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第三話  初めての出会い。信じる者と疑う者と。どちらにせよ多大な勘違い。

今回はほかの人の視点で執筆しております。

ノンストップ勘違い具合をご覧ください。


砂後助視点



はじめましてお侍さま。何かご用ですか?


あの山に住む家族のことですか?


申し訳ございませんがそのことについては軽々しく口にしないようにしておるのです。


・・・・・・・・・・・・。はぁ、お侍さまもひつこいお人ですね。しょうがない、出会った時のことだけお話しましょう。


私達が彼女と出会ったあの日のことは、今でも鮮やかに思い出すことが出来ます。


あれはそう、とても寒く凍えるような雪の日のことでした。


今年はどうにも不作な年で、どうにか取れた米も極少量。このままいけば冬を越せるかどうかの瀬戸際だったというのに重い年貢のせいですべて領主に取られてしまいこのままでは餓死するものも出てきかねない惨状でした。


元々この辺り一体を治めている領主は評判が悪く、民に平気で重い年貢を納めさせるような人物で今まで何度も横暴な欲求や取り立てがありました。


しかし、今回ばかりはどうにも無理でしたから直訴しに行ったところ、その結果は散々たるもの。次にこんなことがあれば軍を向けるぞという脅しの文と共に、使者として赴いた青年がぼろぼろにされて帰ってきたのです。


私達はひもじさとやり場のない怒り、それに加え身を切るような寒さに皆が縮こまり、日々を過ごしていました。


私は祈りました。


私達を助けてくださいと三日三晩神仏に祈り続けました。


そんなことをしても無駄だということは私自身が重々承知しております。神だの仏だの、そんなものは助けてなどくれません。


しかし、そうでもしないと心が折れてしまいそうだったのです。


そして四日目、昨日までふぶいていた吹雪が嘘のようにやみ日の光が雪に反射して眩しい朝のこと。私達の家に彼女が訪れたのです。


軽く戸が叩かれる音に気がついた娘がのろのろと閂を外し開けたところ、見たこともないような着物に身を包んだ娘さんが一人立っていました。私はあの時、娘さんの背後に後光がさして見えました。


凍てつくような冬だというのにまるで春の花のような香りのする柔らかな風と共にやって来た娘さんは私達の身の上を聞き、哀れに思ってくださったのでございましょう。


娘さんはこの村に残っている籾をすべて集めてくるように私達に指示を出しました。


一体何事と思いました。微かに残っている籾すら奪うつもりなのかと疑いました。


しかし、どうせこのままでは遠からず餓死してしまうのは目に見えておりましたので、突然現れた娘さんに私は賭けてみることにしたのです。


村全体の籾を集めるのはさすがに無理でしたので私の家に微かに残っていたものをかき集め渡したところ、娘さんは近くの田にその籾を無造作に蒔きました。


するとどうでしょう、田に積もっていた雪が一瞬で溶け、そこからみずみずしい若葉が生えたではありませんか!若葉は見る間に成長していき、やがて重そうに穂を垂らす黄金色の稲になりました。


「さあ、この稲を刈り、もう一度田に蒔いてください」(おいこらほうけてないで手伝えよ。)


目の前の不思議な現象に、私を含めた家族は暫く呆然としていましたが、すぐに納屋より道具を取って来て指示に従いました。


その頃になると村の人達も何事かと集まって来て、目の前で次々と育っていく稲に目を丸くしていたのは未だに印象に残っています。


指示されるまま実った稲を刈っては田に蒔く作業を続け、日が暮れる頃には村中の田に黄金色の原が広がり、私達は何とかその冬を乗り切ることが出来たのです。


ああ、きっと私達の祈りが天に通じたのでしょう。何度も何度も御礼をいう私達を、娘さんはただ静かに、しかし慈愛に溢れた微笑みを浮かべていました。


それからの事です。


領主が嘘のように改心して年貢を減らすおふれが出たり、いつもなら何日も外に出られないほど激しい吹雪が彼女がやって来てからぴたりと止みました。


(あんなぼんくら領主がいたんじゃ私達が安心して暮らせないじゃない。ヤキ入れしてやる。しっかし寒いわね、吹雪止めるか)


それに娘さんは優しいだけではなく厳しいところもあり、私達個人ではどうにもならないことは手を貸してくれますが、それ以外はけして手をかそうとはしません。


どうして?そう愚かにも聞いたことがございます。


すると娘さんは悲しそうな顔でこう答えました。


「だって、貴方達はそれに甘えるじゃない。自力で動かなくなったとき、人は堕落するのよ」(依存って正直面倒なのよね。いざというとき助けられない事態になったら勝手に裏切られたって思われるし)


私は己の浅はかさを罵りたくなりました。


そう、私はこの不思議な力を持つ娘さんに無意識に甘えていたのです。娘さんがいれば、すべてどうにかしてくれる・・・と。


手を貸すだけでなく、時に厳しく戒めてくる娘さんの優しさに目から鱗が落ちる思いでした。


おそらく娘さんは神仙の類なのでしょう。娘さんも、娘さんの家族の方も否定しておりましたが、おそらく並々ならぬ理由があってのこと。私は深く追究はしませんでしたし、村の皆にもむやみ探らないように指示を出しました。


山の中にある不思議の館から時折下りて来ては村の子供達と遊んだり恵みをもたらせてくれます。


お侍様、あの山へ登るのでしたらご注意を。


好奇心半分で行くのであれば、山に張られた不思議の力で麓に戻されます。


敵意があれば神罰が下ることもございます。


いえいえ脅すなど滅相もない。ただ噂を聞き付けやってくる方は多いということでございます。


そして娘さんとその家族はその手の輩を酷く嫌いますゆえ、五体満足で戻ってきたくばどうぞお気を付けくださいませ。









原助視点


ほう、やはり噂を聞いておいでなすったか。


いやなに、そろそろ来る頃かとは思っとりましたよ。十中八九、最近流れ始めた桃郷山の噂につられてしまったのじゃろ?


老爺心からいわせてもらえば、あまり近づいてほしくない相手ではございますな。


あの者達はこの世の者ではございません。人にあらざる物の怪にございます。


まぁ、物の怪だからといって悪しき心があるわけではございませんが、まるっきり良いものというわけではありません。


姿も形も人に酷似しておりますが、心の有様が人とはまるで異なっておる。


どう違うのかは筆舌しがたいが、話しているうちに己の中の何かが少しずつ壊れていくのじゃ。


ひょっとしたらこれが平和ぼけというものかもしれませんな。諸国が天下をねらって争っているというのにこんなに穏やかな気持ちになってしまえる。


時代が時代なら、ある意味これは害にしかなりませんな、はっはっはっ。


しかし、穏やかな雰囲気とは裏腹にあの者達はとても深い闇を身の内に飼っている様子。


慕ってくる者には優しいが、そうでない者には酷く冷酷じゃ。その証拠にある時娘と母親があの山にいた山賊達を無邪気な子供のように、実に楽しげに全員屠ってしまったのじゃ。


わしは二人に問い詰めた。何故このようなことをするのか、と。皆殺しにせず捕縛して役人に突き出せばよいではないか、と。


娘の使う不思議の術はわしも目にしたことがある。そしてなにより二人とも恐ろしく強かった。あれだけの技量があれば捕まえることなどわけはなかっただろうというのに。


怒るわしに、二人は不思議そうにいったのじゃ。


「何故生かす必要があるの」(こいつら根っからの悪人なんだけど。読心術使って調べたから間違いないし。おまけに捕まえて役人に渡したところで死刑が決まるんだからそんな面倒かけたくないわ)


「私の家の庭を荒らした罰よ。楽に死ねたんだから文句はないはずだわ」(あの庭作るのにどれだけ苦労したと思ってんのよこいつら)


わしはその言葉を聞いて、情けのうございますが震え上がりましての。


彼女達は何の罪悪感も抱いてはおらなんだのじゃ。


漆黒の目を丸くさせ、何故そんな簡単なことを聞くのとでもいうような澄んだ目で言われ、あの時はまるでわしが間違っているような錯覚に陥りましたぞ。


一を訪ねれば十を返す英知と、笑顔で虫を殺すような幼子の無邪気さを併せ持った、まことに恐ろしい者どもです。


砂後助達などは神仙の類だと言って崇めておりましたがわしにはどうも人を喰らい、そのことに対して何も感じない物の怪の類に思えてなりません。


常識がないというより、常識がわしら人間とは少々違っているのじゃろう。たまにじゃが、こちらのすることを訝しげに見ておることがある。


気まぐれに人の里にやって来て自由に過ごす、残酷にも純粋な物の怪の一家。


どれほどこちらから探りを入れても暖簾に風通しでちっとも本性を掴ませない。しかしうっかり深入りしすぎて逆鱗になぞ触れたらこんな小さな村一瞬で消されてしまうためその線引きも難しい。


どうやらあちらにも踏み込んでほしくない領域というものがあるらしくての。それを守るなら多少のことは気にしないが、踏み越えてしまえば待ち受けるのは絶望だけですじゃ。


一度深入りしすぎたときに浴びたあの殺気混じりの冷たい眼差し。わしでなければ心臓が止まっていたやもしれませぬな。背骨に氷柱を入れられたような気分になりましたぞ。


・・・よいですか、これはけして面白おかしく話しているのではありませぬぞ。

出来るなら貴方に行ってほしくはないが、どうせどれほど忠告しても聞かないのじゃろう?


はぁ、血気盛んなのはよいですが首と胴体が離れた状態で戻ってなど来ないことを祈っております。


そうそう、わしはあの家族と懇意なほうじゃし、わしの知り合いだと言っておけば最悪の事態は免れるじゃろ。


よいですか?あの山に入ると邪念などは一切抱かずただひたすら道なりに進むのです。あの家族が認めた者以外で屋敷にたどり着く条件は邪念を持っていないことと、強い思いがあるということだけ。


あの屋敷を見つけたら、住人に逆らうようなことだけは絶対にしてはならぬ。分かりましたな?


そうそう、もう一つ。


あの屋敷では身分や立場などといったものは何の役にもたちませぬ。


あなたが誰であろうが皆同じ扱いを受けるのじゃ。なにせあそこは世俗とは一切関係のない、この世にあらざる場所ですからの。





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