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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自立し動く 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おー、つぶらやくんもデジタル電波時計をついに買ったんだね!

 これ、僕も重宝しているんだよね。なにより、自分で勝手に時刻を合わせてくるのがありがたい。

 デジタルはなんとも手間を省いてくれる。これまで、ことあるごとに手を入れなきゃいけなかったようなものを、放っておいてもカバーしてくれるような方向にさ。

 人間の身体も新陳代謝でもって、常に古いものをかき出し、新しい姿へどんどんと変わっている。取り入れるのはエネルギーだが、その加工や抽出、身体への貢献までは内臓たちの頑張りの賜物だ。


 こうしてオートメーション? じみたことが研究されるのも、このような自分たちの性質を他のものにも持たせようとしてるんじゃないかと、僕は思うんだよね。

 そりゃ、別のことへ振り分ける時間を確保する意味合いもあるだろうけど、自分のことは自分でやるようにと、遅かれ早かれ任せられていくのが人の身。

 そのスタイルを知らず知らずのうちに、こいつらにも共有してもらいたいのかなあ、と。

 だが、オートで動けるという我が身を活用しているのもまた、人間だけじゃない。一部の道具たちもしかりじゃないかとも、考えたことがあるんだよ。

 僕の昔の話なんだけど、聞いてみないかい?



 僕の親は一時期、時計を集めていたことがあってね。家には時計が、そこかしこに置かれていたんだ。

 なんでも時計は精緻な機構を持っているようでね。専門の知識がないと、手をくわえるのは難しい代物らしい。

 おそらく人類が身近にあるもので、使用率指折りの高さを誇りながら、そこにかかる手間暇が相当なブツのひとつだろうね。

 特にアンティークなものとかのこだわりはないようで、なんならテーマパークとかに売っているキャラクターものの置時計なども買ってくる。

 

 僕の部屋に置かれたのも、とあるキャラクターがかたどられたものでね。キャラの大きなお腹の部分が時計のプレート部分になっていて、針でもって時刻を示すタイプだった。

 12時になったり、3時になったりすると、音楽と一緒に空腹を訴えるセリフが流れてきて、にぎやかといえばにぎやかなんだけどね。AMとPMの表記も時計盤には記されていて、夜中にあたるAMでは鳴らないようにもなっている。

 それでもその日の機嫌によっては、それらの音をうっとおしく思っちゃうこともあるんだ。

 ボタンを押せば、それらはただちに止まる。

 うっとおしいときは、ついボタンを押しちゃうんだけど、その日は機嫌がいっとう悪かった。

 20センチほどの高さを持ち、抱えられるくらいのサイズの時計。勢いづいた指は、ボタンをついてなお置時計を押し飛ばし、背後の押し入れの戸へ叩きつけてしまったんだ。

 

 ほんの短い間だけど、時計のキャラが発する声よりずっと大きい音。親がこの場に飛んでくるくらいだった。

 すでに時計は元に戻したし、その場は適当に取り繕った。時計を雑に扱ったと素直に話すと、何を言われるか分からないからね。

 ひとまず親が戻っていって胸をなでおろすも、ふと時計を見直して僕は気が付く。

 部屋にある別の時計は、すでに3時をいくぶんか過ぎているのに、このキャラ時計は3時のまま。止まっていたんだよ。

 


 電池を入れ直せばまた動き出したから、当初はぶつかった衝撃で、止まってしまったんだと思ったんだ。

 しかし、その時計はそれから頻繁に止まるようになってしまったんだ。

 僕が衝撃を与えた3時ちょうどを指したままね。

 時計を気にしていないときは、何時間もそのままであることに気づかずにいたよ。ちょっといじれば、また動き出してくれるんだけど、止まるときもまたそのうちやってくる。

 おかしなことに、止まるのはいつもその3時を指す時だけなんだ。単なる接触不良だったなら、別の時間を指してストップする場合だって考えられるだろう?

 二度も、三度も、四度も同じことが起こるとなれば、さすがに僕も気にするさ。

 しかも、僕が気にして見張るときには、絶対に時計は止まらない。

 外出しているとき、眠っているときなど、意識が向かない、向けようがないときを狙って動きを止めてくるんだ。


 親に話しても、容易に信じてもらえなかったよ。耳で聞いただけじゃ、たまたまだろうと思われるのも無理なかった。

 そのストップ以外は、時計としての働きは申し分なくてね。捨てたいと話しても、もったいないと突っぱねられてしまう。勝手に捨てたら、所在を追及されて面倒なことになるだろう。

 結局、こいつが自壊するときを待たなきゃいけないのか……と、少し悶々としながら、その晩も布団へ横になったんだ。


『ハ〜イ、アイムハングリー! アイムハングリー!』


 何度も聞いてきた機械的ボイスに、夢の中から引き戻された。

 間違いない、あの時計の3時を指したときの合図。

 しかし、どうして? おそらく時間にして今は夜中の3時。これまでこのタイミングで鳴ったことは、一度もなかった。寝る前だって午前と午後の表記を確かめ、問題ないことは知っている。

 僕は目を閉じながら、枕もとへ手を伸ばしていく。

 こいつを目覚ましとして使うとき、いつもやっている要領だ。特に位置を見ることなく、スムーズに押せるという自負があったよ。

 起きるにはまだ早い。いまいちど、貴重な眠りの時間を確保せんと、邪魔者を排除しようとして。


 指に走る痛み。

 勢いよく閉めた車のドアへ指を挟んだ時のあれにそっくりだ。

 文字通り、飛び起きて指を引き寄せて、愕然としたよ。

 痛み続ける指は、血まみれになっていた。指の皮どころか、下の肉まで破れて、爪も猛烈な深爪をしたように、一部を持っていかれてしまっている。

 明かりをつけた。そして見下ろす時計に僕の血がついているのを見て取ったよ。

 ただし、外側についていた血はほんのわずかだけ。

 本命は内側だ。夜中の3時を指す長針の裏で、隠しきれない量の赤いものが盤を汚している。そこには、爪のかけらのようなものもこびりついていたのさ。


 これだけの物的証拠を出されては、親も納得せざるを得ない。

 ゴミに出すのははばかられるとして、人形供養と同じく、お寺さんへ預かってもらったなあ。

 きっとあいつは、勝手に動いてしまう身体をセーブするすべを探りながら、突き飛ばした僕への復讐の機会をうかがっていたんだろう。


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