ダンジョン捕食者の勘
『天宮』はフロンティアEの大通りにある、ぼちぼち宿泊料の高い宿屋だった。
有名冒険者パーティが御用達の高級宿屋、
貧乏冒険者の僕には到底泊まることはできないし、今後する予定も今のところない。
そんな宿屋の前に、僕は来ていた。
ここに来たのはもちろんエーデリカに会うため、逃げるための方便で約束してしまったけど、守らないと後でどうなることか。
破ったら最後、草の根分けて探し出され地の果てまでも追いかけて来るに違いない。
それだけは勘弁願いたいところだ。
それにしても気が重い。
真面目なエーデリカのことだ。
出会い頭に僕を捕まえて、孤児院へ強制送還するつまりかもしれない。
「気が重い理由はそれだけじゃないけど」
「まぁ、まぁ、まぁ、ここがレイたちが寝泊まりする場所ですのね。ふーん、中々に大きなところですわね」
これがその理由、
あろうことか、ダンジョンからエミリーのやつが着いてきたのだ。
もちろん抵抗はしてみたけど、
「私、擬態には自信がありますわ。そうですわね、、、冒険者の仲間というのはいかがでしょう」
と、強引に押し切られてしまった。
まあ、仕方がない。
どのみちこれからもエーデリカに会うつもりなら、エミリーを紹介するのは避けては通れない道だと分かっている。
すでに僕の半身はエミリーで、生きていくたまに必要な存在なのだから。
それに悪いことばかりでもない。
エミリーを利用すれば、僕が『黒皮』とは無関係だと言い張ることができる。
おそらく黙って冒険者になったことよりも、そっちの方がエーデリカは心配なのだろう。
エーデリカに嘘をつくことになるけど、これ以上心配はかけることはなくなるはずだ。
「何をぼーっとしてますの!早く会いに行きますわよ。私からレイを奪おうとする不届者に」
「何回も言ってるけど、エーデリカとはそんな関係じゃないから。同じ場所で育った家族みたいなもので、、、頼むから大人しくしてくれよ」
「それは、相手の出方次第ですわ」
意気揚々と先を行くエミリーに、一抹の不安を感じながらも、僕はその後に続くのだった。
※※※
「いらっしゃい。待ちくたびれちゃった」
ギィっと扉が軋み、中からエーデリカが出迎えてくれた。
昨日と同じようなラフな格好をしているけど、今日は赤茶の髪を高めに結って、ポニーテールにしている。
「お邪魔しまーす」
宿屋といえ、初めて招かれた女の子の部屋は甘い匂いがして、どこか懐かしい気持ちになる。
これは嗅いだことのある匂いだ。
確か………孤児院にいた頃、よくおやつで食べた。
ゴッッ!
突然、脇腹に鈍い痛みが走る。
額に汗を滲ませながら振り向くと、脇腹にエミリーの膝が突き刺さっていた。
「何するんだよ!」
「私というものがありながら、他のメスに鼻の下を伸ばすなんて、、、実にいい度胸ですわ」
「いや、違うって」
「何が違うのかしら?」
「匂いだよ。バターと砂糖のいい匂いがするだろ?」
「そんな物は知りませんわ」
嗅覚がないのか、この魔物は!
などと思ってしまったけど、エミリーに限ってそれはありえない。
エミリーの身体は人間と同じ構造をしている。
そう本人から聞いている。
なら五感は当然備わっているわけで、
そういえばウツツケを食べさせたときも、喜んではいたけど甘いとは表現していなかった。
もしかして、バターと砂糖の香りも感じ取れてはいるけど、それがいい匂いだとは思っていないのか?
「ええっと………そのお嬢さんはどなたかしら?」
「ああ、そうだよね。彼女は、」
エーデリカから当然の疑問をぶつけられる。
忘れているつまりはなかったけど、エミリーのことをエーデリカは知らない。
「エミリーといって、僕が所属しているパーティ『灰毛』の代表なんだ」
「どうも初めましてになるのかしら、私はエミリーと申します」
「いえいえ、こちらこそ………って、そういうことじゃないわよ。いや、自己紹介はありがたいですけど、なんでその代表が一緒に着いて来たのかまで知りたいの!」
相変わらずいい反応をしてくれる。
この辺は昔から変わってない。
ダンジョンで再会した時は、まるで別人のように冷たい感じがしていたから、少し安心した。
それはそうと、エミリーのことはちゃんと誤魔化さないと。
大丈夫、ちゃんとそれっぽい言い訳は用意している。
「エーデリカは覚えていないようだけど、エミリーもダンジョンにいたんだ。昨日、エーデリカと再会したことを伝えたら、お見舞いに行きたいって聞かなくって」
「その節は本当に申し訳ありませんわ。うちの狂犬が加減を知らないばっかりに」
「きょうけん?」
「いや!それはその………エミリーは獣使いなんだ」
少し見苦しいけど、咄嗟に思いついた言い訳としては筋は通る。
問題があるとすれば一つだけ、
獣使いが少々珍しいといったところか。
昨今の冒険者といえば、魔法戦士であることがほとんどで、それ以外は適さないとされている。
だからもし問われることがあるのなら、もちろんエミリーも魔法戦士だと答えるつもりだったのに、
ほんと、余計な手間を増やさないで欲しい。
「ふーん、今どき珍しいのね。まあ、丁度いいわ。作り過ぎちゃったと思ってたのよ」
「やっぱりこの匂いって」
「私のスペシャルスコーンよ。まさか忘れたなんていわないわよね」
エーデリカは意気揚々と部屋の中に案内してくれた。
宿屋の一室だけあって質素な部屋であったが、清掃が行き届いた綺麗な部屋だ。
そして中央にある机の上、そこにはスコーン達が山盛りに積まれている。
これが扉を開けた時の、バターと砂糖の香りの正体だ。
「これは何かしら」
「スコーンという、、、食べ物だよ」
「へえ、これも食べられますのね」
「この子もしかして、スコーンを知らないの?」
「そ、そうなんだ。ほら、冒険者なんて基本的に携行食か酒屋で食べるから」
エーデリカは「ふーん」と、少し不審に思ったようだったけど、それ以上は何も追求してこなかった。
ならず者が集まる冒険者の間で、過去の経歴を探るのはあまり好まれたことではない。
エーデリカもそれに倣って、余計な詮索はしないでくれたのだろう。
「うーん、もそもそとしてますわ」
「ごめんなさい。お茶を出すのを忘れてた。少し待っててね」
と、いってエーデリカは部屋を出ていった。
お湯を取りにいったのだろう。
大きいとはいえ所詮は宿屋、
寝泊まりする以外の機能はこの部屋に備わっていない。
「はぁ、緊張した。頼むから変なこと言わないでくれよ」
「なんのことかしら?」
「狂犬とか言ってただろう。あれのせいで余計な設定を考えないといけなかったの。上手く誤魔化せたからよかったけど」
「ですけど事実ですし。ミリアったらレイ以外は放っておくようにと言いつけましたのに、、、あの娘には悪いことをしましたわ」
「そういえば、僕が気を失ってからどうなったんだ?エミリーと繋がったから、その後の場面だけはなんとなく知ってるんだけど」
「やだ、繋がったなんて、、、恥ずかしいですわ」
エミリーは照れたように視線を僕から逸らす。
頬は夕焼けのように赤くなり、よからぬ想像力が働いているのが手に取るように分かる。
エミリーのこの偏った知識は誰に植え付けられたのやら、これはいつか改める必要があるな。
「普通に答えてくれると嬉しいんだけど」
「もっと反応してくれてもよろしいですのに」
「いやだってエミリーは魔物だから、容姿に騙されそうにはなるけど、正体を知ってるから最後の最後で冷静に見れてしまうんだよね」
「レイの半分はすでに魔物ですのに、未だにそんなつれないことを言うのね」
「それはそうなんだけど」
ぐうの音もでない。
己が半分魔物だということは、昨日いやと言うほど味わった。
エーデリカとの追いかけっこ。
あれでエーデリカに魔力の身体強化を疑われてしまったけど、僕自身は何にもしていない。
きっと魔物になってしまった影響で、基本的な身体能力が人間ではなくなっている。
お笑いだな。
強くなって、冒険者になって、ダンジョンで記憶喪失の手掛かりを探して、そしてエーデリカと魔物を倒そう。
なんて夢見てたのに、
蓋を開けて見れば、そのほとんどは魔物であるエミリーから授かってしまった。
「まぁいいですわ。といっても、私の知ってることなどしれていますわよ。あの場に私が辿り着いた時、レイは気を失っていましたし。スコーン女を含め他の人間達の姿はすでにありませんでした」
「うん、それは知ってる」
「ミリアは仕留め損なったと悔しがってましたので、生きているとは思いましたけど、、、私が知っているのはこの程度のものですわ」
「そうなのか………」
やっぱり、エミリーの知ってる情報は僕と大差がないようだ。
蘇生される時に繋がった影響で、わずかに知り得た記憶の断片、
それだけでは、エーデリカの記憶がなくなった原因を知ることは出来ない。
「そんなに気になるのなら、当事者に聞いてみるといいですわ」
「当事者?」
「ミリアは口にしませんでしたけど、あの場にはもう1匹の魔物がいましたわ。残滓を残さないように注意していたようですけど、、、いい加減に入って来たらどうですの?」
エミリーは違う誰かに話しかけているみたいだけど、この部屋には僕以外は誰もいない。
しばらく状況が呑み込まず呆然としていると、ドアノブがガチャリと回転した。
初めはエーデリカが帰ってきたと思ったのだけど、お茶を淹れてくるには少し早すぎる。
案の定、ゆっくりと開かれた扉の向こうには、見知らぬ若い男が立っていた。
若いといっても僕よりは歳上だろう。
おそらく歳は20そこそこ、
表情は柔らかくて、見た目は優しそうな印象のお兄さん。と、いった感じだったけど、今は返ってそれが不気味に映る。
感覚で分かった。
こいつも魔物だ。
得体の知れない、どんよりとした魔力がそれを裏付けている。
「いやはやバレてましたか。今回は上手く隠れたつもりでしたが、、、まぁいいでしょう。ようこそ、いらっしゃいました、我が真影のエミリアル」
「余計なことは口にするなら殺しますわよ?ねぇ、スカルヘッド」
スカルヘッドと呼ばれた男の片眉が吊り上げる。
ただそれだけなのに、場の空気が極寒の冬空のように冷え切った。
身体の半分がヒリヒリする。
まるで本当に冷気を帯びていると、肌が錯覚しているようだ。
「これは失礼しました。それと今はヨハネ・ラステンブルと名乗ってます。どうかヨハネとお呼びください」
ヨハネはエミリーの前まで来ると、主人に傅く家臣のように仰々しく膝を着いた。
エミリーはその様子をうっすらと流し目で確認する。
パッと見れば、跪いたヨハネが下手に見えなくもない。
だけど僕には分かる。
2匹の間では見えない火花が散っていると。
「ふん、話は聞いていたのでしょ?レイの疑問に答えるか、それとも消え失せるか。どちらか好きな方を選びなさい」
均衡を崩したのはエミリーの方だった。
これ以上は時間の無駄、と言わんばかりに要件だけを突きつける。
ヨハネは思案するように首を傾げると、何かを思いついたようにポンと手を打った。
「君はダンジョンで死にかけてた少年ですね。なるほど、なるほど、こうなりましたか………いいですよ。私の知ることでよろしければお答えしましょう」
ヨハネは慇懃無礼な態度で腰を曲げて、頭を深々と下げてきた。
それでいて柔和な笑みは崩さない。
こいつ、胡散臭さが人の皮を被っているようだ。
「えっと、エーデリカが記憶喪失になった原因が知りたいんだけど」
「ああ、それは私が記憶を消したからですね」
「は?」
まだ頭を殴られたから、と言われた方がよかった。
いくら魔物だからといって、人間の記憶を消すなんて芸当ができるなんて信じたくない。
人の記憶は、時に命より大切なものになり得る。
そんな大事なものをこいつは、、、さも平然に消したと言いやがった。
「ふざけるな!今すぐエーデリカの記憶を戻せ」
「いいんですか?そんなことをしてしまったら、君と彼女の関係は破綻しますよ」
「そんなことが、」
「あるんですよ。冒険者パーティ『黒皮』には、違法な人身売買をした罪で懸賞金が懸けられました。もちろん君にも………これが何を意味するか、分からないわけではないでしょう?」
「!!?」
冒険者の死に方は二つある。
一つはクエストで下手をこいた時だ。
魔物に殺されるなり、罠にかかって死ぬなり、その死に様は多種多様だけど、真の冒険者ならクエストで死ぬなら本望だろう。
二つ目はギルドの法を犯したもの。
ギルドから法外な懸賞金を懸けられ、様々な者たちから狙われることになる。
こっちの死に方は概ね決まっていた。
なぜなら基本的に賞金首の生死を問われないのだ。
故に捕まった時点で、首を刎ねられて人生の幕を下ろすことになる。
「ま、魔物のいうことなんて信用できない」
「ははは、それはごもっとも。自分は信じようが信じまいがどちらでも構いませんよ。どのみち記憶を戻すことはできませんし」
「っ!?」
ヨハネが浮かべる軽薄な笑い顔を、今すぐ殴りかかってやりたい衝動に駆られたけど、僕にはそれはできなかった。
別に我慢をしたわけではない。
動けなかったのだ。
隣に座る、もう一匹の魔物から僕以上の怒気を感じてしまったから、
「そういえば、どっかの誰かの皮を被らないと生きていけない、惨めな生き物がいましたわね」
「へぇ、そうなんですか」
「自己と他者の境界が曖昧で、今にも崩れてしまいそうな………はて、そんな弱虫を助けてあげたのは一体誰だったかしら?」
「………それ以上言ってみろ。今すぐこの人間を殺してやるぞ」
「ふふふ、何をそんなに焦っているのかしら。私はあなたとは明言していませんのに、」
「殺す」
刹那、
僕の視界は闇に覆われた。
闇は泥のようにまとわりついて、身体中を不快な感覚で満たしてくれる。
これはエミリーの影に捕らわれたときと同じ………
どうやら、僕はまたエミリーに捕らわれてしまったようだ。
急に人を食べたくなった。
とかじゃなければいいんだけど、もしそうだったら僕はこのまま死ぬんだろうか。
なんてのは冗談で、
こうして冷静でいられるのは、エミリーにその気がないことが分かっているからだ。
おそらく、ヨハネの攻撃から僕を守ってくれたのだろう。
影に呑まれる前、
ほんの一瞬だが、ヨハネの顔が崩れるのが見えた。
皮が剥げ落ち、肉が溶け、
その向こうから、骸骨と赤い眼光が妖しく僕のことを睨みつけて、
あれがヨハネ………いや、スカルヘッドの本当の姿なのだろう。
などと考えていると、
エミリーの影が僕から離れていった。
闇に慣れていた目に突然光が入り込むものだから、視界が眩しくて眩しくて仕方がない。
それも次第に落ち着いてきて、
目の前に這いつくばるヨハネこと、スカルヘッドがいることに気がついた。
「クソ、こんなことが」
「私のレイに手を出そうとしたのですから、当然の報いですわ」
スカルヘッドは動けないらしく、床に口をつけながら話をしていた。
状況から見て、エミリーに返り討ちにあったのは間違いないだろうけど、特に外傷をおった形跡はない。
代わりに頭部は人間のそれから変化してしていて、今は完全に骸骨と化している。
ガシャーン!!!
突然、
部屋の入口から、ものすごい音が鳴り響く。
自ずと原因を探し求めて、視線が入口へと向かう。
そして、
「た、隊長!?どうしたのですか!」
「エーデリカ、いいところに来た」
そこには怯えた様子のエーデリカがいた。
足元には淹れてきたであろうお茶とポットの残骸が散らばって、辺りに茶色いシミを作っている。
「こいつらを殺せ!」
「で、でもこの二人は私が招いた友人で、、、」
「1匹は魔物だぞ!」
「ま、魔物!?」
その瞬間、背筋にゾクッとした寒気が走った。
本当に寒くなったわけではない。
感覚的には天敵に狙われた獲物に近いだろうか。
自身が喰われる側なら、もちろん捕食する側もいるわけで、
さっきまで怯えていたはずのエーデリカから、その絶対的捕食者のオーラが滲み出ていた。
溢れ出す魔力の本流は、エミリーのそれと見比べても遜色しない。
この場で捕食者足り得るのは、エミリーだけと思っていたけど、その認識は誤りだったようだ。
「魔物……は………殺さなきゃ」
「呆れた。小娘1人を操るのに暗示に頼るなんて。同じ魔物として恥ずかしいですわ」
「何とでも言えばいい。我の皮を剥いだ怨み、その身で受けてもらう!」
まずい、
このままエミリーとエーデリカが争えば、どちらか確実に死ぬ。
そんな未来が容易に想像できるほど、両者の魔力は拮抗しているのだ。
止めないと、、、でもどうやって?
幸い、エミリーから殺意は感じ取れない。
なんとかするならエーデリカの方だ。
「エーデリカ!聞いてくれ」
「どいて…レイを………巻き込みたくない」
何かに抗うように、エーデリカは必死な表情で訴えてくる。
でも体がいうことをきかないのか。
手元は自然と、立て掛けてある剣へと伸びていた。
鞘から白刃の刀身が顔を出す。
正眼に構えられた切先が、僕の喉元に狙っていた。
怯えるな、考えろ!
この場でエーデリカを救えるのは僕だけなんだ。
「僕は君が好きだ!」
「え?な、な、なにを、」
「孤児院にいた頃からずっと好きだった。こうして冒険者になったのも、エーデリカに会いたかったから………だからお願いだよ。いつものエーデリカに戻って」
自分でも、どうしていきなり告白なんてしたのか分からなかった。
だけど今は本音をぶつけなければエーデリカは止められない。
確かにそう思ったんだ。
「いきなりそんなこと言われても、こっちにも心の準備ってやつが、」
「僕にできることなら何でもするから」
「何でも!?嘘じゃないのよね」
「うん………それより、エーデリカは元に戻ったの?」
「そいえば、さっきより意識がハッキリしてる………動く!思い通りに身体が動くよ!」
エーデリカは喜びの声をあげるや否や、手に持っていた剣を投げ出した。
すると、
僕の首元を赤茶色の髪がくすぐり、微かに香るバターと砂糖の香りが鼻腔を抜ける。
あまりの出来事に理解が追いつかない。
だって、エーデリカが僕に抱きついてきたのだ。
「バカな。我の暗示が、」
「どうやら、あなたの切り札も役に立たなかったようですわね」
「………なあ、エミリアル。どうかここは一つ穏便にことを進めるのはいかがかな?」
「そうですわね。あなたが私の奴隷となるというのであれば、命だけは勘弁して差し上げても構いませんわよ?」
「譲歩の余地は、」
「ありません」
万力のような力で抱きしめられる僕の後ろで、スカルヘッドが服従意思を示していた。
僕としては、エーデリカの記憶が戻るのであればなんだってよかったし、2匹がそれでいいのなら口を挟むつもりもない。
それよりも、
「それにしても見せつけてくれますわね。レイは私のモノですのに、、、帰ったらその辺のことをしっかり教育してあげますわ」
などと物騒なことが聞こえた気がしたけど、今は気のせいだと思うことにしよう。