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ダンジョン捕食者の巣作り

 『公益冒険者ギルド』

 通称、ギルドは冒険者を取りまとめ運営する営利組織だ。

 ギルドが行う年に数回の試験をクリアしなければ、正規の冒険者になることはできない。


 冒険者になって初めてクエストを受注やダンジョンへの立ち入りが許可され、その働きにより多額の報酬を受け取ることができる。

 だが、冒険者になるような輩はならず者と呼ばれていたろくでなしだがほとんどなので、ギルドの裏をかいて、不正に冒険者となる者が後をたたない………それは僕のことか。


 僕とエミリーはそんなギルドが運営する酒場に赴いていた。

 この酒場がギルドの窓口としてクエストの斡旋から各種報酬の受け渡しなど、あらゆる雑務担っている。

 だから冒険者の中ではギルドといえばこの酒場なのだけど、相変わらずフロンティアSにしては珍しい石レンガで組まれた建物は堅牢と呼ぶに相応しく、一説によると冒険者同士のいざこざで魔法をぶっ放されても壊れなかったとか。



「どうも皆さん。こちらにいらして下さい」



 僕らが酒場に入るとスカルヘッドの奴が手招いてきた。

 冒険者でごった返す酒場の中でも、奴のうざったい声は何故かよく通る。

 どうにか酒場の喧騒を乗り越えて席に座ると、スカルヘッドはこちらに何も言わずに麦酒を4つ注文した。

 しばらくして、

 何もなかった机の上には大ジョッキがずらりと並べられる。

 


「スカルへ………ヨハネ、本当に『灰毛』がパーティとして認められたんだよな?」

「はは、レイさんは心配性だな。もちろん大丈夫ですよ。全てはこのヨハネにお任せください」



 冒険者になるだけでもそれなりに大変なのに、パーティの承認となるとさらにハードルが高いはずだ。

 だが、ヨハネからそんな様子は見られない。

 実に簡単なことでした。とでもいいたげに注文した麦酒を飲み干している。



「時にレイさんはパーティの承認に何が必要になるかご存知ですか?」

「いや、恥ずかしいけど僕は知らない」

「いえいえ、知らなくて当然ですよ。あくまで確認のために伺っただけです。

 さて、パーティの承認を受けるためには二つのことが必要になります。一つは金星以上の肩書き、これは自分が細工をしてエミリーを金星の冒険者として認めさせましたので御安心をしてください。そしてもう一つは二つの異なるパーティからの推薦、一つは『白翼』から、そしてもう一つは」


「私たち『教会』が受け持ちます」

「!??」


 

 唯一空いていた席に、突如としてよく知る魔物が現れる。

 豊満な身体に柔和な笑み、服装はダンジョンの時と打って変わり露出の全くない修道服であったけど、その特徴的な容姿を見間違うはずもない。

 彼女の名は、



「ミ、ミリア!?どうしてこんなところにいるんだ」

「声が大きいですよ。それに私はミリアではありません。私の名前はテレジア………テレジア・リリスです」

「はあ!?」

「ミリアとは人間でいうところの双子のようなものです」



 双子?ミリアにそんな者がいたなんて。

 でも確かにミリアと纏う雰囲気が全然違う。

 なんというか理知的というか、破天荒なミリアと比べてテレジアからは落ち着いた印象を受ける。



「へえ、あなたがテレジアですのね。ミリアから伺ってはいましたけど本当にそっくりですわ」

「初めましてエミリー様。この度はスカルヘッドの独断のお詫び、それと我らの提案をお受けしてくださったことに感謝を」

「お気になさらないで、礼儀を知らない者にお灸を据えただけですので。それでミリアは息災かしら?」

「ええ、またエミリー様のところに奉仕に行くのだと、精力的に働いております」



 どうやらエミリーも初対面のようだ。

 見た目は完全に瓜二つだけど、魔物同士でなら見分けがつくのだろうか。

 


「さて、面子も揃ったことですし。早速『灰毛』の登録に移りましょうか」

「待ってくれ、まさか魔物しかいないこの面子でパーティの承認を受けるつもりなのか?」

「何か問題でも?」

「大アリだろ!冒険者はダンジョンから宝を回収して魔物を討伐するのが仕事だろ?それを、」



 途中まで言葉にしかけて気がついた。

 僕は冒険者が人間だと決めつけていたけど、現にスカルヘッドという前例がいる。

 もしかして魔物と冒険者は両立するのか?と、

 


「別に説明してあげる義理は自分にはないのですが、、、どうします?テレジアさん」

「要点だけ説明してあげましょう。きっとその方がエミリー様の心象もよくなるはず」

「あら、よく分かっていますわね」



 どうやら、この場で理解していないのは僕だけのようだ。

 スカルヘッドはやれやれといった様子で両手を肩まで上げていたけど、テレジアの言う通りに話はちゃんとしてくれるようだった。



「要約すると、ギルドの設立には魔物が関わっているんですよ」

「はあ?」

「その説明では些細を省きすぎです。補足をすると、設立には大賢者ユアンと私達の母リリス・リリスが出資をしているのです」

「それが本当なら、ギルドは人間と魔物が運営する組織ってことか」

「利害の一致というやつです。大賢者ユアンは奪われた財宝を、母リリスは魔物と人間の共生を望んでいます」



 自分の中の常識が崩れていくのが分かる。

 今まで倒すべき敵だと思っていた魔物が、実は僕ら冒険者を操る立場の存在だったなんて、、、


 このことをエーデリカが知ってしまったらどう思うだろう。

 魔物に強い怨みを持つ彼女のことだ。

 きっとギルドと対立することになるだろう。

 そして規律を反した罪に問われて………この先は考えないようにした。


 要は今まで通り知らなければいいんだ。

 例えそれが彼女の本意ではないとしても、これならエーデリカは冒険者でいられる。



「ご理解いただけましたでしょうか?」

「未だに半信半疑なところはあるけど、概ねは………つまるところ、魔物だろうが人間だろうがギルドの意向に従う限り問題ではないんだな」

「そんなところです。流石に大手を振って我らは魔物です。とは言えませんけど」

「でも余計に分からなくなったことがある。僕らを冒険者パーティと認めて、ギルドに何のメリットあるっていうんだ?」



 思慮深く見せたくて強がってみたけど、ギルドが魔物と人間の組織ということは信じるしかないだろう。

 名だたる冒険者パーティに、魔物がこうしてメンバーとして参加しているのだから。

 

 でも、それと僕らを冒険者パーティとして認めることはまったく繋がらない。

 ダンジョンとは宝の山だ。

 宝の中身はどうあれ、ダンジョン自体に相応の値打ちがある。

 もちろんエミリーのダンジョンも同様で、『黒皮』が専属を外れたのだったら、他の冒険者パーティが黙っていないはずだ。


 それを僕らのような新参の冒険者パーティを専属に付けるとなると、ギルドは他のパーティから反感を買うことになる。

 そこまでして専属とさせる理由が、今のところ僕には思い当たらない。

 


「単純にエミリー様と良好な関係を続けたい。それだけのことです」

「散々ちょっかいをかけておいて、よく言いますわ。鼻からリリスとアクトレアのいざこざに首を突っ込むつもりはありませんのに」



 エミリーが反応した。

 ちょっかいというのは、冒険者のダンジョン攻略のことだろうか。

 


「その件は申し訳ありません。こちらに全面的に非があります」

「ふん、まぁ今回の件で許して差し上げますわ」

「ありがとうございます。これからはギルドが干渉することは無いと思われますので、ご安心ください」

「そう願いますわ。仮に約束が果たされず、私の巣作りが邪魔された場合はそれ相応の報いを受けてもらいますので、リリスにもよく伝えておきなさい」



 どうやら、今後ダンジョンに冒険者が来ることは無くなりそうだ。

 エミリーもそれを望んでいるし、僕もその方が気が楽でいい。

 ダンジョンに入られると否応なしに戦いになるし、それで死人がでたら目も当てられない。

 短いながらも冒険者稼業に身を置いていた者として、同業者との殺し合いが避けられるなら魔物のおかげだとしても何よりだ。


 でも一つ気になるのが、



「巣作りって何のことだ?」



 僕の問いに答える者は誰もいない。

 エミリーは頬を赤らめるだけだし、スカルヘッドもテレジアもそっぽを向いて素知らぬ顔していた。

 この時点で何かよからぬことだというのは薄々感づけたものの、魔物の知識がない僕では、それが何なのかまでは予測できないのが現状だ。

 

 だから「あ、そろそろパーティ承認の手続きしなきゃ」とテレジアにわざとらしく話を逸らされても、それに逆らう手札は持ち合わせていなかった。


 それでも、この時ちゃんと問い詰めておけばよかったと、後々になって後悔するのだが、それはまた別の話である。

 


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