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第一話  おいでませ異世界。夢に見た永住。きっかけは血とすき焼きの香り。(上)

皆様はじめまして。これが初投稿となる茜雲 鏡ともうします。

基本一話完結だったり上中下に分けたりしながら物語を投稿していこうと思います。

つたない文章ですがこれからよろしくお願いします。

辛口批評はへこむので、できればそっとソフトに感想とかおねがいします。


私は、一般的にトリッパーと呼ばれている存在だ。


いつでも何処でもというわけではないが、平均して年に四・五回はトリップしている。おまけに一度トリップしてしまえば戻れるきっかけも滞在する期間もその時によりまちまちで、向こうで二年くらい過ごしてきたというのにいざ戻ったら三日しか経っていなかったなどざらだ。その逆もまたしかり。今の所驚くほど時間にタイムラグが出るようなトリップはしたことないが、そのうちリアル浦島太郎をやりそうで怖い。


そのため学校にも安心して通えず、何日も姿を見せないことがたびたびあり、近所と学校での私の評判は引きこもり娘か、家出娘のどちらかだ。まぁ家族の理解があるから私はそれほど気にしていないが。


私の家系はどうやらトリップしやすい血筋らしく、私ほどではないにしろ母も兄も最低一度はトリップ経験者である(因みに父は婿に来た人なのでトリップしたことはないが、私達がそんな体質持ちだということは知っている)。


トリップといえばちょい厨二病な人間にとって一度は憧れる現象であるが、よく考えてほしい。何の前触れもなく全く自分の知らない世界にほうり出されてしまうのだ。


そこが平和な世界だったらいい。しかし、うっかり中世ヨーロッパみたいな世界にほうり出されてみろ、違う世界から来ましたなんて言えばまず間違いなく頭がおかしいと思われるか、最悪魔女や悪魔の使いと間違われ火あぶりにされてしまう。因みに私も一度経験がある。どうにか逃げ切ったが、あの時は本当に危なかった。


他には王道的にオタクの憧れ、魔法が日常的に使える世界や魔王が支配している世界なんてのにも行ったことはあるが、その手の世界は文明が未発達の場合が多く人一人の命がとても軽かったりして、正直あまりいい思いではない。


勇者としてとある世界に召喚された事も二・三度ある。しかし、実はこれが一番思い出したくもない思い出だったりする。


勇者として召喚するところはたいてい自分達じゃどうしようもない爆弾を抱えていて、それを伝説だの何だのとこじつけてこちらに押し付けてくる場合がほとんどだ。世界を救うだの魔王を倒すだの、本来自分達がしなくてはいけないことをさも当然のようにこちらに放り投げてくる。


そりゃもちろん純粋に救いを求める人もいるが、そんな人間はごく一部。特に貴族だの王族だのはその存在を最大限利用しようとするし、魔王退治なんてでかい仕事を終わらせれば次はその力がこちらに向かないように、自分達に危険が来ないようにとうまく濡れ衣を着せて始末しようとする事すらあった。因みに二回目の勇者召喚のときの出来事である。


あの時は兄と一緒に召喚されていたため二人してブチ切れ、暴れるだけ暴れ国宝だの伝説の武器だの一切合切を強奪の末その国の軍隊を壊滅、敵国に底値で売り付けてやった思い出がある。はは、ざまーにやがれ。もちろん奪った宝は兄と二人で家に持って帰った。ちなみにこれは余談だが、見た目普通の庭付き一戸建て4LDKのわが家の地下は宝の山だ。たまに他の家族がトリップした先で同じように財宝を持って帰って来ては地下にほうり込むため財宝は貯まる一方。別に家族揃って豪遊とか興味ないから文字通り宝を腐らせているが。


さて、そろそろ私と私の家族の紹介はいいだろう。いろいろ愚痴ってしまったかもしれないが、それだけ山あり谷ありの人生だったと思ってくれると有り難い。


話が一部思い切り脱線してしまったが、これからが話の本番。


実は私、ついさっき交通事故であっさりと死んでしまったのである。


何をあっさりと言っているんだと思う人もいるだろうが、いやほんと、これはマジな話しだ。


魔王に勝負を挑まれても国に戦争を吹っかけられても男女の三角関係に巻き込まれてもその時その時のトリップ特典(魔法だったり、頑丈な体だったり)とそれまでの知識を総動員させどうにかこうにか生きてきたっていうのに、何で一番死亡フラグが立たないだろうと確信していた故郷(生まれた世界)で死んじゃうかなぁ!?


まだ二十代に突入したばっかで、色々あったし他人の何倍も濃い人生送ってきたけどそれでも人生これからで、まだ彼氏の一人も出来てないっていうのに!


「畜生、責任者出てきやがれ!」


「こりゃ、女の子がなんて言葉遣いしとるんじゃ」


「てめぇかぁぁぁぁぁ!!」


ぼんやりとした光と共に現れた白いローブ姿のじいさんを渾身の力でもって殴り飛ばした。


どすっ、っといい音を立てて拳はじいさんの鳩尾にのめり込み、そのまま勢いよく宙を舞う。


そこに一切の躊躇はない。罪悪感もない。何度も色々な世界にトリップをして命の危険に曝されていると、見た目がじいさんな位じゃ戸惑いは持てなくなるのだ。


悪即斬とは言わないが、いきなり光と共に現れるようなじいさんは、経験上①妖精②精霊③妖怪④神⑤元凶くらいなものだ。人間という可能性もあるが、光と共に現れるような人間が一般人なわけがない。ならたとえ姿がじいさんだろうが手加減する必要はない。


「ぐ、ぐふっ。おぬし神であるわしになんて真似を」


「よっしゃ、選択肢④来たこれ死ねぇーー!」


「ぎゃー!!」


素早くマウントポジションを取り首を締め上げれば耳障りな絶叫をあげる自称神。


「おいゴラ、神が一体なんの用なんだよ。こちとらついさっき死んだばかりで気が立ってんだ」


「お、おぬしが死んだことについて少し説明に」


掠れた声でそういわれ、締め上げていた手の力を少し緩める。


力が緩んだことにより盛大に咳込む自称神の上からどくと、腕を組んで仁王立ち。


「で、説明って?」


「いやな、本日の交通事故死亡者リストを半分寝ながら決済してたから、どこからか紛れ込んだおぬしの名前に気がつかなかったんじゃ。ごめん☆」


「ごめんじゃねーー!!」


「ごぎゃぁぁぁ!!!!!」


ごめんごめんと謝る自称神にプロレス技のメドレーを決めてしまった私は悪くない。


関節を外し骨を折るようなつもりで技を決め、とどめのバックドロップでもって華麗に止めをさすと、いい感じに痙攣している自称神の背中を踏み付ける。


罰当たり?うっかりで人を殺してくれたこいつに払う敬意なんぞ持ち合わせてないわ!


「あんたのせいで死んだんだから、当然詫びはしてくれるんでしょうね!?」


「もっ、もちろんです・・・がふっ」


白目を剥いてしまったが、そんなことで許すような優しい私ではない。


容赦のよの字も無くたたき起こす。


「の・・・望みを言ってくださいませ。叶えさせていただきます」


「当たり前でしょ。まずは・・・そうね」


いやに腰の低い自称神に次々と要求を突き付けていく。


りあえずは第二の人生となるべく平和な世界。そしてこの厄介な体質の改善。トリップ特典でよくある無駄に頑丈過ぎる体と高すぎる身体能力。ありとあらゆる世界で経験習得してきた技術の再習得。錬金術等を何の代償もなく使いたい放題というチート並の力と、それらを完璧に使いこなすだけの技術もだ。力だけが強くても完璧に扱えなければ意味がない。


経験だけなら無駄にしてきた。技術の習得もそれに同じく。


しかし完璧十全に扱えるかといえば難しい。


行き当たりばったりの展開がほとんどのため、とっさの応用力には自信があるしある程度のことは初見であったとしてもそれなりに扱う事が出来る自信がある。いや、扱えなければとっくの昔に私はこの世にいない。


十分には扱える。しかし、十全ではない。


少しの差かもしれないが、これから安定した生活を送るとういことを前提に考えればこの少しの差が命取りになることも、可能性としてはあり得るのだ。


様々なシチエーションをイメージして、どんな場面になろうが大丈夫なよう万全に備える。


しいて不満をあげるならこれから第二の人生をエンジョイする世界くらいだろう。


本当は生き返させてもらいたかったのだが、神いわく一度死ぬことによって『世界』に『消滅した』と認識されてしまうらしい。


そうなると蘇生させることは出来なくなる。もしも強引に蘇生させようとすれば一度消滅したものがそこにあるという矛盾が生まれ、最悪世界に拒絶される事があるらしい。


しかも今回の事故自体本当なら起こらないはずだったもののため『世界』が私という存在をイレギュラーと認識し、拒絶反応が出たらしく転生させることも無理のようだ。


一番望む世界が無理だというならなるべく平和な世界がいいと主張するが、どうやら行く世界はランダムで自由には決められないらしい。自称神に間接技とジャイアントスイングをかましても無理だと喚いていたから、本当に無理なのだろう。


つまり、いつものトリップと同じで行き先は選べないという状況になったわけだ。


ならどんな世界に行こうが必ず生き残れるだけの能力をふんだくらなければいけない。幸にして自称とはいえ相手は神。大抵の融通はきくはず。


そして思いつく限り必要な能力や道具などを並べ立てたのが無茶ぶりチートもほどほどにしとけよといわんばかりの要求だ。所々無理だと言われたが、そんなものは聞かないふり。一番叶えてほしかった願いが没になったのだ、どんな世界に行くかわからない以上死亡確率を最大限低くするためにここは譲れない。


ちなみに、今まで習得してきた技術はトリップした先の環境をもとに構成されたものが多く、生まれ育った世界の戻ってくると使えなくなってしまう事がほとんどだった。さすがにそういった類のものはこれからの行く世界でその力の原因となるものか、またはそれに近いものがなければ再現はできないといわれてしまった。


まぁ、流石にそこはしょうがないと思って(だって発動に精霊の力とか、その世界の神の力とかをかりて発動するものもとか、力の源がなければどうやったってむりだ。その辺は理解している)渾身のアイアンクローを決めるだけで許してあげた。


「そんなに死にたくないならいっそ不老不死とかにもしてやろうか?」


確かに、死ぬことはなさそうだが・・・生憎不老不死などに興味はない。


「女として不老は嬉しいけどいらない。不死も嫌。ってか、行く世界は特定できなくても禁忌と名高い不老不死は出来んのね」


「まぁ神だしの」


「意味わかんねーよ」


ずっと若いままっていうのは魅力的だが、下手をしたら化け物扱いされかねないので考えもの。不死に至ってはこれから行く世界で知り合う人や愛する人に置いていかれるため却下。自分一人だけ生き残って正気でいられるほど私は強くない。


目指せ平和な世界。


守れ平凡な生活!


最終目標は沢山の孫たちに囲まれての老衰だ!!


神に要求した力は、きっとどんな世界に行ったとしても異質なものだろう。いっそ無いほうが平凡な生活をおくれるにちがいない。


しかし、いざ、という時に守るだけの力が、敵を退けるだけの力が無ければ幸せは簡単に壊れてしまう。


色々な世界を見て周り、戦争に巻き込まれ蹂躙された人達を、力がないために虐げられる人達を山ほど見て来た。


綺麗事だけじゃ世界は渡っていけないということを私はよく知っていた。・・・そんなこと知りたくなかったけど。


「流石にもうないな? ってかもう無理じゃぞ」


「んー大丈夫。これくらいあれば大抵はどうにかなると思うし」


「生まれ変わりで一からスタートするか?それともそのまま行くか? 生まれ変わるなら適当な夫婦の元に宿らせてやるが」


「パス。私の両親はあのお人よしバカップル夫婦だけだもの」


普段はあまり考えないが、やはり居場所というものは大切なもの。半ば根無し草の如くあちこち行きまくる私だからこそ、帰る場所の大切さというものは人一倍理解しているつもりだ。


今回の事故で私はそれを完全に失ってしまった。


しかし、安易に新しい場所を得ようとは思わない。


確かに一度生まれ変われば私はその夫婦の子供という『居場所』を得ることが出来るが、私の両親はあの二人だけだ。他の人を代役にはしたくない。


我ながら親思いだなぁとかちょっと自己陶酔していたが、はたと思い出した。


なかばいつものトリップするノリでいたが、思い出してみれば私死んでんじゃん!


やばい、きっとみんな悲しんでるに違いない。


「ちょっと神!」


「なんじゃい。能力を設定するのは意外に神経を使うんじゃぞ? そもそも無茶な能力ばかりリクエストしおって」


ぶつぶつと呟きながら何やら空中に手をさ迷わせている神に構う事なく続ける。


「私の家族の様子見せて。今すぐに!」


「なんじゃホームシックか?」


「違うわボケナス。トリップならともかく交通事故でスプラッタになったんだから家族の反応が心配になるに決まってるじゃないの。戻るのは諦めてるけど、せめてちらっとでも様子見れない?」


自称神はフム、と少し考えると大きく広がった袖の中から掌くらいの大きさの鏡を出した。


「これを両手で持って様子を見たい場所を思い浮かべるのじゃ。そうしたら鏡にその光景が映るようになっておる。会話もできるぞい」


「サンキュ」


受け取った鏡を覗き込み、家族のことを強く思い浮かべた。


家事全般が得意で気の弱いところもあるが、いついなくなるかわからない母と結婚するような懐の深さを持つ父。


性格も腕っ節も男前過ぎてトリップしたり召喚されたりした先の世界を救うこともはや二桁の大台。娘の私がいうのも何だが美人で未だに星の数ほど求婚してくる男がいるくせ、ただ父一人を一途に愛する母。


どう見てもヤの付く職業の人間にしか見えない顔付きをしているくせ、その実はとても繊細でガーデニングや小物作りが趣味な兄。


とてもとても大好きで、かけがえのない人達。


死んでしまった私の事を悲しんでくれているであろう、最愛の人達。


「せっかく意識があるんだし、お別れの言葉くらい言わないとね」


強く強く相手の事を思っていると、ゆっくり鏡に写っている私の姿が歪みだし、違う風景が映り出した。


見慣れた家具の配置、この景色から考えておそらくリビングだろう。


そこには私を除く家族が全員そろっており、







笑いながらすき焼きを食べていた。



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