秋色レター
とっとっとっと、階段を駆け下りる。そのまま家から外へと思ったら、父と玄関先で鉢合わせした。
日曜仕立ての父は、パジャマ姿でぼやく。
「お? どこ行くんだ」
「どこでしょ?」
頭をくしゃくしゃ掻きながら
「デート?」
「と思う? かもねー」
ちょっと不自然な間ができてしまった。ははは。
「ははっ、いってらっしゃい」
「信子ちゃんち。宿題よ。じゃ、お昼、いらないから!」
なんで嘘をついたんだろう。つく必要なんてないのに。
*
前のカゴにカバンを投げ入れ、少し錆びた赤のフレームの自転車に乗り込む。家の門をくぐり、そのままお寺のお墓の群れを横に突っ切り、ファミレスとマルエツの間の通りに入り、だらだらとペダルを漕ぐ。
自動車の排気音が何度も行き過ぎ、軽く息が弾むようになると、道路の先には一面の田んぼだ。
暦の上ではもう秋の始まりだが、景色は夏の終わりを色濃く残している。まだ稲は実りを迎えず、緑と黄緑の先っちょが目の前に広がる。だけど、初夏の部活の遠征の時にあれだけ騒いでいたカエルの鳴き声は、もう聞こえない。そよ風の音が、稲を草を緑を揺らす音が、聞こえる。さわさわ、さわさわ、そんなムード。ってわたし、詩人だね。恥ずかしいポエマーだね。こりゃ。
小さな車で精一杯の幅の、申し訳程度の小さな橋をがたごと通る。水は澄んでいて、でも夏のような青さは無い気がする。気がするだけだけど。
忘れられない小学生の、初夏。
ヨッシーと一緒に当時としては思いっきり遠出して、眺め続けた空。あの時の方がずっと広かった。それはこの田舎町にも開発が及んで、どんどんと景色の隅に映る建物が作られたからだろう。でも、やっぱ、広かったな。
「ほら、ツバメだよ! ツバメ!」
滑空する黒のフォルムに白の腹部。滑るような、空気を裂くような、それでいて滑らかなカーブ。あの軌道は、今もヨッシーの生意気な横顔と共に鮮やかだ。夕日に染まった頬まで。
似たような、でも変わっていく景色。用水路沿いに自転車をふうふう走らせた。
道の先に白い塊があって、「飛ぶぞ! 飛ぶぞ!」と念じていたら、ぱっと翼を広げ、不器用に羽ばたいて、低空を飛んで行った。アヒルを一回り大きくしたサイズのシラサギだ。その名の通り真っ白。彼らは季節を問わず、ここらに住み着いている。
ちょっとした上り坂にさしかかる。ぐっと足に力を乗せる。坂の先に古民家がぽつんと佇んでいる。道の奥はこんもりした住宅の集まり。振り返ると、田んぼだらけの風景がわっと広がり、白く薄い雲がアラジンの煙のよう。
確かに、卓球部のOBのおばさんに教えてもらった所のはずだけど。
古民家のようと聞いていたが、近づくと門には年季の入った趣が感じられ、広い庭が続き、建物は平屋の一階建てで、でも、横に広がり、ちょっとした武家屋敷のように見える。そんな武家屋敷なんて実際に観たことないけど。焦げ茶色とブラウンの中間の色合いの時代を感じる家だ。自転車を引きながら、ちらり庭を覗くと、目立たない暗がりに看板があった。「珈琲 自家焙煎 悠」。やっぱり喫茶店、だよね。
*
おっかなおっかな引き戸を開ける。
玄関は間接照明を使っているせいか、ほんのりと暗い。棚にはヨーロッパともアジアとも日本とも取れないような、曖昧なその中間に居るような調度品が並んでいる。例えば行灯ともランタンとも微妙に違う照明具。生け花ともフラワーアレンジメントとも違う、花瓶の花々。
壁の目立つところに、聞いていた通り、張り紙があった。
『店内の雰囲気を保つため、18歳以下の入店を、お断りしています』
正面のカウンターの向こうに店の主人らしい人がいた。口髭を生やし、髪をポマードで固め、如何にも「マスター」と呼びたくなる風貌だ。それが木造の古民家を改築した喫茶店とは、遠いようで妙に馴染んでいる。両方とも年季、積んでいるんだ。
わたしは自分でも妙にかしこまった声で、
「いいですか?」
マスターは穏やかな顔を向けた。
「高校生?」
「いえ、卒業してます」
「うん」
少しいぶかしげな眼で見つめられる。マスターは何処となくそらを見て考えている。
「うーん」
「えと、ほんとはコウコウセ」
ふと、髭顔が緩み、張り詰めたものが消えた。
「まっ、大学生と言うことにしておきましょう。特別ですよ」
「はい」
「友達を連れてはいけない、紹介もいけない」
「はい」
「どんちゃん騒ぎもいけない、酒に酔っては猶更いけない」
過去にそんなことがあったのか。そりゃ困る。大変だ。警告を受けてるはずなのに、妙にくだけた雰囲気になった。
「はい、マスター」
「ははっ、マスターですか」
いけない。思い込みが口に出てしまった。
「しかし、マスターねえ」
「あっ、すみません」
「いやいや」
メニューを見る。紙1枚のシンプルなメニュー。食べログで見た通り、ランチはやっていないようだ。
珈琲 500円
自家焙煎珈琲 600円
確かに高い。いや、かなーり高い。何時もなら、ちょっと手を出せない値段だ。
漫画コミック一冊分。サンデーのコナンの最新刊に、おまけに紅茶花伝のロイヤルミルクティーが買えてしまう。
そのまま目を下に移す。
バナナケーキセット 800円
コーヒーとケーキで800円。これなら、何とか納得できるかな。大宮のパティシェが開いた洋菓子店に行くと思えば、軽いものだ。注文を告げようとすると、ウェイターがいない。これは本当に、本格的な個人経営ってやつなんだろう。マスターは遠くの入り口で何やら仕事をしている。大きな声はかけていいのだろうか。この場に相応しいのだろうか。だからと言って、出向くのも仰々しくて、なんだかなあ。
広く落ち着いた空間。
わたしはそれを見て、ちょっと時間をつぶそうと思う。
母よりも随分と都会的に見えるクリーム色のカーディガンのおばさんが一人。ケーキを小さく小さく切って、これまた小さな口に運んでいる。
髪を後ろで束ねた眼鏡をかけているお兄さんが一人。頬杖をつきながら庭を見ている。庭は、大小、高低、様々な木々が渋い彩を見せるが、田舎育ちのわたしには、何時もの景色と何処が違うのかよくわからない。
もう一人、こちらからは灰の長袖しか見えない後ろ姿の、おそらくはおじさん。煙草をくゆらせているのか、煙が浮かんでる。客の間のスペースは十分以上にあり、その煙も匂いも、こっちまで届かない。
所在ない時間を埋めるつもりが、意外と楽しくなっていた。
もう少し店の内装を見てみようかな、この容器の中はなんだろう、砂糖壺なのかな、だとしたら洒落てるよね、とかやっていたら。
マスターの方から、こっちにやってきた。
「バナナケーキセットを一つ」
「コーヒーはどちらにしましょうか?」
何だろう。一杯に頭を働かせる。
「えと、自家焙煎かそうじゃないの?」
「いえ、冷たいのか、温かいのを」
ああ。アイスかホット。確かにどちらにしようか、どちらでもいい季節だ。自販機の「つめたーい」と「あったかーい」がせめぎ合うような。鈴虫の声まで、かすかに聞こえる。
時間をとりたいと思っていたので、ゆったりしそうな方を選んだ。
「ホットで」
「はい、バナナケーキセットの、温かいコーヒーですね、はい、かしこまりました」
*
わたしは、くっと伸びをすると、カバンから手紙を取り出す。学校の教室のわたしの机から見つけた、まだ封がされている手紙だ。シャープペンで「後藤円香さんへ」わたしの名前だ、と書かれている。その右下に申し訳なさそうに「吉田大和」と、そっとヨッシーの名がある。
しっかりと折られ、ノリでされたと思われる封を剥がすのを、少し躊躇い。
手紙を包んだ紙を、指先でなぞり続け、「えいっ、シチュに800円もかけたんだぞ!」と心を奮い立たせ、でも決して破けないようにゆっくりと、今まで生きていた中でもこれ以上ないくらいゆっくりと、封を剥がす。
ふと、視界が明るくなった。見ると、入り口のマスターが、照明の一つをスイッチでつけてくれたようだった。ほのかに温かく、決して嫌味にならない明るさだった。
*
気付いているだろうけれど、君が好きです。
こうしたラブレターのような告白の手紙を書くのは、今回が初めてじゃなくて、去年の正月の冬休み明けも、春休み明けもそうでした。
春休みでは後藤と違うクラスになったら渡そうと決心していて、それで同じだった時は嬉しかったのだけど、二日かけて徹夜して書いたそれがムダになることが妙に惜しかったことを思い出します。
気付いてみると、大きな休みがあって、会えない日が続くほど、想いが高ぶり、こうした手紙の形で発散していたように思います。
3回目にもなると、どうせ出さないだろうと少し書くのが楽になったのだけど、それでもこの想いが伝わらず、ただもどかしく、一歩も進まないままなのが、嫌なので、嘘だと思うので、だから机の中に思いきって入れるつもりです。
読んでくれているでしょうか。
いや、返事がNOなのくらいはバカな自分でもわかっていて、だからそっと流し読んでくれれば良いのです。だけど、やはりこれを読む後藤をイメージすると、どうも胸が壊れそうなくらい緊張し、恥ずかしくなります。
好きです。
ずっと前から好きでした。
小学生の頃、良く一緒に近所に冒険に行きました。その頃は、自然に女の子とも仲良くできて、後藤もたくさんの友達の一人として、自然に遊んでいたと思う。
バスで行ったデパートでのゲームセンター。近所の老婆の幽霊が出るとのお墓への肝試し。ジャンプでの次回どうなるか、ワンピースでこいつは仲間になるのかと言った、他愛ない話。
今思えば、こんな日がもっと続けば、これから続いていけば、良かったなと思います。
遊びを断るようになったのも離れるようになったのも、嫌いになったからじゃありません。むしろ女の子として意識したからでした。
クラス替えとかもあったけど。
高一の時にまた同じクラスになって、その二学期にはもう、好きでした。
妙に本好きで大人しくなって、最初はらしくないなと思っていたけど、気づけば自分も休み時間を本に費やしてました。なんだか、好きな本が同じだったりすると嬉しく、その本がもっと好きになり、自分が好きな小説で、でもちょっと激しいところがある本だったりすると、それを読んだなんて言えなくて、ちょっと悔しいような惜しいような。何といえばいいのだろう。こんな本を気兼ねなく紹介し合えるくらい、もっと仲良くなれたらなと思いました。
後藤はもう女の子たちでグループを作っていて、だから入り込む余地がないと思ってたのに、ヨッシーって声をかけて、あの頃と同じく嬉しい関係を持ってくれたのが、ほんとうに、ありがたかった。
その関係が壊れてしまうこと。
それもやはり、告白をためらう理由にありました。
だから、この手紙を読んだ後も、いつも通りつきあってやってください。(お願い!)
後藤の横顔が好きです。
笑った顔ももちろん素敵なんですけど、少し沈んだような、でも深く遠くを見つめているような表情が好きです。
後藤は背が高く、背が高いのになんで卓球部にいるのかと、良くからかっていたのだけど、本当は後藤よりも自分の背が低いことがコンプレックスだったのです。
彼氏になったら、横に並んだらみっともない。そうなれないのは分かっているのに。
それでも、今年になって背が並んでほんのちょっとこっちの方が高くなったのが、嬉しかった。自信をもって告白ができるような、実は密かに願掛けをしていて、そうしたものはけっこう沢山あるのだけど、その一つにこの身長がありました。
願が叶ったようで、だから、告白します。
好きです。
ちょっとしつこいかな。それくらい好きです。
好きです。
*
ボールペンで、でも書き直した跡も、不自然な文字のすき間もなく、丁寧に書かれていた。
「です、ます」の丁寧語は何時ものぶっきらぼうな口調からは想像もつかないが、でも、何となく、真っ赤になった顔が浮かんだ。
何回も下書きして、言葉に迷って、消しゴムで消して、読み直して、書き直して、一つの形に決めて、清書したものだろう。
それがわかるのは、わたしも似たようなことをしたことがあるからだ。結局、今まで、出せなかったけど。
シャープペンで幾分か慌てて、でもヨッシーらしい人柄の滲む文字で、PSが書かれていた。
PS
後藤には確かに恋愛感情を持っていて、それは恋人になりたい、デートをしたい、結婚をしたい、気持ちはあります。
キモイかな、でも、それだけ真剣です。
でも、大切な友達の一人としても、このつながりを断ちたくないと思います。
ふられて、しばらくは、立ち直るのに時間がかかるかもしれないけど、しばらくしたら、また友達でいてくだされば、嬉しいです。
って、なんで、ふられる前提で話てんだ。クラいぞ、自分。
わかっています。
後藤が、ごっちゃんが、宮田のことが好きなんだって。
じっと見ている横顔の視線が向けられているのが、風景の窓のようで、ちらちらと宮田に向けられていることを。
わかってます。
ごっちゃんの気持ちが俺に向かってないことを。
だけど、そのむぼうびな笑い顔が、俺に恋をしていないからなんだってわかっていて、だけど、わかっていても、そのむぼうびな顔やトークやしぐさが好きです。
返事は、ゆっくりでいいです。
わたしは手紙を、二度、読み返した。
一度目はスムーズに、二度目はゆっくりと。
りぃん、りぃんと、鈴虫が鳴いていた。
*
マスターがお盆に、それは西洋のものなんだろうけどお盆以外なんと言えばいいんだろう、コーヒーにバナナケーキを用意してくれた。
手紙を読むスペースを空け、テーブルの周りにそれぞれ置く。
注文から遅かったな、本格的に淹れると時間がかかるのかなと思ったが、待ってくれたんだと心が及ぶと、何だか泣きたくなるくらい嬉しかった。
ミルクは入れず、白の砂糖壺から一さじだけ取り出して、コーヒーに溶かす。家のとは違う、でもホテルのように持つことに気を遣うような細い繊細さが無い、ゆったりとした柔らかなコーヒーカップを手に取り、口に含む。
苦く、その苦さは美味しいとは思えなかった。やっぱわたしはマックスコーヒーをがぶ飲みする子なのだ。
それでも熱くもなくぬるくもない、心地よい温度が残った。
バナナケーキを一口切り分け、口に運び、確かにそれを味わえるような心の平らな落ち着きは無かったものの、スマホで写真を撮るのを忘れていたのに気付いた。あんなに高かったのに。
ケーキは甘すぎず、だけどコーヒーの苦みを優しく包んでいた。
「あっついなー」
「ペットボトル持ってきてよかったね、ヨッシー」
「あー、ムギチャ飲むと、汗がどばっと出るわー」
「わたしも」
「でも、これだけ晴れてたら、よぅく見えるぞ、ツバメ。クチバシの色だって」
「ねえ、わたし、汗、くさくない?」
「変なこと気にするなあ」
「あっ! あれ!」
「うん、ここらはツバメの練習場なんだ。秋になると南の海に渡るんだ」
「へー、たしかにこの小さいの、オロオロ飛んでるね」
わたしは、ヨッシーが好きだった。
小学生の頃、一緒に遊んでいて、彼はやっぱりそのころ脈が無かったようだけど、ませていたわたしは、彼のお嫁さんになることを、密かな将来の夢にしていた。
それから嫌われていると思っていて、それでもと思っていて、でもクラスが別々になったとき、泣いて、はじめて朝まで一日中寝付けなかった。
また同じクラスになって、好きなことについて語れるようになったのは、その好きな思いがほんのり残っていて、でもふれあうのを恥ずかしく思うような強い思いは他の男の子に移ったからだ。
わたしは、宮田くんのことが、好きだ。
ヨッシーが思っていたように。
だから返事は決まっている。
この喫茶店に来たのも、それについて考えを巡らすためだった。メールで送って、さっと終わらせようとも少し考えていた。
だけど、いまどき時代遅れな手紙の、そこに賭けられた思い、紙に心を込めているような生真面目な丁寧な文字たちが、気遣いが嬉しかった。
この手紙は二人の思い出にはならないだろうけど、わたしの思い出として大切にしようと思った。
だからわたしも、返事は、手紙にしようと思った。
伝えたい想いは沢山ある。
いろいろと。いろいろと。
今までの想いが、今でも思い出があふれている。
それを言葉にして、文字に綴って、伝えよう。
明日、隣の市の大きな文房具屋で、可愛いレターセットを買おう。宮田くん用に取っておいたものではなくて、ヨッシーに応えられるものを。
鈴虫が、りぃんりぃんと鳴いた。
*
想いを巡らしながら少しずつ含んでいたコーヒーも、削っていたケーキも、空っぽになった。
でも、ファミレスのサイデリヤの追い出されそうな空気とは違う、穏やかな空間に、ほっと一息つき、それに甘えた。
ヨッシーへの想いは、夏のセミの声みたいに、ひととき強く大きく偶に煩わしいほどに、わたしの心を踊った。
でも、時は、移ろうものだ。
今は鈴虫のような、少し淡く、だけど凛とした、宮田くんへの想いがある。
宮田君には彼女がいるけれど、わたしの恋も実らないけれど、だけど、それだけに同じく実らないと知っていて、それでも一歩踏み出したヨッシーが強く見えた。
しゃんとしてるな、と思った。
背筋を伸ばしたヨッシーのちょっと緊張したほほえみが浮かんだ。
鈴虫が、りぃん、りぃん。
*
「ありがとうございました、美味しかったです」
「ありがとうございました」
空の風の感じ。涼しさを伴って吹いているやや強めの午後の曇天の風。喫茶店の上品な空気の後は、それが少し荒っぽくもくすぐったい。
「また、来てもいいですか」
「お客さんなら、常連になっても」
知らず、痛いところをついてくる。
「そんなにお金の余裕、無くて」
「はは」
「でも、デートには丁度いいですね」
自分で自然と口にしたはずなのに、ふとした言葉が必要以上に胸に刺さる。後悔。
「彼氏なんて居ませんけど」
「出来ますよ、きっと」
「はは」
「ははは」
古民家のような茶色のコーヒー店を背に、わたしは田んぼ道を、下っていく。
ふと耳を澄ます。
さっきまであれほどしていた、鈴虫の声は聞こえない。
確かに冷静になると、今は、まだ秋の虫が本格的に活動するには少し時期が早い。また鳴くにしても夜ではないだろうか。
となると、あの鈴虫の音は、喫茶店「悠」の計らい。鈴虫らの声が鳴るCDでも、音響として店内に流していたのだろう。
きっとそうだ。
なんだか、してやられたような、でも胸がじんとするような。
わたしは下り坂をペダルに足を置いて、滑っていく。
*
お返事、遅れてしまいすいません。
わかっていると思いますけど、返事はNOです。
でも、小学生の時に告白されてたら、「うん」と言っていたでしょうね。
あの時、わたしはあなたが好きでした。
今はその気持ちとは違いますけど、大切な友人なのは変わりありません。
それは、手紙を読んで、気持ちを知って、より大きくなりました。
これからも友達でいてくれると、嬉しいです。
わたしも、沢山、言葉にしたいヨッシーとの思い出はあります。
一つ一つ、綴ってみたくもありましたけど、直接、話し合えればいいなと思って、ここでは控えておきます。
今すぐは無理だろうけど、時が経てばね。
これも願掛けの一つになっていたら、嬉しいな。
季節は、すっかり秋ですね。
秋と言えば鈴虫。先日、きみのお手紙を読んでいた喫茶店で、こんなことがありました。