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ダンジョン捕食者の嘔

 レイは記憶喪失の冒険者だ。

  

 冒険者といっても肩書きだけで、鎧は貧相だし剣は錆びついている。

 別に好きでこんなもの身につけているわけではない。

 単純に金が無いのだ。


 そんな僕はダンジョンの中にいた。

 白い大理石の柱と赤いカーペットが敷き詰められ、ここがダンジョンだと知っていなければ、どこかの宮殿と勘違いしていたことだろう。

 でも、そんなことより、、、



「おえーっ」

 

 

 目の前でえずく、一匹の少女が気になっていた。

 艶やかな黒髪を振り乱し、地面に向かって何度も咳をする。


 原因はもちろん分からない。


 僕より頭一つ小柄で、古めかしい洋服を着用している彼女はエミリー・サージェ、さっきまで僕をモノ扱いしていた魔物だ。


 魔物といえば人を食べることで有名だった。

 それは童話やお伽話に出てくるほど当たり前のことで、記憶を無くした僕でも何度か耳にしたことがあった。

 

 でも、彼女は違う。

 人を食べたくないと、確かにそう言っていた。

 それを鵜呑みにするほどバカではない。

 魔物は危険で恐ろしい捕食者なんだと、耳がタコになるほど聞いた。


 けど………

 弱っている今の彼女は、ただの儚い少女のように見えてしまう。

 


「大丈夫?」



 無意識に声をかけていた。 

 エサが捕食者の心配をするなんて、ちょっと身の程知らずかもしれない。

 それでも僕は、彼女と仲良くなれるかもと淡い希望を抱いていた。



「い、いや!!」



 だからこの拒絶は想定外で、僕はものすごい力で突き飛ばされる。

 少女の姿のどこにそんな力が秘められているのか、軽く数メートルは浮いた僕の体は、すぐ後ろの大理石の柱にぶつかった。


 柱と体に押しつぶされた肺が強制的に息を吐き出す。

 人生で一度も経験したことのない激痛が、背中から脳髄を直撃する。

 僕は理解した。

 彼女との生物の格の違いを、自分は今、圧倒的捕食者の前にいるのだと。

 

 気がつけば体の痛みも無視して、僕は駆け出していた。

 見知らぬ場所だったけど関係ない。

 とにかく彼女から離れようと、正反対の方向へまっすぐに、

 後ろから「待って」と、小さな声が聞こえた気がしたけどきっと気のせいだ。



「はぁ、はぁ、はぁ、とりあえずここまでくれば、、、」



 しばらく走ると、見知った洞窟まで辿り着いた。

 ゴツゴツと岩に囲まれた道は複雑に分岐を繰り返し、人を惑わすのだという強い意志を感じる。

 これはダンジョンの中では割とポピュラーな形状で、一般的に迷宮と呼ばれていた。

 

 自分でも結構な距離を走ったとは思う。

 でも安心するにはまだ早い。

 彼女がその気になれば、こんな距離すぐに追いつかれてしまうことだろう。


 

「落ち着け………大丈夫、ルートは覚えている。早く外に出よう」



 このダンジョンの構造は事前に頭に入れていた。

 身包みを剥がされてしまい、ボロのシャツとズボン、安物の革靴だけになってしまったけど、外に出るまでなら大丈夫だろう。


 それにしても現金なものだ。

 ついさっきまで、死ぬのに必死だったくせに、今は生きるのに必死になっている。


 

「エーデリカが正しかったな。死ぬのはやっぱり怖いや」


 

 ふと、昔のことを思い出した。


 あれはまだ記憶が無いと自覚してから間もないころ、行くあてもなく街を彷徨っていた僕は、ある男に出会った。



「汚ねぇガキだな」

「うるせぇ、おっさんには関係ないだろ!」

「それが大有りなんだなこれが、何故なら今日からお前は俺たちの家族だからな」

「!?」


 

 路地裏でうずくまっていた僕を、男はひょいと持ち上げる。

 もちろん抵抗はしようとした。

 でも、その男は僕なんかより全然強くって、

 半ば強制で連れて行かれた先は、彼が院長を務めるという孤児院だった。


 とある町の外れ、小高い丘のそこそこ広い敷地に、ポツンと建てられた一軒の古びた木造の建築物。

 屋根は斜めに傾き、窓枠もどこか歪んでいて、

 初め見た時は、ほんとに人が住んでいるのか怪しいと思ったっけ。


 院長曰く、

 タダ同然のだった廃墟を買取って、コツコツと今の姿まで直した結果がこれらしい。

 「下手くそだな」と、率直な感想をつぶやいたら「そのうち慣れる」と返られてしまった。


 実際、何日か暮らしてみると存外に居心地が良く、すぐにこの場所が気に入ってしまう。

 だってここなら雨風は凌げるし夜の寒さに凍えることもない。

  

 そんなある日、 


 時刻は0時を回った頃だろうか、

 僕は広間の片隅の窓から夜空を見上げていた。

 天気はぼちぼちで、たまにお月様が雲の後ろに見え隠れしている。

 

 僕はこの時間に鳴きだす虫の声がお気に入りで、こうして椅子に腰かけ耳を澄ますのが日課だった。

 そうしてしばらく日課に勤しんでいると、後ろからギィと扉が開く音がする。



「眠れないの?」

「うん……夜は苦手なんだ」

 

 

 彼女はエーデリカ・ラングレン、

 第一印象は活発でおてんばといった感じで、歳が分かる孤児院の子供では一番の年長者だった。

 明るい性格のエーデリカは、みんなから姉ちゃんと呼ばれ慕われている。


 世話焼きなこともあってか、エーデリカ本人もその扱いに満更でもないといった様子だ。

 そんな世話焼きなエーデリカは、こうして新人の僕のことをよく気にかけてくる。

 

 煩わしい。


 なんて今思えば贅沢なことを考えていた気がする。


 あの頃の僕はまだ不安定で、

 記憶がないことを受け入れられていなかった



「奇遇ね。私も夜は嫌い……嫌なこと思い出すから」

「羨ましいよ。嫌なことでも思い出すことができて」

「あ、ごめんなさい。レイの記憶喪失を茶化すつもりはなかったの」

「………なんで怒らないんだよ」

「どうして?」

「僕はひどいこと言ったつもりなんだけど」

「自覚あったんだ。でも、私の方がお姉さんだから、その程度で怒ったりしないわよ」

「はいはい、そうですか」



 不貞腐る僕をエーデリカはいつも許してくれる。

 バカな僕はそれに甘えていたのかもしれない。


 エーデリカは近くの椅子を持ってきて、すぐ隣に座ると赤みがかった茶色の髪をサッと耳の後ろにかきあげた。

 


「記憶がなくなったのなら探すってのはどう?」

「興味ない。それに探す場所すら覚えてないんだから、どうしようもないだろ」

「それもそっか………なら、私の話を聞いてくれる?」

「なんで?」

「私にひどいこと言ったんでしょ、その償いで」

「好きにしなよ。どっちにしろ寝れないし」

「ありがと、」

「…っ!」



 屈託のない笑顔は僕には少し刺激的だった。

 これが初恋と呼べるものなのか。

 記憶のない僕にそれは分からない。


 咄嗟に顔を逸らした。

 頬が熱を帯びている気がして。

 

 エーデリカはそんな僕のことを知ってか知らずか、ポツポツと話を始めた。

 

 曰く、エーデリカの両親は優秀な冒険者だったらしい。


 だがある日、

 高難易度クエストに参加した両親は帰らぬ人となる。

 幼かったエーデリカは、気がつけば両親の知り合いであった院長に引き取られたのだとか。


 

「どうして僕にそんな話を?」

「君がみんなを心配させてるから。せっかく一緒に暮らしてるのに、いっつもウジウジしてる。だから辛いのは自分だけじゃないんだぞって教えてあげようと思ったの」

「う、それは………」

「冗談、冗談、君の事情が複雑なのはよく知ってる。本当は私の悩みを聞いて欲しかっただけなのかも」

「エーデリカに悩みなんてあるの?」


 

 いつも明るく元気いっぱいなエーデリカに悩み事があるとは初耳だ。

 てっきりそういうのとは無縁の存在だと、さっきの話を聞くまでは思っていた。

 

 でも、ここにいる子供はみんな孤児なのだ。

 大なり小なり事情があるのは当たり前で……

 僕が一番不幸なんだなんて思ってたのは、大きな間違いだったのかもしれない。



「あるよ。私ね、冒険者になりたいの」

「それのどこが悩みなの?」

「バカ、なれるかどうか不安なの」

「そんなのなれるに決まってるよ。あのおっさん相手にあれだけやれるんだから」



 おっさんはよく孤児院の子供達に稽古をつけていた。

 その稽古というのが結構なスパルタで、木刀で倒れるまで打ち合ったり、気を失うまで魔力を生成したりと、泣き出す子供が後を絶たない。


 一人また一人と脱落する中、いつもエーデリカは最後まで残っていた。

 何でそこまで頑張るのか不思議に思っていたけど、あれは冒険者になるために努力していたんだ。


 

「はは、レイは院長のこと苦手だもんね」

「苦手どころか大っ嫌いだよ。やれ掃除をしろ、皿を洗え、洗濯物を干せって………」

「うんうん、レイは頑張ってるよね。初めはどれもできなかったし」

「ッ!それより、なんで冒険者になりたいんだよ。まさか宝探しが趣味とかいわないよね」

「そんなことあるわけないでしょ。ただの仇撃ちだよ」



 部屋の温度が下がったような気がした。

 さっきまで熱を帯びていたエーデリカの瞳が、急に氷のように冷え切ってしまったから、



「仇って、まさかさっきの」

「そう、パパとママの仇………私は私から全てを奪った魔物を絶対に許さない」



 エーデリカは膝をギュっと抱き寄せる。

 本人は誤魔化せているつもりかもしれないけど、膝を抱えた傷だらけの手が震えていた。



「お願い止まって」

「………」

「はは、カッコつかないな………私ね死ぬのがどうしても怖いの」



 ドキッとする。

 僕はエーデリカが死ぬかもしれないなんて、露ほども考えていなかったから、

 冒険者になっても、せいぜいダンジョンから宝を取ってきて、たまに出会う魔物を倒して、それぐらいのことだろうと思っていた。

 

 だから「なれるよ」なんて無責任なことが言えてしまったのだ。

 エーデリカの苦悩など考えもせずに、

 


「それは、」

「ごめんごめん、ちょっと暗くなっちゃった。冒険者になったからって死ぬと決まったわけじゃないのにね」



 自嘲気味に微笑むエーデリカは「もう大丈夫」とでもいいたげだった。

 

 エーデリカは頑張って震えを抑えようとしていたけど、それは難しいようで、

 そんな健気な姿を見せられると、いたたまれない気持ちなる。



「そんなに嫌ならやめれば?」

「ううん、それは無理、ここで諦めたら私は私を許せない」



 エーデリカの決意は固いようだ。

 僕はそれを心底羨ましいと思ってしまった。


 一体どのような過去があれば、そんなに強い感情を抱けるのだろう。

 純粋な疑問、それと憧れ、

 僕も記憶があれば、エーデリカのようになれるのだろうか。



「………決めた。僕も冒険者になる」

「え、嘘!?」

「嘘じゃないよ。元々、おっさんに言われていたんだ。記憶喪失の原因を知りたかったら冒険者になれって」

「今まで自分の記憶なんて興味ないって言ってたよね?」

「そうなんだけど………何だかエーデリカを見てると、このままだといけないなって思えて」

「そ、そう?まぁ、前向きになってくれたことは嬉しいけど」

「ここで変われなかったら一生ダメな人生を歩む気がしたんだ。それに記憶をなくしたなら探せばいいって言ったのはエーデリカだろ?」

「でもでも、冒険者って危ないんだよ!死ぬかもしれないんだよ!」

「大丈夫だよ。僕、死ぬことなんて怖くないから」


 

 特に深い考えがあったわけじゃない。

 この時は本心で死ぬことなんて怖くないって言った気がする。

 実際は尻尾まくって逃げたわけだけど、


 それに言葉にはしなかったけど、この時はエーデリカことが心配で少しでも力になりたいと思っていた。


 どうして今さらこんなことを思い出したのだろうか。

 きっと死にかけたせいで、気持ちが高揚しているせいだ。


 その証拠に、普段ならバテてもおかしくない距離を走っているのに、まだまだ体力に余裕がある気がする。

 余裕があるから、こうして昔のことを思い出して……あれ?これは走馬灯とかいうやつでは、



穿て光球(ソルドオン)

 


 正面から強烈な魔法の兆し。

 見えた瞬間、考えるより先に反射で動いていた。

 さっきまで体があった空間を、灼熱の光が通り抜ける。


 これは冒険者がよく使う攻撃魔法ソルドオン、灼熱の光球が線上の全てのものを焼き尽くす。

 危なかった。

 あとコンマ一秒でも反応が遅れていたら、自分はこの世から消えていたことだろう。


 魔法が少しだけ頭を掠めたようだ。

 髪が焼けた酷い匂いが鼻につく。



「新翼のエーデリカ様ともあろうものが外すとは」

「う、うるさい!あなたは黙ってなさい」

「へいへい」



 魔法が飛んできた方角から、聞き覚えのある声がする。



「エ、エーデリカなのか?」

「まさかその声はレイ!本当にレイなのね」 

「本当も何も、僕はレイだよ」

「その無愛想な返事、間違いないみたいね」


 

 カツカツとした足音の後、

 薄暗い闇の中から見覚えのある姿が現れた。


 赤みがかった長髪に気の強そうな吊り目、

 白銀の甲冑には鷹のエングレーブが彫られている。


 僕の記憶より少しだけ身長が高くなっていたけど、その容姿はエーデリカのもので間違いない。

 

 僕より一足早く冒険者となった彼女と、こんなところで再会するとは夢にも思わなかった。

 優秀だった彼女は、有名な冒険者パーティにスカウトされたと噂で聞いている。

 なんでもその活躍は目覚ましく、すでに最年少で紫星クラスにまで上り詰めたのだとか。

 

 でもなんでこんなところにいるのだろう。

 まさか僕を助けに?

 いや、それは自分のことをかいかぶりすぎだな。



「貴様、どの面下げて戻ってきやがった」

「イグニス団長!?」



 そして彼女の後ろから無精髭を生やした大男が現れる。

 特徴的な黒い大斧を軽々と手に持ち、並々ならぬ圧を発していた。

 まるで僕のことを敵だと思っているみたいに、



「あなたは引っ込んでなさい。彼のことは私が見極めます」

「うるせぇ、奴には腑が煮えくりかえってんだ」

「さっき誰に魔物から助けてもらったのか、もう忘れたようね」

「ぐぬぅ」

「そのまま大人しくしているなら。これ以上痛い思いをしなくて済みますよ」

「邪魔するな!あいつの前にお前を殺してやろうか!?」

「ええ、どうぞご自由に、まぁあなた程度の実力では無理でしょうけど」

「このクソガキ!!」



 イグニス団長が大斧を振り下ろそうと上段に構えたその瞬間、

 エーデリカは腰に差したロングソードの切先を、目にも止まらぬ速さでイグニス団長の喉元に突きつけていた。



「うぐっ…」

「死にたくなかったらすぐに斧を下ろして」



 何で二人がこんな所に、

 でも、今はそんなことを確認して場合では無い。



「なにやってるんだよ、二人とも」

「レイ、あなたも黙りなさい。これから私の許可のない発言は禁止します」



 エーデリカはイグニス団長に突きつけたロングソードを片手に、反対の腕をこちらに向ける。

 向けられた手のひらには魔法陣が描かれていた。 つまり、いつでも魔法を僕に向けて放つことができるということだ。


 なんだか嫌われたみたいで、少し悲しい気持ちになったけど、それより早くこの場を離れないと、彼女に追いつかれてしまう。


 そうなれば終わりだ。

 ここにいる全員が束になって挑んだところで、あの魔物には敵わない。



「待ってくれエーデリカ話を、」

「穿て光球!」



 エーデリカの放った魔法がすぐ足元に着弾する。

 魔法は岩盤を貫通し、大きな大きな穴を空けていた。

  


「よくもまぁ、人様の住まいで好き勝手やってくれますね。この穴、一体誰が埋めると思ってるんですか?」



 僕のすぐ後ろで陽気な声が聞こえる。

 振り返るとそこには、さっきエミリーの隣にいたハレンチな魔物がいた。

 確か魔物の名前はミリア、

 エーデリカに気を取られていたせいもあるだろうけど、声がするまでその存在に気がつかなかった。


 僕より頭ひとつ高い身長に柔和な顔はどこか気怠そうにしている。

 もしこいつが人であれば、絶世の美女と謳われていたことだろう。

 それほどまでに女性の魅力を詰め込んだ容姿をしていた。

 

 ただ、服だけはもっとまともなやつを着た方がいいのではないか。

 そんなに布面積が少ないと恥ずかしいだろう。



「はい、捕まえた」

「な、何を!?」



 僕の首にミリアの長い両腕が回り、ぶつかってしまうほど近い距離に顔が近づいてくる。

 虚をつかれたというべきか、決して速くはなかったミリア動きに僕は反応できない。

 


「ちょっとあなた誰なの!?レイから離れなさい!!!」

「えっと、こういう時はどうするんだったかな。エミリー様なら自己紹介でもするんでしょうけど………ま、いっか、どうせ殺すんだし」



 ミリアの豊満な体が押し付けられる。

 柔らかくデカイ、それになんだか甘い香りが鼻口をくすぐる。

 


「はい、しばらく大人しくしといて下さいね。すぐに終わらせてきますから」


 

 甘い香りの正体はミリアの吐息だった。

 嗅いだ瞬間から、身体中の力が抜けて立っているのも難しくなってしまう。



「レイに、何してくれてるの!」



 エーデリカは目にも止まらぬ速さでミリアに切りかかる。

 僕の目には残像しか映らないその剣筋を、ミリアは軽々と避けてみせた。

 


「別にわたしはどうでもいいんですけどねえ、エミリー様がどうしてもって………というか、何で怒ってるの?」

「あなたがレイにくっついたから、それに私は別に怒ってない!」

「あはは、全然いみわかんない。でもほら、わたしばかりにかまけてるとすぐに死んじゃうよ?」


 ガンッ


 固いものと固いものがぶつかる鈍い音。

 イグニス団長がエーデリカを不意打ちしたのだ。

 死角からの一撃をくらったエーデリカは、まるで糸の切れた人形のように倒れてしまう。


 

「エーデリカ!!!」

「どうだ見たか!これが俺の力だ」



 イグニス団長の雰囲気がいつもと違う。

 目が爛々と輝き、吐く息も荒い。

 まるで野生の動物のような、獰猛なオーラを放っている。



「すごい、すごい〜」

「あなたのような美しい方を守ることが私の使命ですから」

「へぇ、そうなんだ。だったらほら、早くトドメさしてよ」

「分かりました」

 


 だめだ、どう見たってイグニス団長は普通じゃない。

 このままだとエーデリカが殺されてしまう。

 そんなのは絶対に、



「嫌だ!」

 


 いうことの聞かない体を無理やり動かした。

 イグニス団長はすでに大斧を振りかぶっていて、あれを止めるのは僕の体格ではどうやったって無理だ。


 ならやることは一つ、

 僕は身を投げ出してエーデリカを庇った。


 足がもつれて少々無様な格好になってしまったけど、

 それでも大斧の一撃を止めることには成功した。

 

 僕は半身がなくなる感覚と共に意識を失った。

 

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