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ダンジョン捕食者の初仕事


 フロンティアEはこの辺では大きな街だと思う。


 その証拠に、武具屋やアイテム屋などの充実具合は他の街の追随を許さない。

 別名『冒険者の街』なんて呼ばれているのだから、このラインナップで間違いはないのだけど、今回ばかりは少し困る。


 なぜなら、この街には食品をメインに取り扱っている店が一つしかないからだ。


 理由はいくつか思いあたるけど、やっぱり冒険者が自炊をあまりしないからだろう。

 いや、正確にはできないといった方が正しいか。

 ほとんどが宿屋暮らしの冒険者には、自炊をする選択肢がないのだ。

 よって冒険者は食材を買うことをしなくなり、食事はもっぱら酒屋とか携行食で済ますことがほとんどだ。


 今日はそんな希少な店に用があった。



「ようやく見つかった」



 『激烈鮮度』とデカデカと掲げられた看板を前に、レイはため息まじりにつぶやく。

 この街に住んでいたとはいえ迷うものは迷う。


 だが苦労して見つけた甲斐あってか、店頭にはどれも素晴しいクオリティの食材が置かれている。

 瑞々しく水滴を弾く野菜に果物、干されていない鮮やかな生の肉、はては香り豊かな異国の香辛料まで、ここならどんな食材も揃うのではないかと錯覚してしまうほどだ。

 まさに看板に偽りなしとはこういうことをいうのだろう。

 ここなら、目的の品が全て揃いそうだ。

 


「ウツツケの実がある。これ好きだったな」



 ふと、熟れて真っ赤となったウツツケが目に入る。

 適度な甘さと、唯一無二の食感を持った僕の大好物だ。

 孤児院にいた頃、エーデリカと一緒によく食べたっけな。

 


「へい、にいちゃん。今日は何をお求めで」



 ウツツケに釘付けになっていると、溌剌とした感じの店員に話しかけられた。

 買い物はじっくりと選びたい派なので、こうやって声をかけられるのは苦手なのだが、今日ばっかりは我慢するしかない。


 ここでしか新鮮な食材を買えないのだから。


 鮮度にこだわる理由は大したものじゃない。

 ただ単純に、少しでも美味しいものを食べてもらいたいと思ったからだ。


 蘇生された後、エミリーはすぐに眠りについてしまった。

 僕を治すのに頑張りすぎたのかもしれない。

 手持ち無沙汰となってしまった僕は、とりあえずエミリーとした約束を守ることにした。


 エミリーは変な魔物だから、人を食べられない。

 いわゆる『拒食』というやつだ。

 孤児院ではこの病気をアノレクシアと呼んでいた。

 

 人間の病気が魔物に当てはまるのか、

 という疑問はあるけど、エミリーの症状はよく似ている。


 この病気の原因は気持ちの問題で、子供にはよくあると院長が言っていた。

 無垢な言葉で未熟な心が傷ついているんだとか。

 僕には院長の言ってることがよく分からなかった。

 

 でも要するに、なんでもいいから食べられるようになればいいんだ。

 幸いにもエミリーの姿は人と変わらない。

 味覚が人と同じなら、食べるられる物も大差がないはずだ。



「だから、いろんな味を試したいんだけど」

「具体的にいってくれなきゃ困るぜ。何に使うつもりだい?」

「いや、特にこれといったものは………できればそのままで食べれるやつが」

「はぁ───ならにいちゃんが見ていたウツツケが旬で美味しいぜ。あとは───」



 店員は考えを巡らすように一拍おくと、慣れた手つきで食材を選びだした。

 どれを買うかは決めかねていたのだけど、こうも強引に選ばれると断りづらいものがある。

 でも店員に悪気があるようには見えないし、渋々とその様子を眺めることしか僕にはできなかった。

 

 我慢、我慢。

 もしかしたら、この中にエミリーが気にいる物が入ってるかもしれないし。

 などと半ば無理やりポジティブに考えていると、


 

「あら?そこにいるのはまさか!」

「その声はまさか───エーデリカ!?



 食材の会計を待っていると、忘れもしない馴染みの声がする。

 それは赤みのある髪が特徴的な女の子のもので、思ったとおり振り返ると、そこには冒険者エーデリカの姿があった。

 

 ダンジョンで出会った時とはうってかわり、無地のシャツに群青色のズボンというラフな格好をしたエーデリカは何故か満面の笑みを浮かべている。

 

 思わぬ再会につい嬉しくなってしまったけど、

 額に巻かれた包帯が目に入り、歓喜の声は喉の途中で止まってしまった。

 見るからに痛々しいそれは、イグニス団長に殴りつけられた怪我に違いない。


 僕はエーデリカを庇った後のことをあまり知らない。

 生きているということだけはなんとなく知っていたけど、詳しく聞く前にエミリーは眠りについてしまった。


 正直この出会いは予想外すぎて、ちょっとだけ涙が滲みそうになったけど、それでも僕も男だ。

 そこはグッと堪えてやった。


 

「やっぱりレイだ。こんな所で見つかるなんて、院長から聞いたよ。孤児院を抜け出したんですって?」

「うん、そうだけど………」

「おおかた、院長に無断で冒険者になるつもりだったんでしょうけど残念ね。早々に見つかるなんて」

「いや、冒険者にはもう………というか、本当にエーデリカだよね?」

「私は私よ?まさか少し合わなかったからって忘れたの」

「そういうわけじゃないけど、なんかダンジョンで会った時と雰囲気が違うから」

「ダンジョン?」



 なんだかさっきから何かおかしい気がする。

 話が噛み合ってる気がしない。

 まるで冒険者となった僕と初めて会ったような。


 もしかしてダンジョンで会ったのは、エーデリカのそっくりさんだったのか。

 とも思ったけど、額の包帯はどう見たってこないだダンジョンで不意打ちされた時にできたものだ。

 

 

「確かについ一週間前に探索していたらしいけど………もしかしてレイもあそこにいたの?」

「いたもなにも───!もしかして記憶がないの?」

「あ、やっぱり記憶喪失のプロには分かっちゃうか。隊長の話だと、魔物と戦った後遺症で記憶が無くなってるんだって」

「なるほどそれでか」


 

 ダンジョンでの出来事を覚えてないのであれば、エーデリカのこの反応も頷ける。

 僕もあの時のことを詳しく聞かれると説明に困ってしまうので、これは逆に助かった。



「でもおかしいな。あそこには私たち以外は『黒皮』のメンバーしかいなかったって聞いたけど」

「そ、そ、そうだったかな」

「怪しいな。まさかレイがダンジョンにいたのって───」

 


 まずい。

 孤児院を抜け出しただけに飽き足らず、あの悪名轟くギルド『黒皮』に加入したなんてことが知られれば、エーデリカにどれだけ叱られることか分かったものじゃない。


 どうやって言い訳したものかと頭を捻っていると「へい、おまちどー」と、ナイスタイミングで会計が終わった。

 金を払うという名目のもと、僕は自然とエーデリカから距離を取ることに成功する。


 

「今日は用事があるから帰るよ。またね」

「あ、逃げるな!待て!」



 僕は食材の入った紙袋を受け取ると、全速力で走りだした。

 大人気ないとは思ったけど、贅沢は言ってられない。

 不意をついてさっさと逃げないと、絶対に捕まってしまう。


 僕は魔力での身体強化ができないから、エーデリカと身体能力を競えば負けてしまう。

 僕が50m走る間に、エーデリカは100mを走りきっていることだろう。

 魔力の有る無しはそれぐらい絶対的な差だ。


 といっても諦めるわけにはいかない。

 捕まったら最後、懐かしの孤児院に送り返されるのが目に見えている。

 

 幸い、不意をつけたことで路地裏に逃げ込めた。

 がむしゃらに逃げていれば簡単に追いつかれはしないだろう。


 それになんだか調子がいい。

 

 心臓がはち切れる思いで走っているのに、息は全く上がらないし、なんだったらもっと早く走れる気もする。



「待ちなさーい!」

「ヤバい、見つかった」



 がむしゃらに逃げてれば見つからないなんて、そんな都合いいことはおこらなかった。

 エーデリカは魔力の奇跡を残しながら、みるみると距離を詰めてくる。



「あんたいつの間に身体強化ができるようになったのよ!しかも結構早いし」

「な、なんのこと!?」

「とぼけるのもいい加減にして、私が全力で身体強化しないと追いつけないなんて絶対おかしい。どんな方法使ったか教えるまで返さないわよ」

「さぁ、本当に説明できないんだ。とにかく、今日は見逃してくれ」

「っ、もうこれ以上は───ひとつ条件よ。明日、私に会いに来なさい」

「わ、分かった。どこにいけばいいの?」

「『天宮』って宿屋、今は私たちが間借りしてる」

「絶対に行くよ。だから許して」


 

 自分でも情けないと思った。

 けど、エーデリカはそれで納得してくれたようで、それ以上追いかけてくる様子はない。

 少し後ろ髪引かれる思いがしたけど、僕はそのままダンジョンへの帰路につくことにした。





 エミリーのダンジョンは複雑だ。

 毛細血管のように張り巡らされた通路はどれも似通っていて、その作りは人間を惑わすことに躊躇がない。

 実に悪趣味なダンジョンであったが、僕にとってはあまり関係のないことだった。


 一度通った道は忘れない。


 これは僕のささやかな特技であり自慢でもある。

 頭の中のマップを頼りに、難なく最深部に辿り着いくと、そこには自らをエミリーと名乗る魔物が寝息を立てていた。


 少女の姿をしているそれの寝顔は人形のように精巧で整っていて、まるで天使のようにあどけない印象を受ける。

 だがその正体は人を食べる化け物に他ならない。

 その気になれば僕も食べれて、、、いやそれはないか。


 そもそも僕にエミリーを化け物となじる資格はない。

 だって僕の半分はすでに魔物なのだから。



「エミリーが化け物なら僕も同類だな………それにしても目覚めないな。そろそろ何かアプローチをかけるべきか」

「ふぁあ………その必要はありませんわ」

「うわ、起きた」

「おはようございます、レイ。身体に不足はないようですわね」

「おかげさまで、そっちこそ大丈夫なの?」

「そうですわね。魔力が枯渇してる以外は特に………それと少しお腹が空いたかもしれません」


 

 少女とは思えない妖艶な笑みに思わずドキッとした。

 もちろん恋心でときめいた訳ではない。

 例えるなら蛇に睨まれた蛙のような、本能がこいつは危険だと訴えてきたのだ。


 でもエミリーが僕を食べるつもりがないことは知っている。

 おそらくこれは、僕が怯えるの姿を眺めて楽しんでいるのだろう。

 ほんと、なんて性悪な魔物だ。


 そんな意地悪に屈してやるものかと、僕は至って平然を装うことを決めた。

 


「腹が減ったならちょうどよかった。これを食べてみて欲しかったんだ」



 そういって街で買ってきた紙袋を突き出してやった。

 紙袋の中には色々な食材が入っている。

 そのまま食べれるやつ、と条件をつけたので殆どが果物とか木の実とかになってしまったけど、



「それはなんですの?」

「いっただろう、アノレクシアを治してやるって。人間以外に何か食べられないかと思って、色々買ってきたんだ。気にいる物があればいいんだけど」

「なるほど人間以外の食べ物ですか。確かにその発想はありませんでしたわ。では何からいただこうかしら」

「なら、このウツツケの実がオススメだよ」



 僕は紙袋から赤く熟れた果実を取り出す。

 この時期のウツツケは、皮を剥く必要がないほど薄く柔らかい。

 このまま食べても甘さを感じることができるし、華やかな香りとぷちぷちした食感がたまらない。

 自信を持ってエミリーすすめることができる、僕の大好物だ。



「これを食べればいいんですのね」

「うん、でも無理はしなくていいからね。あくまで試しにどうかなって思っただけだから」

「うふふ、レイはやさしいですのね。ますます虜に………いえ、今はまだその時ではありませんわ」

「どうかした?」

「こちらの話ですわ。ではあらためて、こちらのウツツケとやらをいただくとします」



 僕はエミリーにウツツケを渡す。

 それを右手で受け取ったエミリーは、そのまま口に運ぶ───わけでもなく、無造作にウツツケを握りつぶした。

 

 握り拳から赤い果汁が滴り床を汚す。

 突然の出来事に、僕は唖然とすることしかできなかった。



「こんなものかしら」

「待って待って、いま何をしたの?」

「お望みとおりにウツツケとやらを食べて差し上げましたのに。何かご不満がおありでして?」

「いや今のは食べるっていうか、どう見たって握りつぶして、、、あれ?」



 粗末にしただけだろ、と言葉にする途中で気がついた。


 握り潰しされたはずのウツツケがない。


 いや、握り潰されたのは間違いない。

 エミリーの右手から垂れる赤い跡がそれを裏付けている。

 だがゆっくりと開かれたエミリーの右手には、あるべきはずの果肉や皮が一切残されていない。

 


「ウツツケはどこに?」

「だから食べたといってますわ」

「いやいや、普通は口を使うだろ?右手なんかでどうやったら食べたり飲み込んだりするんだよ」

「いやですわ。口を使うだなんてはしたない………もしかして、レイにはメスが羞恥する様を眺める趣味でもございますの?」

「そんな趣味あるわけないだろ!どっちかっていうと、僕は恥ずかしい思いをする側の人間で」

「つまり、詰られて喜ぶタイプの人間というわけですのね。そういうことなら私の得意分野ですから、是非お任せしてほしいですわ」

「それもちがーう!!!はぁ、なにも間違ったこといってないのに、どうしてこんな」



 いや、そもそも僕が間違っているのか?

 口で物を食べるのは、あくまでも人間基準の話だ。

 姿形こそ少女のそれと酷似しているとはいえ、「魔物は手で食事をするんですの」などと言われれば、「はいそうですか」と納得するしかない。

 

 納得したうえで、一つ懸念が残る。

 それはエミリーの味覚についてだ。

 人間を食べるより美味しいと感じてもらわないと、僕の計画は破綻してしまう。

 まぁ、計画と呼べるほど大それたものでもないのだけど、、、

 


「どちらでもないなんて信じられませんわ。必ず、何かしらの趣向を持ち合わせているはず………なるほど、その秘め事を暴くのも一興というわけですのね」

「もう好きにしてくれ。とりあえずその話は一旦置いておくとして、さっき食べたウツツケの味はどうだったんだ?」



 僕の大好物のウツツケ、しかも旬真っ盛りの完熟なんだから甘味はしっかり感じられたはずだ。

 気になるとしたら食感だろうけど、こればっかりは好みによる。


 だから味について聞いておきながら、さほど心配はしていなかった。

 甘い物が嫌いな生き物なんているわけない。



「あじ、とはなんのことですの」

「はあ???」


 

 言葉を失った。

 どうやら魔物には味覚がないらしい。

 あんな食べ方をするのでは、それも仕方ない気がする。



「いや待てよ。エミリーの能力は人間を再現するものだろ」

「ええ、その通りですわ。あなたの半身を含め、私のこの身体でさえ、能力、を使って人を再現しているに過ぎません」

「ならあるはずなんだ。エミリーにも、味覚、が………だって僕にもあったんだから」

「その、みかく、とやらが、あじ、にどう関係してますの?」

「説明するのは難しいな。そうだな、試してみるのが一番早いか」



 僕は紙袋から最後のウツツケを取り出すと、エミリーの口元まで運んだ。

 エミリーは意味が分からないといった感じで首を傾げている。

 

 

「口を開けてこいつを含んでくれないか?」

「まぁまぁまぁ、やっぱりそういうハレンチな趣味がおありでしたのね。でもいいですわ。私があなたの欲望を満たしてあげます」

「どうしてそういう発想になるんだ」

「ミリアが言ってましたもの。口は情欲を発散するのに使うのだと、そのような器官を求めるあなたを、ハレンチと呼ばずにどう表現したものでしょう」

「あいつのせいか………」

「ですけど、あなたがどうしてもというのなら好きに使ってくれてもよろしくてよ」



 最後にもじもじと何か言ったみたいだけど無視しよう。


 それにしてもあの魔物、

 見た目どおり中身もとんだ変態のようだ。

 今はダンジョンを離れているようだけど、できれば金輪際関わりたくない。


 とはいえ仕方がないを

 ここは恥を忍んで、エミリーに口の正しい使い方をレクチャーしよう。

 もし僕の考えが正しかったのなら、エミリーに味を感じてもらうことができるかもしれない。



「分かった分かった。僕にそういう趣味があることを認めるから、大人しく口を開いてくれ」

「きゃっ!面と向かっていわれると少しおぞましいですわね」

「っ!………はぁ、もういいよ。僕のことは」

「ご、ごめんなさいですの。ハイ、イワレタトオリクチヲアケマシタワ」



 エミリーは自身のさほど大きくない口を開く。

 薄いピンク色をした口内は、しっとりと湿り気を帯びていて妙に艶かしく見えてしまう。

 さっきからエミリーが余計なことを言うからだ。


 僕は頭を左右に振って邪念を消し去る。

 そしてウツツケを一口大にちぎると、努めて平静にエミリーの口に放り込んでやった。

 


「コレカラドウシマスノ?」

「何回か歯でよく噛んだら呑み込むんだよ」

「んっ───!?」


 

 エミリーは僕のいった通りにウツツケを噛み締めると、綺麗なまつ毛を何度も上下させている。

 この反応、

 やっぱり僕の予想は正しかったのかもしれない。


 

「んぐ───今、なにがおきましたの、私の口の中を幸せが満たしていくような。それでいて鼻を抜けていく花の香りは一体、、、」

「多分、それはウツツケの味だよ。僕らはその味を甘いって表現するんだ」

「これが味覚!これが味!あぁ、なんて素晴らしいのかしら。いままでこんなもの、感じたことがありませんでした」

「お気に召したのならよかった。後、これが口の正しい使い方だからね」

「どうやらそのようですわ」



 エミリーはリアクションもそこそこに、残りのウツツケを僕の手から奪い去ると、美味しそうに食べだした。

 あっという間に果汁が口元を真っ赤に染め上げ、可愛らしい顔が若干ホラーテイストに変貌している。



「よかった。ウツツケは気に入ったようだね。それにしても口の使い方を知らないなんて、、、魔物ってみんなそうなのか?」

「どうでしょう。もしかしたら、あのお方からから教えてもらった仲間がいるかもしれませんけど」

「あのお方?魔物にも院長みたいな先生がいるのか」

「いんちょう、というのは存じ上げませんけど………あのお方はその昔、人間から魔王と呼ばれ恐れられていましたわ。そして私たちは皆、あのお方から生まれそして世の理を教わりましたの」

「まおう?なんだそれ、魔物たちに王様がいたっていうのか」

「そんなところですわ。はぁ、楽しい時間はすぐに終わってしまいますのね」



 気がつくとウツツケは最後に一欠片になっていて、エミリーはそれを名残惜しそうに見つめている。

 悲しんでいるのかと思ったけど、エミリーは笑っていた。


 ほんと、不思議な魔物だ。


 

「いいから、さっさと食べちゃいなよ。他にも色々買ってきてるんだから」

「あらそうですの?楽しみですわ。今度はどんな味がするのでしょう」



 こうして、

 買ってきた食べ物は、見事にエミリーの腹の中に消えていったのであった。

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