第六話 初めてのお宅訪問。手土産と大掃除。疑うべきか信じるべきか!?(上)
昭義が道久の城を訪れてから十数日、いよいよ茜雲宅訪問の日がやって来た。
道久としてはもっと早く行きたかったのだが、得体の知れない相手だと危惧した重義に足止めという足止めをされ、相手方の都合も伺っていたらいつの間にか結構な日数がたってしまっていたのだ。
自慢の料理の腕を披露するため昼食をご馳走したいという相手方の好意を考え、供は腹心の重義と芳光の二人だけ。
こちらでは一日二食が当たり前だったが、どうやらあちらでは一日三食とるらしい。これが文化の違いというやつなのだろう。
せっかくのお誘いなので朝は控えめにし、昼には腹を空かせられるように調節する。
重義は相手が相手だからもっと護衛を連れていけと二人に説得されたが、だらだら大人数を連れていって機嫌を損ねたらそれこそことだと説得に二日を費やし、ようやく出発となった。
手土産は櫛に着物、茶器など色々考えに考えた結果、あからさまにご機嫌取りと思われないよう無難に和菓子を選んだ。もちろん、司国随一の老舗和菓子屋に特注した一品だ。
少し無理を言って作ってもらった販売されていない新作の和菓子。万が一甘いものがダメだったときのため甘さ控えめのものと二種類作ってもらった。
上機嫌で城を出た道久だったが、供について来た重義と芳光の機嫌はあまりよろしくなかった。
国主が怪しさ爆発の所へたいした護衛も連れずに行くなど、重義はもとより家臣であれば誰だっていい気はしない。寧ろ断後拒否すべきことだ。
しかし、一度言い出したら聞かない道久の性格を知っているためどこと無く二人の今の気持ちは諦めに近いものがあった。
「ねぇねぇ殿、今から行く葵ちゃんって娘一体何者なのさ」
「あぁ?」
桃郷山の噂は芳光も聞き及んでいたし、今から行く場所は桃郷山に最近住み着いた仙人とも妖怪とも呼ばれている得体の知れない家族の住む家というのも聞いた。
しかし、桃郷山のことは所詮噂でしか聞いたことはないし、道久とその一家。特に娘の葵と呼ばれる女との間に何があったのかまでは知らないし、少し過剰なまでに相手を警戒している重義とその葵の父親と兄との確執も知らない。
つまり、一人だけ蚊帳の外状態にあった芳光だけが中途半端な情報を与えられたままいまいち意味がわかっていなかった。
道久はいやに相手を崇拝している節があるし、それとは真逆に重義は警戒しきっている。
そんな反応をされてはこちらも相手に対しどういう態度をとっていいかわからない。
重義のように警戒するのは普通だが、もし本当に道久が思っているような人物の場合過度な警戒は失礼にあたる。
笑って流してくれるような人物ならいいが、そうでないなら後々禍根を残しかねない。
噂を聞く限りでは、相手は相当に人間離れをしている。
「重義はなんか知ってるっぽいけど、俺は相手のこと何も知らないんだけど?最低限事前情報ちょーだい」
道久と重義の反応を見るかぎり方向性はどうあれただ者でないことだけはわかる。後は実際合って自分の目で見定めるしかないのだが、それにしても情報が無さ過ぎた。
「娘のほうは知らねぇが父親のほうはとんだ狸だ。嘗めてかかると知らない間に掌で躍らされてたなんてことになるぜ」
「酷い言いようだね重義」
「懐がでかいのは確かだがな。葵の方は・・・口では説明しずれぇな。自由で残酷で平等で慈悲深くて、神がいるんならまさにそんな感じなんだろうって俺は一目見たときにそう思ったぜ」
「崇拝してるね殿」
余計頭がこんがらがってきたため、芳光は相手について考えることを一切やめた。
どちらにしろこれから会いに行くのだ、かなり不安は残るものの情報があやふやなままな以上下手な憶測は立てられない。
きちんとした情報は相手を知る判断材料になるが、先入観は相手の人物像を歪めてしまうからだ。
(鬼が出るか蛇が出るか、はたまた妖怪が出るか仙人が出るか)
ちなみに大穴は噂が独り歩きしすぎで道久と重義の二人が勘違いしすぎている、一般人というやつだ。
実際はこれが当たらずとも遠からずといったものなのだが、それを芳光が知るよしはない。
道久に持たされた土産の和菓子が入っている箱を傾けないように気をつけながら、これから会うことになる一家のことを考えそっとため息をついた。
一方、道久が来ることになった茜雲家は二日前から家中ひっくり返して大掃除をしていた。
いくら権力に興味のない葵達も、さすがに国主を招くのだから掃除くらいしたほうがいいんじゃないかということで家中掃除をし始めたのだ。
そのかいあってか家中ぴかぴかになり、いつでも迎えられるように準備が整えられていた。
テーブルには美しい花が飾られ、窓は曇り一つないくらい磨きあげられている。台所では昭義が腕によりをかけて昼食を作っており、いいニオイが部屋に充満していた。
時間はちょうど昼時。
そろそろ道久達が来る時間だ。
しかし、この世界にはまだ時計のように正確に時間を刻むものがないため、昼頃に来いとはいったが正直いつ頃ここにたどり着くかは不明。キッチンの様子を覗き、もうすぐ完成間近だということを確認する。
このままあと五分間って来なかったら迎えに行こう。
そう葵は思った。いい加減腹の虫が限界を訴えている。
「葵ー、料理出すの手伝ってくれ」
「はいよー」
昭義に呼ばれ葵は台所に入り、綺麗に皿に盛られた料理を次々とテーブルに運んでいく。
本日の昼食は
コーンポタージュ
サラダ
クリームスパ
照り焼きチキンステーキ
野菜のクリームリゾット
抹茶のミルフィーユ
以上の六点。
本当は純和風にしようかとも考えたのだが、どうせならなかなか食べられないものを食べてもらいたいと昭義は考え洋風にしたのだ。
ちなみにポタージュとサラダはそれぞれ人数分の器に入れて用意されているが、スパとステーキとリゾットは淵の深い大皿に乗せられテーブルの上に鎮座している。
本当はこれらもひとつひとつ皿に盛りたかったのだが、相手は毒味だの何だのをしなければいけない立場の人間。当然のように一皿一皿毒味がされることになるだろう。
相手にとっては当たり前のことだろうが、料理を作ったほうからすればあまり気持ちがいいものではない。
ならば、いっそ最初からみんな自分でよそおう形式にすればいいと千梨が提案し、今回のような形になった。みんなが同じ器からとるのだから、毒の心配はいらないと印象付けるためだ。
すっかり準備はととのい、後は目的の人物の来訪を待つばかり。
「おい葵、あいつらいつくるんだよ」
「昼ぐらいには来るっていってたけど、この世界まだ時計ないからいつ来るかわかんない」
「あー・・・そういやそうだった。どうすんだよ料理冷えるぞ」
「兄貴迎えに行って来てよ」
「めんどいお前行け」
正直めんどくさい。
そう思ったが、このままではらちが明かないのもまた事実。
「・・・了解っす」
浩一に言われ葵は渋々道久達を探しに行くのだった。
葵は四次元ポケットの中から一枚の羊皮紙のような紙を取り出す。ハリポタで出てくるどこに誰がいるかリアルタイムでわかる忍びの地図だ。
因みに葵はこれに手を加え指定した範囲内を詳細に映し出すように改造したのだ。
「我ここに誓う、我よからぬことをたくむ者なり」
すると桃郷山を中心とした半径三キロの地図が浮かび上がる。
足跡ではわかりずらかったため、人がいるところでは赤い点が動いてあり、探したい人がいればその点の上に名前が浮かび上がる仕組みだ。
そうして道久以下二名を探してみると、ちょうど砂後助のいる村にいることがわかった。
「いたか?」
「案外近くにいた。あ、約束守って共は2人みたい。護衛もいない・・・不用心な」
葵は迎えに行ってくることを告げると、テレポートで一気に皆のところにまで飛んだ。
皆様お久しぶりでございます。
かなり間が空いてしまいましたが、見捨てないでいただけてとてもうれしいと思っております。
これから更新ペースを取り戻していこうと思っておりますので、どうぞ末永くお付き合いくださいませ。
感想もまっております。