【番外編】蝶よ花よ
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
見られる為に存在しているのに、見られると駄目になる。何とも皮肉。
本日は生憎の雨だった。当然、本日開催の蚤の市は次回に繰り越される事となった。本業の骨董市を開いても良いのだが、出鼻を挫かれた故にやる気が出る訳でもない。だから僕は全てのものを置いて、店を開ける事にした。
訪れたのは、骨董品の宝庫であるとも言える博物館。本来ならば蚤の市が開催されるであろう場所。それを数メートル飛び越えた先に存在する山の手に、愛しの君達がいる。
僕は眠くなるような柔い光を天から浴びながら、玄関口である蝶のようにくびれた階段を登り詰める。そうしてその先の領域に、ちょこんと腰を掛けた。
目先に存在するのはただ一点。蛇腹状に飾られた一枚の屏風。淡く、儚い色彩の自然の風景が、小説の一幕の様な印象を与えてくる。木々の輪郭も、川の流れも、西洋絵画の様に鮮明な糸を貼張らない。線を追うことさえ難しい様な、境界が曖昧な世界がただただ広がっている。
基本的に骨董品や古美術などは、温度や湿度に蝶よ花よと愛でられなければ生きてはゆけない。すぐにでも朽ちて駄目になってしまう。そう、まるでこの屏風の世界のように。
故に最後に会ったのは何時だったかも覚えてはいない。少し前のような、うんと前の様な、其の何方もでもある様な、妙な時間の経過を感じてしまう。
もっと傍で愛を乞いたい。立ち上がって、僕と彼女を隔てる硝子に指の先を押し付けると、微かな、うら若い乙女の様な声が聞こえてきた。
――ミてモラえて、ウレしい。ずっと、アイたかった。テンシュサマ。
――あぁ……僕も。
装飾品、というのは基本的に人に見られて価値がある。どんなに精巧でも、華美でも、人に見られなければ意味が無い。けれどもそうやって、人目に吹き晒してしまったら、すぐにでも朽ち果ててしまう。だってお前達は蝶であり、花なのだから。
僕はするりと彼女から距離を置い置き、また、遠目から彼女を見据える。ただ今一度愛でる様に。
オマケ
「君の一昔前の小洒落た衣類も、此処だと目立たないね」
隣に座る彼女に、揶揄う様に言われた。
「褒め言葉として受け取っておくよ。でも一つ訂正したい。僕の街でも本の街でも目立たないよ」
「それもそうだね」
人目を引くような大正ロマンの袴姿でも、誰一人僕に目を向けない。皆が皆、目先の骨董品、古美術に夢中になっている。そんな世界だ。
かなりコアな読者様
幻想奇譚なのに、最近は渡が主人公じゃない話が多いよね?
なんで?
作者
価値観とか、考え方とかを鑑みて主人公変えてます。
渡は『何故古美術が存在するか』そこまで考えないかと。
精々、綺麗だなぁって愛でて、此処まで来れたのは皆のお陰。ぐらいかと。
此処まで書くには店主じゃないと難しいかなと。
骨董品の店主です。
丸眼鏡に大正ロマンの店主です。
最新版では、書生と出会っていた店主です。
だから延々と古美術とか眺めて扱ってますし、それ故に存在する理由なんかもちょくちょく考えて居そうだなと。
何せ、物の声を聞いて相応しい相手に紹介する輩なので。
美術品の本来の意味って、飾られて愛でる、事が本来の役割じゃないですか。
絵画しかり、彫刻しかり。現代だとイラスト、フィギュアも。
だから見られないと、愛でられないと、本来の意味がないと思うんです。
でもそれを長らくしてしまうと、美術品のほうが持たないんです。
彼奴ら箱入りのお嬢さんだからさぁ。温度と湿度に、蝶よ花よと愛でられなくちゃ生きていけないんだよ。
なんですよ。
その双方の皮肉を書いた話。
オマケの話でも。
書生服とか袴とか、まぁ着てる人いないので目立ちます。
でもそれよりも目立つ物があれば?
その場所に溶け込めたら?
それ程までに、選りすぐりの品々が存在しているというのは、素晴らしいことでじゃないかと。