第六話 初めてのお宅訪問。手土産と大掃除。疑うべきか信じるべきか!?(中)
移動した先は砂後助の家の居間で、ちょうど向かい合って座っている三人の真ん中に現れてしまったようだ。
最初は道久に挨拶しようと思った葵だったが、道久の後ろに目つきの悪いヤクザといかにも俺、遊んでますといわんばかりの軽そうな男が控えていたため急遽方向転換。軽くあげた片手をそのままに右足を軸にして砂後助のほうを向いた。
「やっほ・・・・い。いきなりお邪魔してごめんね砂後助さん」
後ろからこちらを射殺さんばかりに睨んでくる重義と、探るような、しかし隠しきれない好奇心を多分に含ませた芳光の視線がそれはもうグサグサと。穴が開くんじゃないだろうかとすら思ってしまうほど背中に感じるがそれは気にしないことにした。
しかし、結果的に一国の国主とその腹心をがん無視したことなり、それが原因で葵を除く四人の誤解混じりの認識は深まっていくばかり。
道久はあくまで自然体を装ったその後ろ姿に己との格の違いを(勝手に)感じいっそう精進しなければと決意を新たにし、重義は国主をあっさりと無視した事に腹を立ながらもただ者ではない空気を(勝手に)感じ取り警戒をあらわにする。砂後助はいわずもがな、いかにもお偉いさんですといった三人を無視できるその姿に痺れるあこがれるぅ!状態、むしろ余計に崇拝心が増したらしい。初対面(重義もそうだが、こちらは父と兄とに面識がある)芳光に至っては
(やっべぇ、いきなり何もないところから出てくるとか忍びでもできねぇよ。恰好良すぎるぜこの嬢ちゃん!)
と、警戒するよりも好奇心のほうが勝っている始末。
ただでさえ一家揃って余計なフラグが立ちまくっているというのに、ここでも一つ新しいフラグが立ちかけてしまっている。しかも既に立っているフラグはもはやなにかに進化しそうな勢いだ。
三者三様どころか四者四様でカオス過ぎる事態に陥っている。
しかし、面と向かって言われたわけではないのでそのことを葵が知るのはもう少し後になるが。
「いえいえかまいませんよ。少々お待ちください、ただ今お茶を」
「んー、今日は遠慮しときます。この人達回収しに来ただけだから」
いそいそと立ち上がりお茶の準備をしようとする砂後助を葵は制し、道久達を親指でクイッと指差した。
その瞬間重義が殺気もあらわに腰にさしていた刀に手をかけるが、芳光に腕を押さえられ抜刀事件には(かろうじて)ならなかった。
「抑えて、抑えて重義!こんな所で刀なんて抜いちゃダメだって!」
「離せ芳光!このガキに礼儀というものを教えてやる!!」
「ぎゃー!ちょっ、おーちーつーけー!」
後ろで繰り広げられる二人のコントは見ていて十分面白いものだったが、このままでは話が進まない。
しかし下手につつくともっと手に負えない事態になることは火を見るより明らかだ。
ここに伝説クラスのツッコミ人である浩一が居ればまた話は違ったのかも知れないが、あいにく本人は行くのが面倒だとうちで待機中。
しかし、葵自身はどちらかといえばツッコミというよりはボケ派の人間である。必要ならツッコミも担当するが、あまり得意ではない。
しかし、後ろでは(主に葵の)命をかけたコントが繰り広げられている。
この状況をどうにかして打破するために葵は考えた。
そして考えた結果。
「それじゃぁ早速私の家に行こうか。もう昼食の準備は出来ているんだ」
面倒な事は全部スルーすることにした。
ボケ殺しは嫌われるが、物語を円滑に進めるにあたって重要なスキルでもある。
「わざわざ悪いな、迎えに来てもらって」
「大丈夫大丈夫、気にしないで。でもなんで道久は砂後佐さんの家にいたのさ?あ、もしかして家に辿り着けなかったとか?」
葵にそう指摘され、道久は少し言葉に詰まった。
本当なら時間には余裕をもって出てきていたし、何も問題が無ければ30分は早く目的地に着くことが出来たのである。
しかし、麓の村に馬を預けいざ山に入ろうとしたのはいいが何度登ってもいつの間にか入口に戻ってしまうといういつの日かの繰り返しになってしまい、どうしようもないので砂後助に道案内してもらおうと尋ねたのだ。
葵がやって来たのは、そのちょうどすぐ後のことだ。
「・・・無理だったんだね」
「情けない次第だぜ」
「でもおかしいなー。あらかじめ連絡くれてたから道久とそのお供の二人はちゃんと迷わず来れるようにしといたはずだけど」
そう、葵は道久達が山で迷わないよう結界に『道久とその近くにいる二人』はちゃんと家にたどり着くように新たな設定を追加したのだ。
本当は細かい設定を入れ一人一人『大丈夫』な人間として登録するのが一番なのだが、道久以外の人間を葵は知らなかったためおおざっぱなものとなってしまった。
しかしながら通常ならこれできちんと案内されるはずなのだが、実際三人は麓に逆戻りさせられている。
もしやなにか不備でもあったのか、と思い神経を集中させて結界を調べてみるが、特にこれといって支障は感じられなかった。
「一応三人一くくりにしてたからよっぽど離れて歩いていたか、そうでなければ警戒対象に入るくらいこちらに害意を持って・・・」
そこまで言って、思い当たる節があるのか二人は顔を見合わせた。
そして、同時に未だこちらを威嚇している重義に視線をやる。
「ねぇ、もしかしてさ」
「・・・・・・いや、何と無くだが言いたいことは分かった。頼むからそれ以上は言わないでくれ」
「・・・・・・・・・いや、でも」
昭義と浩一から城であったことは大まかにだが聞いている。
一連の出来事で何かしら相手側が思うところがあったのかも知れないということは想像に難くない。そして今、目の前でちょっと生意気な口をきいただけで刀を抜こうと過剰反応する人物が約一名。
なるほど、何となく納得だ。
二人は生温い笑みを重義に送ると、それに気がついたらしい重義が一度怒気を納め首を傾げた。
「いや、何でもないぜ。なぁ葵」
「うんうん。何でもないよ」
ねーっと二人で言うと、重義から下手な追究をされる前に葵は常時腰に付けているミニポーチから筆を取り出す。何をするつもりだと疑問に思う道久と警戒する重義ともはや好奇心を隠そうとしていない芳光を横目に空間に大きなドアを書く。
筆が滑った場所にまるで墨で書かれたような線が現れ、傍目から見ると非常に摩訶不思議な光景だ。
葵が線を書ききると同時に線が淡く発光し、ピンク色のドアが現れる。
「どーこーでーもードーアー!・・・ささっ、中に入っちゃって」
ガチャリとドアをあければ、そこは茜雲家の玄関へと繋がっていた。
見慣れない光景と、何もないところからいきなりドアを作り出した技に呆気に取られていた三人だったが、ドアの中からちょいちょいと手招きをされてはっと我に返る。
慌てて道久が立ち上がれば、それに釣られるように残りの二人も立ち上がり促されるままドアをくぐった。
砂後助は葵がドアを書き始めた直後何をするのかを悟り三人のわらじを回収し、さささっとドアの向こう側に並べる。
「それじゃぁまたねー」
「はい。いつでも遊びにいらしてください」
ニコニコと微笑みながらきっかり四十五度のお辞儀をすると、そっとピンクのドアを閉める。
閉まるのと同時にゆっくりとドアが掻き消えるが、完全に亡くなってしまうまで砂後助は例の姿勢を崩すことはしなかった。
一方、どこでもドアで連れて来られた道久は見たこともない内装に呆気に取られていた。
茜雲家は特に洋風和風というこだわりはないため、しいていうなら『現代風』な家をしている。しかし、純和風が当たり前のこの時代では目新しく写るのは仕方のないことだろう。
(見たことのない造り、見たことのない装飾品。なるほど、確かにこれは噂になるはずだぜ)
内心口笛を吹く。
「たっだいまー」
「お帰り葵。道久君達はいたかい?」
「いたいた。三名様ご案なーい」
リビングに三人を通すと、すっかりテーブルのセッティングを終えたらしい昭義がエプロンを外しながら四人を出迎えた。
ソファーで寝転んで本を読んでいた浩一も棚の埃を拭いていた千梨も一度作業を中断して立ち上がる。
そして最後に葵が振り返ると、ニコッと笑って大袈裟な動作でお辞儀を一つ。
「ここはこの世ではない場所。何のしがらみもない中立地域。ようこそ我が家へ、私達はあなた方を歓迎します」
遅くなりました…
何というかすごい難産な作品でしたが、どうにか完成です。しかし、多分後で手直しすると思います。
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