下: 平和時代の石川の学校にて二人は……
「それで、気がついたらボクは元の体に戻っている。その後広島から石川に戻って元のボクとしての生活に戻ったというわけ」
「ほー……。不思議な話だね」
彼氏の尾道楓離くんが自分に起きたことを語って、あたしも興味津々に最後まで聞いて感動した。
「だから楓離くんはこんなに戦争時代の歴史のこと詳しいんだね。しかも女慣れって感じで……。自分が女として80年も過ごしたから?」
楓離くんとはクラスメイトで、最近付き合い始めたばかりの恋人だ。なんか物知りでいつもいろいろあたしに教えてくれて面白い人だとは感じていた。まさかこんな過去があるなんて……そう言ったら納得いけるかもしれない。
「まあね。てか『女慣れ』って、そんな言い方は誤解されやすそうだからやめて。せめて『女心がわかる』という言い方の方がいいのでは?」
「あはは、そうね」
楓離くんは本当に女の子に対して優しいし。ちゃんとあたしの気持ちをわかってくれて、一緒にいると女同士みたいな感じもした。
「でもまさか楓離くんは男と恋愛経験があるなんて。ショックだな。それってBL?」
自分の彼氏は元々誰かと付き合ったことがあって、しかもその相手が男だなんて……。こんなことを知ってショックを受けない女はいないよね。
「いやいや、あの時は体も精神も完全に女になったから普通の男女の恋愛だよ?」
「まあ確かにそうね。でもそれなのに今は普通の男の子として恋愛してるね」
男に戻ってもまだ恋愛対象が男のままだったらこれこそBLね。
「精神は体に引っ張られるから、男に戻ったとたん恋愛対象も女の子に戻ったんだ」
「そうか。それはよかったね。しかもロリコンだし」
あたしは楓離くんを睨みながら冗談っぽく言った。
「いや、そ……それは……」
「あ、なるほど、楓離くんのロリコンはこれがきっかけか」
「あはは……」
「まったくね……」
楓離くんは否定せずにただ苦笑いをした。認めたんだ。まあ、別に楓離くんがロリコンであることは付き合い始めた時から知っているから。
そもそも彼があたしを選んだ理由も実は「背が低くて若く見えて可愛くて幼児体型でボクの好み」って言われたし。さすがにどう受け止めていいか迷っちゃうけど、男がこういう生き物だなと理解しているからあたしも別に嫌ではない。幼女キャラのコスプレをさせられたこともあって恥ずかしいけど、それで彼が満足して可愛いと褒めてくれてあたしも嬉しいし。
「未幸ちゃんだって、なんか男心よくわかってるって感じだね」
「あ、それはね。実はあたしも楓離くんに言わなければならない秘密があるの」
「え? 何? いきなりこんな真剣な顔になって……」
「実はあたし……ううん、ワシは前世緋桜さんの旦那の富幸じゃ」
「へぇ!?」
あたしにそう言われると楓離くんはちょっと大袈裟っぽく驚いた。
「そ、そんなこと……。そういえば名前も似ているね。つまり未幸ちゃんって転生者なの? しかも性別が変わっているし」
「まあ、その通りじゃ。ワシはあの時73歳で死んだと思ったら次に気がついたら新津未幸という女の子に転生して、今のあたしになった。それで高校生になって楓離くんと出会って付き合ったらまさか前世での彼女だとはね」
愛し合う2人は性別を逆になっても巡り巡ってまた出会うなんて、これって運命だよね? 何という素晴らしい物語。やっぱりあたしたちは一緒にいるために生まれてきたんだ。
と、言いたいけど……。
「……なんちゃってね」
「え?」
「もしかして本気で信じちゃったの?」
「富幸くん……じゃなく、未幸ちゃん、今のは冗談なの?」
「まあ、だって楓離くん、あんなに気持ちよくべらべら語っていたからついちょっとフォローしてあげたくなっちゃって、思い付きで。でも次のネタは思い付かなくてやっぱり諦めた」
「は? フォロー? それって……」
そう。実はさっきあたしが言ったのは全部出鱈目だった。我ながらこれでもよくもあんな作り話しちゃったな。
あたしもいつも小説を読んでいるから。特にこういう転生もの。TS転生して性別が逆になってまた再会するカップルの物語も読んだことがあってすごく気に入った。
時々自分も実は転生者で前世は男だったんじゃないか、と思ったこともあるよね。だってあたしは意外と男と同じ趣味が合って、男心わかるってよく言われたから。それを元にさっきの楓離くんの話に合わせてこんな形になった。偶然にも名前は似ているし。
でもやっぱり限界がある。大体あたし広島弁わからないし。さっきも少しエセ広島弁を混じらせたけど、語尾が「じゃ」であること以外何も知らないから無理だと思って途中でやめた。
それにあたしは小説を読むことが好きなだけで、自分で書く才能があると思わないし。それに対し……。
「楓離くんってすごいよね。こんな物語滔々と語れるなんて。小説家になったらきっといける。あたしは絶対大ファンになるよ!」
まさか自分の彼氏はそこまで才能あるとはね。あたしは彼女としてサポートしたい。まずはいっぱい褒めて感想も言おう。
「あの……。もしかして全然信じてくれないの? ボクの話は……」
「それは……ごめん。でもツッコミどころが多いよね。いきなりタイムスリップしてヒオちゃんの元の人格はどこに行ってしまったの? 曾祖母ちゃんと出会う前の楓離くんの人格はまたタイムスリップしてヒオちゃんになるの? もし歴史が変えられて自分と再会できなければどうするの? 今の話だといっぱいタイムパラドックスが出そうだ」
「そ、それは……」
楓離くんはしょんぼりした顔をした。もしかして感想は厳しすぎたのかな? ウェブ小説を読む時の癖だ。別に悪いと思うわけではない。ご都合主義なところがあっても物語を楽しくさせるならそれでいいと思っている作品も多いし。
「あ、もうこんな時間か。ごめんね。あたしは今塾に行かないと」
面白くて時間を忘れてしまって今もう緊急事態だ。この話はここまで長いとは思わなかった。まだお話したいけど、時間は時間だし。
「待って。ボクの話は……」
「後でいくらでも聞くよ。好きだよ。楓離くんの物語が」
「今の『の物語』は余計だけど……」
楓離くんは拗ねたような表情をしてなんかちょっと可愛い。さすが幼女になったことだけあって? もしかして全部の話は本当だとか? まさかね。
「もちろん、楓離くん自身のことも大好きよ。それじゃ」
その後もさっきの話を頭から離れなくていろいろ考えて、そして余計なことかもしれないけどついこの物語のタイトルまで考えてしまった。
『広島の曾祖母ちゃんのロリ時代に逆行転生して昭和を生きる』ってどう?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ついでに主人公が石川出身という設定は実は特に物語に影響があるわけではないが、私の処女作である『いよひ 〜異世界幼女姫だったボクは日本美少女勇者の故郷で平和に暮らす~』(https://ncode.syosetu.com/n6329gr/)と同じ高校だという設定のつもりなので。
異世界帰りのものも興味があるならその作品もぜひ読んでいただきたいです。