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第二話  どこにでもいる不思議な家族。拒否しても付けられる称号。嫌よやめて、私そんな存在じゃないんだから!(下)

「助かったぞ、実は今日が峠だった患者が何人かいたんじゃ」


一人一人どこか体に異常がないかを確認し終わった原助は元患者を診療所から追い出した。


そして手際よく湯を沸かしてお茶を二人分入れると片方を葵に差し出す。


「間に合って何よりだよ。それより他に怪我人はいない?」


「いや、ぬかるみに足を取られた結果擦り傷や打ち身程度の怪我人は山ほどおるがお前さんに治してもらわなけりゃならんような怪我人は今の所おらん。朝一で点呼とった結果行方不明者もおらんし、大丈夫じゃろ」


「了解。薬をいくつか置いておくから、今後手遅れになりそうな患者が出たら使ってね」


お茶を飲みながらどんな重傷者だろうが一口身体の欠損すら瞬時に再生できる薬、仮称エリクサー・・・を100倍に薄めたものをポーチから取り出すと手渡した。


流石に原液を渡すといらん混乱を招きそうなので、渡せるのは飲めば体調が回復したり、ちぎれてすぐなら手だろうが足だろうがかければ何とか皮一枚つながり今後動かすのに支障がでる程度に回復する効果のもの。


まだ効果が高いかもしれないが、これ以上薄めてしまえば効果がなくなってしまうのは何度も実験して証明されている。


原助は透明なガラスの瓶に入った淡く金色に光るそれを恭しく受け取ると、薬草等を仕舞っている棚の引き出しの中に片付けた。


ちなみに、これは本当に大事になった時以外けして使わないように言い含めている。


「これからどうするんじゃ?」


「村の様子も見たし怪我人の治療も完了。目的達成したし一度うちに帰るよ。明日にでも見舞い品として米俵持って来るから復興作業頑張ってね」


「葵嬢が手を貸せば、そんなもの一日とかからんだろうが」


「原さーん。それは契約違反」


ずずっ、と中身を飲み干した湯飲みを床に置く。


葵はこの世界にやって来て早々、山の麓のいくつかの村と約束をした。


一・ほぼ無償で有事のさいは手を貸すが、それは人の手に負えずこちらの手に負える範囲内にかぎる。


ニ・私達の事を安易に吹聴しない。


三・私達が手を貸してほしいと願えば最大限協力すること。


四・自分で出来ることはまず自分でやること。


やろうと思えば村の被害を一瞬でなかったことに出来るし、万が一死者が出ても遺体が有る限り蘇生させることも可能だ。


だが、必要に駆られないかぎりそんなことはしない。


頼られるのと依存されるのは全く別物だ。


『この人がいれば自分達は何があっても大丈夫だ』


そんな風に思われては堪らない。自分達はいくら化け物じみた力を貰ったとはいえ、神ではなく人間なのだ。すべてを救えるなんて幻想を抱いて人に手を差し延べるなんて無責任な事を出来るほど浅い人生を送っていない。


「知っておる。ならせめて外のぬかるんだ道をどうにかしてから行け、歩きにくくてかなわん」


「・・・なぁーんか知略臭いけどまあそのくらいならいいよ」


葵とて本気で原助が助けを求めていないのは知ってる。


最初に無茶だったり出来ない要求を突き付けて、その後に簡単な要求を突き付けどうにも断りにくくする。原助の常套手段で、いかにもしょうがないという風を装った遠回しなお願いだということを葵は知っていた。


葵はポーチの中からもう一度水袋を取り出すと一度診療所の外に出てぬかるんだ地面ぎりぎりに飲み口を近づけた。そして神経を集中して半径百メートルの地中の水分を集める。


地面から水分が抜け、触っても渇いた土が少し指に付くくらいになったのを確認して立ち上がる。


遠くで急に地面が渇いて驚いている村人を見つけ小さく笑った。


「さて、兄貴拾って帰りますか。源さーん、地面乾かしたから私そろそろ行くねー!」


「ああ。そうだ今度遊びに来なさい。体に良いお茶でも出そう」


「了解。それじゃぁね!」


テレポート、と移動場所を浩一のいる所に設定し口の中で小さく呟いた。


「まったく、あいも変わらず掴み所の無い娘じゃの。・・・まぁ、人外の存在ならば仕方のないことか」


可愛い妖怪め、と原助は呟いたことを葵は知らない。


一方浩一の方もちょうど最後の怪我人の治療が終わったらしく、仮の診療所として怪我人が集められていた砂後助の家でのんびり茶を啜っていた。


「よっす。どうやらこっちも終わったらしいね」


何も無いところから突如としてあらわれた葵に驚くこともせず、浩一は置いてあった急須からからの湯飲みにお茶を入れる。


隣に座るよう促すと、湯飲みを手渡した。


二杯めのお茶だが、葵は空気の読める娘だったためおとなしく差しだされる湯呑を受け取った。


「まぁな。命に関わるような怪我人もいなかったからわりとすぐに終わった。そっちはどうだった?」


「ここより下流だったからもっと酷いよ。氾濫した川の水のせいで潰れてる家がいくつかあった」


「まじかよ・・・」


「復興するのに時間かかるだろうけど、でも取り返しがつかないほどじゃないし大丈夫でしょう」


怪我人は完治させた。建物の破損もたかがしれている。


後は自力でどうにかなるだろう。


明日お見舞い品として米俵を三つほど届けにきて任務完了だ。


「葵様、浩一様、本日はありがとうございました」


大まかに指示を出して終わったらしい砂後助が縁側でのんびりしている葵と浩一の元にやってくると深々と頭を下げた。


見れば遠巻きにいる村人達も同じ感謝でいっぱいだというような顔でこちらを見ている。


手を振ってやればあからさまに花が飛ぶような笑顔が返ってきた。


そんな反応に葵と浩一は思わず冷や汗をかいた。これはどうにもこうにもまずい兆候だ。


できればこの予想が外れてくれる事を心から願いながら葵はひらひらと手を振った。


「いやいや、そこまで大袈裟に感謝されるような事でもないですって」


「そうだぜ、怪我人は治療しても復興には一切手を貸してないしな」


「いえそんな!あなた様方のような高貴な存在がこの村へいらして下さったことがすでに名誉なことなのです!」


「いやいやいやいやいや!高貴って何ですか高貴って!ちょっと人より違うかもしれませんけど私達一家は普通の人ですから!一般人ですから!平民ですから!!」


どんどんおかしな方向に話がいってしまっているらしく、砂後助の目はなにか眩しいものでも見るように煌めいていた。


だめだ、完璧になにかのフラグが立ってしまっている。ここでどうにかしなければややこしい事になるに違いない。


浩一に『どうするこれ!?』とアイコンタクトをするが、『知らねーよ!』と返されてしまい、心の中で頭を抱えた。


冷や汗ダラダラな二人に追い撃ちをかけるかのように小さな女の子が一人たたたたたっ、と走ってくると、そのまま勢いよく葵の足に抱き着いた。


「あのね、お父さんの怪我を直してくれてありがとうございます仙女様!」


「仙女ぉぉぉ!?ちょっ、どこから引っ張って来たのその設定!」


おまけにここの村の怪我人を治療したのはうちの兄さんだよ!


そう悲鳴に近い声をあげるが、女の子はきょとーんとした顔で首をかしげた。


「でもあの怪我が治る薬を貸してくれたのは仙女様なんでしょ?」


「いや、確かにあれ出したのは私だけどさ(汗)っていうか、私仙女じゃないからね!?普通の・・・普通?・・・うん。普通の人だからね!?」


必死に否定するが、女の子は聞く耳持たずといった感じでにこにこ笑いながら足に纏わり付いている。


この娘どうにかしろよというSOSの視線を浩一に向けるが「治療したのは俺なのに・・・」と落ち込んでいて話にならない。ならばと砂後助のほうに顔を向け・・・そっと視線を外した。


今だかつてないほど砂後助の目が輝いていたのだ。


「こら百花ももか葵様達を困らせるんじゃない。人であると偽るのも、きっとなにか事情がおありなのだよ」


「あのー、もしもし?なんか話がとんでもないことになってませんか?」


「分かっております。その存在は秘密なのでございますね?ご安心ください、むやみやたらと皆様の事を吹聴する輩はこの辺りの村にはおりませぬ」


清々しい笑顔で言われ、葵はとっくに取り返しのつかない事態になっていたのだということを悟った。


もう渇いた笑いしか出てこない。


おまけに遠巻きの村人の中には二人の事を拝むものまで出ている始末。


「は、はははは・・・・・・はぁ」


かくして、ここに一家仙人というフラグが立ったのである。







これは後から聞いた話だが、葵達が仙人として崇められる理由の一つとして、けして村の人達を甘やかさないというのがあった。


葵の力をもってすればあっという間に解決する問題も、敢えて自力で解決させ甘えてばかりいてはいけないという事を説いたのがえらく感動されたらしい。


本人にしてみれば面倒事は極力避け、自力でなんとか出来るところは手を貸さないことにより生まれる反発心(人は何でも出来る人間に甘え、それを拒絶されれば何故手を貸してくれないのかと反発する生き物だ。自己中ともいう)を利用し適度に距離を置くつもりだったが、どうやらそれが裏目に出たらしい。


反発どころか、甘やかすばかりではないという所に好感がもたれ、人間としてかなり上等な、おまけにチート能力を披露しているため不思議な力を持つ人。つまり人を超越した仙人として誤解されたのだ。


おまけに家族の事も仙人と思われているらしく、兄においては仙界を守護する武神と勘違いされているらしい。


それを聞いた葵がどうするんだこれと頭を悩ませたのはまた、別の話である。





なにはともあれ、葵達トリップ一家の二度めの人生は始まったばかりであった。



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