てて不敏なんだよ、俺が。第一重義倒れたらその皺寄せ全部俺に回ってくるじゃん!」
だからお願いだから仕事して!と縋ってくる男に、殿、こと道久は半ばうんざりしながらも筆をとる。
この司国を納めている国主としてやらなければいけない事なのだが、どうにも卓上作業は性に合わない。
血が見たいわけでも争い合いたいわけでもないが、こうもぬるま湯のような空気に浸っているとあの血で血を洗うような戦場の緊張感が無性に恋しくなるときがある。
こればかりは持って生まれた性だなと思いながら、とりあえず目の前に山積みにされた書類を片っ端から片付けていく事に専念した。
しかし、やれどもやれども仕事は終わらない。朝餉をすませてから5時間近く缶詰にされているのだが、仕事は次から次へと運び込まれいっこうに終わる気配がない。
元はといえばこれほど溜め込んでしまった己が悪いのだが、そこは都合よく無視をする。
こんな仕事放り出して抜け出したいが、そろそろどうにかしなければお目付け役である盛本重義が本気でキレかねない。
キレた重義は本気で、地獄の鬼も裸足で逃げ出すくらい怖いのだ。
刀を振り回されるくらいならまだ対処のしようはあるが、下手をしたら尻を叩かれる。というか、この前執務をほうり出して城下に遊びに行っていたとき脱走に気がついた重義に取っ捕まり本気で叩かれた。
二十も後半になった男が尻を叩かれるなど屈辱もいいところだ。
その時の事を思いだし渋面のまま次々と執務を片付けていくが、どうにもそろそろ限界が近づいてきているのが自分でもわかる。もうそろそろ息抜きくらいいいのではないだろうか?
一度筆を置いてぐっと背伸びをすれば、凝り固まった背骨がべきべきとありえない音を立てる。
「ぐっ、くっそ痛え」
左右の肩を回して凝りをほぐすと、横に置いてあった刀を腰にさし立ち上がる。目を閉じて神経を集中させ気配を探り、周りに誰もいないことを確認するとそっと障子を開けて目視した。
目に見えるところに人はおらず、加えて気配もない。抜け出すなら今だ。
懐に財布が入っていることを確認すると、誰にも見つからないように細心の注意を払いながら厩に行くと自分の愛馬に跨がり颯爽と城を抜け出した。
後ろから「殿ー!お戻りくださーい!」やら、「道久頼むから戻ってきてくれー!俺殺される!!」やら慌てた声が聞こえてきたような気もするが、そんなものは気にしない。きっと気のせいだ、空耳だ、幻聴だ。
また後で重義に説教をされることになるだろうが、今はそんな些細なことは気にしないでおく。
馬を駆けながら考えた。さて、抜け出したのはいいがどこに行こうか?
城下は駄目だ、きっと今頃捜索の手が伸びているはず。同じような理由で女の所も除外。かといって今回の目的は息抜きのため、あまり遠くに行くこともできない。そんな事をしたら真面目にキレた側近の手によって切られるか殴られるか尻を叩かれてしまう。
出来るだけ近場で、程よく息抜きが出来る場所の候補を頭の中で思い浮かべていっていると、唐突に数日前一人の忍びが報告してきたことを思い出した。
なんでも最近ここから二刻ほど馬を走らせたところにある山の中に不思議な術を使う一家が住み着いているのだという。相手方に敵意はなく、時折山から下りてきては麓の村々でその不思議の術を使い人助けをしているのだ。なんでも死ぬ一歩手前の重傷患者を瞬く間に治療したり数日前に降った大雨のせいで反乱した川をあっという間になだらかにしたりと、おおよそ人ではありえない所業らしい。
その報告にやって来た忍びも以前敵の忍びに追われ山に逃げ込んだとき、その不思議な一家に助けられたことがあるのだといっていた。緑色の淡い光が体を覆ったかと思えば折れていた足の骨は元通りになり、半ばちぎれかけていた腕が繋がった。あまつさえ追って来た忍びは娘であろう女人に軽く撃退されてしまったのだとか。
最近噂になっているその不思議な一家の真相を探らせていたのだが、どれもこれもマユツバものばかり。噂以上のことは何もわからないままだ。
どんなに腕の立つ忍びを差し向けても報告はいつも山に入れば不思議の力でいつの間にか麓に戻されている。か、運よく麓に下りて来ているところに遭遇しても力を使うことは稀で、すぐに見つかり近づく事すら出来ない。唯一の例外は敵に追われ山に逃げ込んだあの忍びだが、その忍びの証言も俄かには信じがたいものだ。
今の所わかっているのは父、母、兄、妹の四人家族で、人にはない不思議な力を使う事。今では桃郷山と呼ばれている山に住み、白夢幻と呼ばれる二階建ての不思議な館に住んでいること。娘は忍びをあっさり撃退できるほど強い事。
ふと耳にした、まるでお伽話のようなそんな噂が妙に気になって忍びに探らせること半月。総合してたったこれだけのことしか分からなかった。
これは明らかにおかしいことだ。
ひょっとしたらその一家は敵国の間者かもしれない。その不思議な術とやらで何かしらしでかそうとしているのかもしれない。人を助けているというが、それもまた策の一つかもしれない。
疑う要素はいくらでもある。詳細がわからないため、いくらでもこじつけられた。
(はっ、そんな怪しい奴ら、俺の縄張りに置いておけるかよ)
本当ならそんな怪しい奴らには兵でもなんでも差し向ければいいのだが、道久は自分から赴くことを選んだ。頭の中でいろいろ言い訳のように理由を付けているが、正直にいってしまえばただ興味があったのだ。
人の心を荒ませる戦乱の世において長くは続かないであろう平穏な期間。そんなときふっと降って湧いたような現実味のない噂話。暇つぶしに探らせれば余計に募る不審さと不思議さ。
どんな人が住んでいるのだろう、どんな術を使うのだろう、考えるだけでわくわくする。
まるで童のようにはやる気持ちを押さえる事なく馬を走らせ、噂の山の麓にたどり着いた道久は、とりあえず情報を収集することにした。
しかし、誰に聞いても恐れ多いとばかりに口を閉ざし、なかなかお目当ての情報は得られない。何とか村の村長らしき人物から話を聞けたのと、昔城で軍医をしていた原助から話を聞けたが、両者とも言っていることがほとんど正反対のため余計混乱するばかりだ。
「何だかよくわかんねぇな」
片や村の危機を救ってくれた仙女の一家。
片や盗賊どもを一網打尽にした妖怪の一家。
一体どちらが本当なのか、それともどちらも本当ではないのか。
しかし、どちらにせよ機嫌を損ねればただではすまないということだけは共通しており、対面するなら気合いを引き締めなければいけないかもしれない。
これはいよいよ大事になってきたきがする。初めはただ少し噂の真相を確かめるくらいの軽い気持ちだったというのに、下手をすれば薮を突いて蛇どころか虎が出て来るかもしれない。
村長の方はともかく、原助とは面識もありこの手の冗談は言わない人間だということは知っている。いつもどこか飄々としていたあの男がヤバイというのなら、相手は相当な人物だということだ。
警戒心もあらわに噂の山に分け入ってみるが、どれだけ注意してみてもすぐに入口に戻ってしまう。
道は獣道とはいえ一本道。間違うはずも迷うはずもなく、ましてや登っているはずなのに気がついたら下りているということもあった。
そのことに気がつき、さっと血の気が引く。これではまるで噂の通りではないか。
しかし、道久にも意地というものがあった。重義の説教覚悟でやってきたのだ、このまま手ぶらで帰ることは出来ない。
どうしたものかと頭を悩ませるが、すぐにいい案を思い付いた。
今までは教えられた入口から入っていたが、もし別の場所からこの山に分け入ってはどうか。もしかしたらあの入口から入った者には迷うような術がかけてあるだけかもしれない。
そう思い、今度は村からそれなりに離れた場所まで移動して再度山へと入る。すると今度は迷うこともなく登ることが出来た。
原助から屋敷は山の中腹にあると聞いていたため登り始めた位置と村の位置を確認して、大体の方角を定める。もちろん、木の枝を折ったり幹に傷をつけたりと迷わないように道しるべを置きながら。
それから四半刻ほど歩いただろうか、不意に前方から小さな鼻歌らしきき音が聞こえてきて、慌てて気配を消し近くの茂みに隠れた。
(何だあれ・・・女か?)
気配を最大限消して茂みの隙間からのぞき見た先には二十を少し過ぎたくらいの妙齢の女が見たこともないような衣服を身に纏い歩いていた。
首元を隠すような衿の長い服の上には白い羽織りのようなもの(白のロングカーデ)を纏い、ひらひらと歩くたびに軽やかに揺れる太股までの長さの布。それなりに細い足は黒い布で覆われているが、それでも布と布の間から見える真っ白な太股がいやに眩しい。(人はそれを絶対領域マジックという。ちなみに着ている本人はちょっと今日の恰好若々し過ぎたかなと思っている)
顔こそはどこにでもいそうな位平凡だというのに、遠目から見ても引き付けられるなにかが、その女にはあった。
おそらくあれが噂の一家の一人なのだろう。
(ここは偶然を装って挨拶でもするか、それともまずは相手に怪我をさせないように攻撃でもしてみて噂の腕前を確かめるか。それとももう少し様子を見てみることにするか?)
偶然を装うにはこの山は少し広すぎるため却下。いきなりの攻撃も、相手がどれほどの腕をしているかわからないため保留することにする。
道久も刀の腕にはかなりの自信があったが、原助にけして逆らうなとしつこいほど言われていたし、不思議の術が本物だったら有権者である自分が彼女の機嫌を損ねてしまった場合とばっちりでこの国全体に災いがもたらされかねない。
(ここは暫くの間様子見だな)
声をかけるのは、彼女がなにか少しでも行動を起こしてからでいい。
なにかことを起こしてくれれば相手を見極められる。もし何事もおこらずこのまま彼女が己の館に帰ってしまうのなら、それこそ最初の予定通りこの山に入山した者を装って訪問すればいい。
足音を立てないように注意深く距離をとりながら彼女の後を付けていく。
相手が噂通りの人外的な存在なのか、それとも噂が勝手に一人歩きし、麓の人間達も誤解しているだけのただの女なのか、もしくは敵国の間者の類なのか。
相手が散歩をしている風だったのでこれは少し持久戦になるかもしれないと覚悟していた道久だったが、その機会は早々に訪れた。
のんびり歩いている彼女の前に、突如山賊らしき男達が現れたのだ。
「へへ、嬢ちゃんが噂の天女様かい?」
「天女って噂されている割には随分平凡なんだなぁ、身体も顔も」
ゲラゲラと下品に笑う男達は、しかしすぐに黙ることになった。いや、黙らされた。
遠目にも女の顔が嫌そうに歪んだかと思えば、体の芯が凍りそうなほどの冷たい空気が辺り一帯を包んだ。
それはそう、戦に出る人間なら誰もが知っているもの。刀よりも鋭く氷よりも冷たい、離れているここまで届くような強大で混じり気のない純粋な殺気だ。
山賊らしき男達に向けるには些か大きすぎる殺気。
そのすべてを拒絶したような冷たい空気に一体何が彼女をここまで駆り立てるのか。どうしてそんなに苛立ったような、悲しいような顔をしているのか。
肩を揺さぶり問い詰めてやりたくなった。足元にひざまずきそんな顔をさせた奴の代わりに許しを乞いたくなった。
何故そんなことを思ったのかは分からない。一国の主である己がただ一人の女にひざまずきたい等思っていいはずがないのに。
しかし、この場において彼女は絶対的な王だった。己も、彼女の目の前にいる山賊のような男達も、彼女の前では何の力も持たない弱者だった。
息が止まるかと思ったその数瞬が過ぎる。
殺気のはらんだ悲しそうな目が男達から離れたその瞬間、何もないところから四尺はあろう大刀が現れ瞬きのうちに二人の男の首を跳ねてしまったのだ。
剣筋さえ見えなかったその早さに道久は一人静かに戦慄した。もしあの時尾行する選択肢を選ばず襲い掛かっていたら、今目の前にいる男達の末路は己だったかもしれない。
「最悪」
ぽつりと彼女が零した言葉が耳に飛び込んだ。その後も何か言っていたが、ここからだと少し遠くてうまく聞こえない。
「苛々する・・・これも全部・・・私の領域に入って来た・・・せい。今度・・・殲滅させてやる」
所々聞き取れないところがあったがはっきりしたのは彼女がとても苛々しているということ。
「あははははははは」
身も凍るほど冷たい、しかし幼い子供のような笑い声が辺りにこだまする。
正直、鳥肌が立った。
彼女がひとしきり笑って終わると、男達の死体がそこにあるのですら罪だというように見る間に風化していき、そのかわり沢山の花が咲き乱れた。
すると辺りを覆っていた冷たい殺気は霧散し、かわりにどこか花のような香を含んだ風が辺りの症忌を吹き飛ばすように、しかし優しく吹き抜ける。
風がそよいだ後の彼女には先ほどの怒りも憎しみも悲しみもなく、かわりに優しく慈しむような眼差しを目の前の花に向けていた。
道久は村で言われた事を、ようやく理解した。
男達を消し去ったときのように冷たく殺気だったあの時も。
男達のそこにいた存在すら覆い隠すように咲き乱れた花をみる優しい顔も。
盗賊達を切り捨てたときの無邪気な残酷さも。
困っている人を助けている慈しみの心も。
どれが本当の彼女というわけではなく、どれも本当の彼女なのだ。
噂を確かめに好奇心半分であれこれ勝手に考えていたことを道久は深く恥じた。
人を助ける仙女?無邪気な妖?敵国の間者?
まさか。彼女は神だ。
優しくも残酷で、そこにあるのが当たり前な、神。
まるで火に焦がれる羽虫のように、人にあらざるその存在に手を延ばしてみたくて、手が動いた。
しまったと思う暇もなく動いた手は茂みを揺らし、大きな音を立てる。
その音に反応した彼女と、茂みごしに目が合ったような気がした。
微かな苛立ちを含んだ視線に捕われ、思わず腰の刀に手が伸びてしまうのはもう癖にちかい。こんな刀の一本や二本あったところで神に敵うはずがないというのに。
出て行ったらさっきの男達のように殺されるだろうか?彼女の領域を犯したのは己だ、怒っていないはずがない。しかし、このまま隠れていたところでその辺りにいる羽虫を潰すかの如く簡単にこの命を摘み取るだろう。
苛だたしげな視線の中に明確な殺意が芽生えた瞬間、たまらず茂みを出た。
「よう、あんたが噂の一家の一人かい?」
彼女の眉間にシワが寄るのを見て、失敗したと思った。
流石に気安過ぎたかもしれない。相手が苛立っているときならなおさらだ。しかし、こちらにも国主としての矜持があるためへたに下手に出ることも出来ない。
じっと見つめられ、心の奥まで暴かれたような心地になる。どうにか外面は取り繕っているが、それもこの深い闇のような目の前では意味を成さない。
多分、内心焦りまくっているのもばれている。試されていると感じたのは、一体いつぶりだろうか。
「お兄さんのいった噂がどれかは知らないけど、この山に住んでいる一家は私達だけだよ」
固い声だが返事をされ、一応会話に付き合ってくれるつもりがあることに内心安堵の息をついた。
「なるほどね・・・。あんたは、いや、あんたらは何でこんな辺鄙な所にいるんだ?人里にいられねぇ訳でもあるのか?」
「そこまで話す義理はないよ」
今度こそ、殺されるかと思った。それくらい冷たい声で言われ、全身の血の気が引く。
戦で殺されそうになったときも、どれほど危機に陥ってもここまで何かに恐怖したことはない。心臓をわし掴みにされる心地というのはこういうものをいうのだろう。
「お兄さんこそ何でこんな所にいるのさ。帰れなくなる前にとっとと家に帰りな」
「そんな怒るなよ、ちょっと聞いてみたかっただけだ。悪かったって」
返す返事はあくまで軽く。血の気が引いているのも、恐怖で足が震えているのもおそらくばれているだろうが、ここまでくればもう意地だった。
かちかちとうまく歯が噛み合わない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
息が、心臓が止まるかと思ったその瞬間。
「・・・別にいいけどぉ」
拗ねたような声に安堵し、言われた言葉に絶望した。
俺ごときにかける時間などないと言外に言われた気がした。
「わたし葵。ここへは気まぐれで来たの。お兄さんは?もしかして迷ったの?」
この世界へは気まぐれで来たのだといわれ、俺とこうして話しているのは気まぐれだと言われ、泣きそうになった。
「俺は道久ってんだ。そうだな・・・確かにちょっと迷って困ってたんだ」
国主として皆に持て囃されようが、戦でいくら武勲を立てようが、気まぐれ以上の理由でお前と話すことはないと言われたのだ。
この目に留まるためにはもっともっと努力しろと。その程度で何を驕っているのだと、言われた気がした。
「ふぅん・・・?麓へ戻りたいならここから少しいったところにある小河を道なりに下っていけば村へ辿り着けるよ。それともうちへ寄ってく?迷ってて疲れたでしょもてなすよ」
お前にその覚悟があるのなら。
神の住家へやって来て、己の足元にひざまずく覚悟があるのならと、そういいたいのだろう。
当初の目的だったが、今の俺にその覚悟はない。
「いや、今日はいったん戻ることにするぜ。また日にちを改めて来るから、その時は歓迎してくれ」
せめてその視界の端に映る程度の努力をしなければ、自分自身が許せない。
しかし彼女、いや葵は小馬鹿にするように鼻を鳴らすと、手を振ってその場から消えうせてしまった。もうお前には話すことすらないという事なのだろう。
その事実が肩に重くのしかかるが、今の俺にそれを嘆いているだけの暇はない。
すぐに城に戻らなくては。
出来ることなら過去に戻って暇だ暇だと言っていた自分を殴り倒してやりたいが、後悔に沈む間すら惜しい。
今は一秒ですら無駄にはできないのだ。
決意を胸に、道久は帰路についた。
神仙、妖怪と続いて今度は何と神様フラグが立ってしまいました。
いったい何という勘違い。きっと道久はこの後城に帰って狂ったように執務や稽古に精を出してまわりをびっくりさせたり心配させたりしていると思います。
そろそろ主人公だけじゃなくてその他の家族の人も出したいと思います。特に一番平凡であるはずのお父さんとか。
誤字脱字があれば報告お願いします。