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第八話  緩やかな時間の流れ。ちょっ、待ておい!これって新しい厄介事!?(上)

人は自分と違うものを極端に嫌う傾向がある。


目の色が違うもの。髪の色が違うもの。肌の色が違うもの。


そんな者達を人は嫌悪し、忌避し、排除しようとしる。それは個ではなく群でしか生活することのできない人間の本能に染み付いたものだろう。


しかし、それはなにも人間に限ったことではない。


鳥も動物も、生まれてきた子供が自分達と違えば真っ先に排除の対象としている。そしてそれは妖怪にもいえること。


昔あるところに一匹の小さな狐の妖怪がいた。


九本の尻尾に血のように紅い瞳、そしてまるで雪のように白い毛皮をしたその小狐は五匹いる兄弟のなかでも一番小さかった。


両親も他の四匹の兄弟は皆黄金色の稲穂のような毛並みをしているのに、真っ白な毛並みをしているのはその小さな狐ただ一匹だけだった。


当然、その小さな狐は皆から嫌われ、常につまはじきにされていた。


両親にはお前など私たちの子供ではないと放置され、他の兄弟にはいじめられ、狩りをするときなど真っ先に囮にされる。死にかけたことなど一度や二度ではない。


小さな狐は恨んだ。


こんな姿に産んだ両親を恨んだ。


からだが小さいから、いつもいじめの的にする兄弟を恨んだ。


生きている世界を、小さな狐はボロボロになりながらも、ただ恨んだ。


そしてやがて気持は摩擦していき、心はどんどん虚ろになっていった。


とうとう相手を恨む気持ちすらおきなくなり、日々をあきらめの気持ちで過ごしていたある日のこと。その子狐にとって今までの人生を変える出来事が起こったのだった。







それはなんでもないある日のこと。


空は青くて雲ひとつない快晴。冬の身を切る寒さも和らいだ心地のよい日だった。


たまには家のなかではなく外でのんびりするかとぶらぶら桃郷山のなかを散歩していた浩一は小さな小川をたどりながら時々なっている野イチゴやアケビ、山桃などを食べながら平和を満喫していた。

明らかに季節を無視している果物や野菜が、この山には時々なっていることがある。おかしなことだが、桃郷山事態葵がさんざんいじくり回したせいで大分非常識なことになっているため、あえてその辺りは突っ込まない。


そのもっともな例が白夢幻の庭だ。


葵と千梨が情熱の限り好き勝手チート能力全開で趣味に走ったあげく、妙に凝り性な昭義がちょくちょく口を挟んだためか凝りにこったものが作られてしまった。具体的には一年通して様々な花が咲き乱れた花壇とか、行事好きな千梨がいつでも花見ができるように、万年散ることなく梅と桜が咲いている木があったりとか、小さな池で泳いでいる虹色の魚(メイドイン葵)とかがいい例だ。


最近になって浩一が少し離れたところに作った果樹園には、春に実るイチゴ畑に真っ赤なイチゴがなっている隣で秋に実る栗や柿が実もたわわにみのっているというカオスっぷりである。


しかし、こんな風に手を加えているのはあくまで庭や果樹園の面積といった限定された範囲内でのはなし。


手を加えていないはずの場所にさっきのあけびや野イチゴのような季節を無視した現象がおきていたのに気づいたときには、家族総出で大慌てしたのはもはやいい思い出だ。


葵と千梨が真っ青な顔で原因を調べた結果、異変が起きているのはこの山のなかだけでふもとの村や近隣の山などには一切の変化はなし。季節のサイクルが狂っている場所も基本的には木一本とか半径一メートル程度の範囲であり、数も少数。


庭や果樹園にかけた時の魔法はかなり強力なものだったため、その余波が原因ではないかと話し合いの結果そう結論付けられた。これからその範囲が広くなったり数が多くなったりしたら対策考えなければならないが、とりあえずは静観するというところで話はまとまった。


世界の理をねじ曲げるのは基本的にタブーである。その事をよく知っていた葵達(昭義はあくまで一般人のため除外)は、そのため時間を狂わせるのは最低限の範囲だけにとどめた。


下手なことをしてはどこでどんな風な弊害がでるのか予想すらできない。ならば庭や果樹園など作るなと言う話だが、そこはきっちり神を召喚してO・HA・NA・SI・・・ではなく、きちんと話をして、あまり頻繁かつ広範囲にかけなければたいした問題ではないとお墨付きをもらっているため問題はない。


「なんつーか、平和だな」


いきなりよその世界へいって勇者になったり魔王になったり世界を救ってみたり滅ぼしてみたりしなくてよくて、家族は全員そろって五体満足同じ世界。よそは天下統一とか戦国時代みたいなことをしているが、その戦禍はここまで届かない。


この国の国主であり、最近たまに遊びに来る道久は喧嘩好きではあるが好戦的ではないため無駄な戦をしようとはしないし(葵に変な影響を与えられたため)、以外と好戦的ではあるが空気も読めて礼儀も正しい天狗の白桜は(こちらは昭義に影響された)なまった体をほぐす相手にはちょうどいい。ふもとの村の人たちもいい人ぞろいだ。


現代ほど安全ではないかわりに、前の世界ほど危険でもない。


のんびりとしたスローライフ。ただし回りはいつもゴタゴタしているため退屈はしない。


「悪くねぇよな、こんな生活」


葵の奔放ぶりにも、千梨の無茶ぶりにも、昭義の天然ぶりにももはやなれたものだ。


この三人の皺寄せが一身に降りそそいでくることには一度徹底的にもの申してやりたいところであるが悲しいかな、ヒエラルキー的に言わせてもらえば底辺にいる浩一があの三人に勝てるわけがないのである。


心境的には


あれ?なんだか目から水が溢れてくるなぁ。・・・ち、違うからな!これは涙なんかじゃないからな!これは・・・・・・心の汗だ!!


みたいな具合で日々過ごしている。


もうこのさい放置してやろうかと思ったことなど星の数。しかし、唯一葵と千梨が言うことを聞く昭義はもう狙ってんじゃないかと疑うような天然ぷりをここぞというときに披露してくれるのではっきりいって頼りにならない。


ここであの三人の手綱をはなしてしまえば確かに楽に離れるだろう。しかし、それは同時に単体で世界を征服することができるだけの力を持った人間二人と、人材ホイホイであると最近発覚した天然一人を野にはなつと同じ意味なのだ。


浩一は自分のことを凡人だと思っている。確かに力や能力は常識を逸脱しているが、それはあくまで必要にかられたために身に付いたものである。ゆえに、スペックはともかく性格および精神面ではそれなりに一般人なのだ。


一般人ゆえに、こんな爆弾三つを放り出して平気でいられる精神はしていなかった。


自分の不憫さと言うか、割りきれない小心者っぷりに本当に泣きたくなってしまった浩一だったが、そこはまぁぐっと我慢。


「この世界にやって来て、村の連中から崇められ、葵と親父が国主を引っ掻けてきて、天狗を一人ご招待ってか?こうなるともうそろそろ新しい面倒事が起きるような気がするぜ」


頼むから俺のことだけは巻き込んでくれるなと思わず呟いてしまったのが悪かったのか。それを人はフラグと呼ぶが、いつどこでたつのかわからないそれは今確実に立ったと言えよう。


道なき道を気ままに進むことそれから数分。小川のそばで全身傷だらけの血まみれ狐耳+尻尾のコスプレ幼女(推定九才瀕死)を発見し、見事フラグを回収したのだった。




「ロリ誘拐・・・だと!?」


「午前二時ってヤツ?」


「おやおや、かわいい女の子だね」


誰が何を言ったのかは、説明しなくてもわかるだろう。


浩一は露骨に口許がひくついたのをかんじた。


幼女を発見するやいなや慌てず騒がず万が一のことを考えて常備していたマテリアの中から回復のマテリアを取り出して回復してやる。ぼろぼろの、もはや服としての機能をはたしていない布切れ状態の着物の代わりに自分が着ていた上着で素早くくるむ。


そんなことがとっさにできてしまうあたり、普段の苦労人さがみてとれた。


明らかに訳ありであると言わんばかりだが、あんな大怪我をして、しかも意識をうしなっている子供をこのまま放置するわけにもいかず連れて帰ったとたんの第一声があれだ。それは確かに顔のひとつもひきつりたくなるだろう。


明らかに面白がっている二人と、いまいち状況が理解できていないらしくいつも通りにぼけぼけとしている昭義に己の味方は一人もいないということを悟り、一瞬目の前が暗くなりかける。


しかし、こんなことはいつものことなので頭を軽く押さえるだけにして、ひとまず幼女をソファーへと寝かせる。


浩一の着物でくるんではいるが、万が一少女の血がソファーについてしまわないように葵にバスタオルを一枚持ってくるように指示をだす。


持ってこさせたタオルをソファーの上に広げさせ、その上に寝かせ寒くないように軽い毛布を一枚かぶせてやる。


細やかな気遣いのできる男、それが浩一なのである。


常時適温に保つためエアコンが稼働しているとはいえ、大量の血を失ったためかじゃっかん青白い顔をしているのに気がつき、押し入れからもう一枚毛布を持ってきてかぶせてやった。マテリアで回復できるのはあくまで怪我や体力だけなので、失われてしまった血液などは戻らないのだ。


そうしてアフターケアも万全に済ませると、いまだににやにやしている葵と千梨の額に一発強いデコピンをおみまいしてやった。


痛いとか酷いとか騒いでいるがそこは華麗にがん無視を決める。最近このスルースキルが上達してきたような気がするのは恐らく気のせいではないだろう。


「静にしろよ二人とも。この子が起きちまうじゃねーか」


寝返りをうったひょうしにずれてしまった毛布をかけ直してやりながらそういうと、さすがにそれはかわいそうだと思ったのか慌てて声の音量をおとした。


しかし、その目からは溢れんばかりの好奇心が見てとれ、浩一は深いため息をついた。


(そろそろ別の厄介事が来る頃だ来る頃だとは思っていたが、まさか俺がその当事者になっちまうなんて考えてもみなかったぜ、ほんと)


今まで厄介事とといえば他の三人が率先して持ってきていたため、解決や尻拭いに奔走したことはままあってもこんな風に当事者になることはほとんどなかった。


畜生めんどくせぇなどと思いながらも放置するなんて外道なまねのできない一般人(似非)。そんなのだから日頃苦労するんだとわかっていてもやめられない。だって一般人(似非)だから。


とりあえず葵にサイレンとの魔法を幼女のまわりにかけさせ、周囲でいくら騒いでも心配ないようにすると、場所をソファーのまわりからリビングのテーブルへとうつし、早速事情聴取というなの尋問が開始された。


「兄貴兄貴、あの女の子どこからさらってきたの?」


「人聞き悪いこと言うな。散歩してたら道に落ちてたんだよ」


「あの子服ボロボロだったけど、あんたまさか変な事したんじゃないでしょうね」


「おふくろ、おれはロリコンでも性犯罪者でもねぇよ。自分な息子をなんだと思ってんだまっく。あれは俺が見つける前からあんなんだったんだよ」


「おいおいおい、それってもしかして、あの女の子怪我でもしてたのかい?そりゃ大変だ!葵、救急箱どこだったっけ!?」


「全身ボロボロの虫の息だったけど、ここに連れてくる前に全部治療したから大丈夫だ親父、ちょっと落ち着け」


「ねぇ浩一、それであの子結局どうするつもりなの?」


「それを今考え中」


「とりあえず兄貴はロリコンってことで」


「それは断じて認めねぇ!」


などなどといったやり取りの結果、とりあえずは様子を見て幼女が目を覚ましてから今後の事を決めるということで落ち着いた。


それからの行動は早かった。


千梨は目を覚ましたときにお腹がすいているといけないと消化のいいスープを作り、昭義は破れてしまった着物の代わりの服を探しに押し入れを漁る。葵は幼女をボロボロにした原因が近くにいるといけないから結界を強化し、もしもの時の襲撃に備えた。


それから浩一はというと。


「なんで俺がこんなことしなきゃなんねぇんだよ。明らかに人選ミスだろこれ」


拾ってきた張本人なのだからと、幼女が目を覚ました時のためのお目付け役を押し付けられてしまっていた。


もともと目付きも悪ければがたいもいい男など子供受けするはずもない。下手をしたらせっかく目を覚ましたというのにまた気絶してしまいかねない。


浩一自身己のことはよくわかっている。なんど近所の子供達に顔が怖いと泣かれたことか。


それを知っていながらの人選。この悪意しか感じられないキャスティングにおもわず下唇を噛む。


しかし、拾ってきたのは紛れもない事実のため、深くため息をつきながらソファーの近くに椅子を移動させ座った。


できれば目を覚ますなり自分の顔を見てなかないでくれよと祈りながら、周りで人が慌ただしく行き来しているなか静かにため息をつくのだった。


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