第14話 水のほとり
五日ぶりに戻った執務室の花が変わっていた。
静かな形に活けられている。
昔の静かすぎる屋敷のように。
ラナが活けていた花は、差し色に鮮やかな花が使われていて、明るく元気が出る感じがしていた。
その明るさのなかで、屋敷の中は笑顔があふれ、笑い声さえ広がっていた。
だが、ここのところ、ラナの姿を見ていない。
屋敷が寂しい、と当主は空を見上げた。
雲は少し低いところにあった。
空を薄く流れていく。
ギルバートはいつものように庭の東屋にいた。
『風の月』の空気は冷たさを伴う。
さすがに彼も部屋着の上に肩掛けをまとっていた。
長い黒髪に合わせた黒だ。
「旦那様?」
フィイが手桶を下げ、エゼルローゼの束を抱えて、足を止めた。
フィイの足元に纏わりついていた白狼のリルも足を止めた。
三本尾がピンと跳ねている。
「お帰りでいらっしゃいましたか!?
お迎えしなくてすみません!」
フィイが頭を下げた。
少し伸びた栗色の髪の先が下を向いた。
「気にしなくていい。」
「でも…」
「それは?」
ギルバートがフィイの花束を見た。
「あ、あの、ラナ様に…」
「?」
『ラナにたのまれたの!』
リルが得意そうに言う。
フィイが口元に指をあてて、黙るように示した。
リルがしゅんとする。
「ラナ様、いま、お師匠様とお役目に行かれているんです。
その間、お屋敷のお花の世話を頼まれて。」
「それはどこへ?」
フィイの花束に目をやる。
「この奥に届けてほしいって。」
「…。」
「この奥に平たい石が並んでいるところがあるから、そこにおいてほしいとお手紙をいただきました。」
(手紙…。
フィイには手紙…。)
「…それだけ?」
「はい?」
「他に何かなかったか。奥の場所の…」
「お掃除をして、お花を置いてほしいとだけです。」
ギルバートは立ち上がるとフィイの手桶を取った。
リルがギルバートを見上げる。
「旦那様!
ダメです!
水が入っています!」
「手桶の水は大丈夫だ。
魔物の水ではないだろう。
むしろ、花のほうが持てないのでな。」
少し笑みを見せる。
「少し、歩こうか。」
「はい。」
黙ったまま、二人は庭の奥の森に進んだ。
リルが二人の先を踊りながら歩いていく。
フィイがその姿に困った顔をしている。
開けた場所に出た。
平たい石が三つ並んでいるところだ。
リルが石の周りを飛び跳ねる。
『これなに?』
ギルバートがリルに首を振った。
『きいちゃいけないのね。』
リルがそっとギルバートのそばに寄った。
石の上の花が枯れていた。
「ここに来たことは?」
「初めてです、旦那様。」
ギルバートは、枯れた花を取り除き、手桶のひしゃくの水で石の表面を洗い流した。
フィイは不思議そうにギルバートを見ていたが、黙って石の上に花束を置いた。
「ありがとう、フィイ。」
ギルバートは石に目を落としていた。
「ラナが戻ってくるまで、ここを頼む。」
「はい。」
ギルバートがまた手桶を持ち上げた。
「だ、旦那様、私が持ちます!」
「気にするな、フィイ。
私がしたいのだ。」
また歩き始める。
ギルバートがフィイを見た。
「新年が来たら、いくつになる?」
「…歳ですか。十二の歳になります。」
「そうか…」
「旦那様?」
「フィイ、春になったら騎士見習に行かないか。」
「え!
え、とんでもない!
騎士見習は貴族様のご子弟が行かれるところです。
平民の私なんか、とんでもありません!」
「騎士見習は、身分に関係なく実力を評価されるところだ。
平民の出でも志願できる。」
「旦那様の…、私は旦那様のお役に立っていないのですか!
だから、お屋敷を出されるんですか!」
「フィイ、そうじゃない。」
「ここで、旦那様の召使いでいたいです!」
「フィイ、お前は同じ歳の子たちよりもずっと苦労してきたし、ちゃんと私の助けにもなっている。
だから、もっと外を知ってほしい。」
「旦那様…。」
「ロシュも同じ考えを持っている。」
フィイが足を止めた。
ギルバートも足を止める。
フィイは黙ったままだ。
「フィイ、歳の近い友人と出会えるといい…
私はそう思っている。」
「旦那様、」
「まずは考えなさい。返事は急がない。」
「はい。」
フィイは、ギルバートの手から手桶を取ると走っていった。
『あのね、くろいの。』
足元のリルがギルバートを呼び止めた。
『けんかをしちゃいけないのよ。』
「リル、けんかじゃない…」
『けんかをしたらラナがないちゃう。
ラナ、けんかがきらいなの。』
リルがギルバートを見上げていた。
『ラナのきらいなことしないでね。』
「…。
リル、フィイのところへ行きなさい。」
『うん!』
リルがフィイの後を追いかけて行った。
◇◇◇
ラナは湖沼を眺めていた。
薄青のドレスは少し寒そうに見える。
ラナの前には、大小の湖沼群が広がり、そのすべてが彼女を見ているように思えた。
ダーナクレアでもこんなに見られている感じを受けたことがない。
湖沼の声は彼女を「セイレンの子」と呼んだが、何のことだかわからないのだ。
「ラナ、どうした?」
「マリー様…
綺麗な景色だって思って。」
騎士の旅装のマリーがラナの横に立った。
ここは領都の中心部から少し離れた場所になる。
「確かに、イゼーロの湖沼群は綺麗だ。
でも、アインに言わせると、『何も産んではくれない』そうだ。
水はたくさんあるが耕作地は小さい。
作物の収穫量が少ないと豊かとはいえないしな。」
「故郷のダーナクレアも同じでした。」
「ダーナクレア領?」
「はい。
私はダーナクレア出身です。
ダーナクレアも洪水ばかりで、ぬかるんだ土地では麦もたくさんとれません。」
「そうか…。
アインも『水が売り物になれば』って、ため息をついていたよ。」
マリーが笑みを浮かべた。
「さて!
ラナ、湖沼の様子はどうなのだ? 水魔は出そうなのか?」
ラナが笑った。
「水魔になるときは、魔の塊がいるのです。
ここは魔の塊の感じがありません。
マチュア様が精霊のようだとおっしゃっていました。
きっとそうなのだと思います。
嫌な感じがしないんです。
なんだか懐かしい気がします。」
ラナが微笑む。
ラナが湖沼のほとりを歩き始めた。
マリーも並んで歩き始める。
「ラナはどうして水魔退治なんかに?」
「…ダーナクレアは洪水が多くて、堤防を作って河を止めるんですけど、いつも壊されてしまいます。」
「ダーナ河の上流も大変なのだな。」
「ダーナクレアがちゃんとしないと、下流の土地が大変です。」
ラナが肩の水筒を担ぎ直す。
「一番大事な堤防を壊されました。」
ラナが俯いた。
「怒りを鎮めるために『人柱』を。」
「ばかな!」
「はい。
でも、大方の民はそういうのを信じていて。」
「だから、私が河に飛び込みました。」
「ラナ!?」
「大河神ダーナ・アビスに『面白いから下僕にしてやる』って…
古の『勇者の血』でダーナ河を赤く染めたら許してやるって言われました。
だから、陛下のお命を…」
ラナが微笑み、マリーが困惑する。
「でも、しくじりました。
そうしたら、陛下に『水魔退治』をすればダーナクレアを助けてやると言われて…
だから、あの方の言うことを聞いています。」
「『勇者の血』がまだなので、私は、こんなのです。」
ラナはスカートの背中から剣を取り出すと自分の手のひらを傷つけた。
剣を戻すと同時に手のひらの痕に水が染み出す。
少しずつ、ラナの手のひらが溶けていく。
マリーがその様子に息を飲む。
ラナは肩の水筒を下ろすと蓋を開けた。
水筒の水を溶けている手にかけた。
「!」
ラナの手は水を得ると何もなかったかのように元に戻った。
「…化け物です。」
「ラナ…」
「この湖沼は、私を呼んでるみたいです。
きっと、おんなじ…
人じゃないものだってわかっているのかもしれません。」
ラナが微笑った。
マリーが腕を伸ばしてラナを抱き寄せた。
「マリー様!」
「年頃の娘が自分を傷つけるものではない!」
「はい。」
マリーの腕が緩み、ラナを離した。
「ギルバートは、このことを知っているのか。」
「…。
公爵様は陛下に剣を向けた私の手を掴みました。」
「!」
「手、溶けちゃいました。」
ラナがまた微笑んで答えた。
「だから、公爵様の『お手付き』なんてあるはずないんです。」
ただ、ラナの浮かべた笑顔はとても寂しそうに見えた。
◇◇◇
『魔槍のグレン』と人は男をそう呼ぶが、グレン本人は迷惑だと思っている。
戦場で剣を折ってしまい、代わりに手にしたのが落ちていた槍だった。
五十を超えたかという今もその体躯は頑丈で、胸板の厚さは普通の男の倍はある。
マリーが言うようにごつごつしている男である。
独り者だが茶色と白が混ざった髪をほぼ短くしていて、握りこぶし一つ二つ分だけ長いところを残している。
最期、野焼きの山に放り投げられるための把手として。
この冬の初め、グレンがイゼーロに来たのは、魔物退治の依頼を受けたからだった。
それも「水魔」だという。
イゼーロ領主の夫、マチュアは、王国騎士団『左翼』にいたとき、グレンのもとで兵站部の係をしていた。
マチュアは、見た目は背の低い小太りの凡庸ななりだったが、戦場のど真ん中でも頼んだものを必ず、調達してくる不思議な男だった。
どこにでもいて、誰にも気づかれない。
敵の陣中にいてもその不思議さで生き残ってきた。
グレンは何度もマチュアを索敵として放ち、マチュアは情報とともに帰還した。
マチュアの唯一のわがままがチェロの入手だった。
まだ交戦中の隣国からの持ち込みは危険だったが、マチュアはチェロを手に入れ、運び込みにグレンの一隊が加担した。
「密輸」に加担したのは、これが最初で…あとは臨機応変だ。
グレンは隣国との休戦がほぼ成立した時期に除団した。が、実際のところは、本隊の動けないところに入り込むのを役目とした遊撃隊として野に下ったのだ。
彼は、直属の部下を数名連れ、あとは現地で人員を募り訓練して使う。これで、王国騎士団の駐留がなくても自警団が組織できる。
現在の『左翼』騎士団の騎士団長バハール・オスカーリッツ侯爵は、ランバート王の和平政策を憂い、自軍に王国展開の命を課した。
その中心がグレン達だ。
北方での展開が手薄だと思っていたところで、マチュアの依頼があり、イゼーロにやってきた。
若者を少し集めて、魔物討伐の訓練をしている。
と、同時にイゼーロの湖沼の見回りも行っていた。
『水魔』を察知する槍は、その都度、穂先が輝き、柄を震わせ、グレンにその存在を教える。
外れはない。
グレンは、馬を止めた。
傍らの部下のシェリーも馬を止めた。
「グレン?」
「なんか出るぞ。」
グレンが遠くを見た。
「水魔?」
「まあ、見ておけ。」
グレンの視線の先には、湖沼のほとりにいるラナ達の姿があった。
「あれは、『右翼』の副団長ですよ。
隣の娘は知りませんが。」
グレンの視線を追ったシェリーがフフと笑って言う。
もう長い間、グレンの右腕を務めている。
シェリーの容姿はグレンと正反対の細身の優男だ。
髪は白金で波打っている。結ぶことはせず、無造作に垂らしている。
独り身だが、独り寝には縁がない。
シェリーの緑瞳がグレンの鞍の鞘に立てられた槍の穂先に向けられた。
穂先に革の被いがつけられているが、その隙間から、仄かな光が漏れている。
青い光。
水魔を見つけた印だ。
シェリーはグレンの動きを待った。
◇◇◇
ぽとりと水音がした。
『嫌なものがきたわ。』
そう言うと小さな湖がさざ波を立てた。
湖のひとつが濁り始めている。
ラナの肩の水筒が音を立て始めた。
その水音はマリーにまで聞こえる。
「ラナ!」
マリーが足を止めて、濁った湖を見た。
「マリー様、下がって!」
ラナが水筒を肩から下ろす。
湖面が針のように鋭く宙に伸びた。
前に見た蛇のような姿ではない。
槍の穂先のような鋭さがある。
悪意を感じる。
ラナは水筒を宙に放り投げた。
水筒は『熔水剣』に姿を変え、ラナの手に収まる。
両手で構えて、水魔に対峙する。
マリーも腰の剣を抜いて構える。自分の魔剣でないのが悔しい。
◇◇◇
「グレン?」
シェリーは上司をうかがった。
グレンは動かない。
それより、おもしろそうに眺めている。
シェリーも彼に付き合うことに決めた。
◇◇◇
「こんなの初めてかも…」
ラナが呟く。
「怒っているのには遭ったけど、わざと人を害そうとしているなんて。」
「ラナ、来るぞ!」
マリーの叱責に剣を握りなおす。
水魔の先端がまっすぐラナに向かってきた。勢いを増して彼女を貫こうとする。
「ラナ!」
マリーが叫ぶ。
ラナは水魔の先端を睨みつけ、膝を落として水魔の下にもぐりこんだ。
薄青のスカートを翻して、真下から剣を突き上げる。
水魔の先端が地面に突き刺さり、半弧を描いた胴体がラナの『熔水剣』で引き裂かれた。
が、まだ水で出来たところだけだ。
裂かれた胴の中には魔の塊が見えない。
再び、水魔の先端がラナを向いた。
二つに裂かれた胴体が一つに戻る前にマリーが薙いだが、ひとかけ減らした程度のものでしかない。
水魔の先端がねじ込むようにラナに迫った。
それを正面から剣先で受けると突きさすように身体ごと突き進んだ。
『熔水剣』が水魔を粉砕する。
その中の魔の塊が破裂した。
水魔のかけらが雫となって飛び散る。
ラナだけでなくマリーもずぶ濡れだ。
「やはり、水魔は好かんな。
また、ずぶ濡れだ。」
マリーは剣をおさめながら笑った。
「すみません…」
ラナが小声で謝る。
髪から雫が落ちたまま、地面に膝をつく。
『熔水剣』から戻った水筒に水魔の残滓を掬い入れた。
「さんびゃくさんじゅういち。」
「ラナ?」
「水魔は… 千体、放たれたのだそうです。」
「え?」
「ダーナ・アビスが言っていました。
私が『勇者の血』を河に流さないと、千体の水魔が暴れるって。
それが嫌なら、この剣で葬れと。」
ラナが濡れた顔を拭った。
「やっと、三百三十一体です。」
ラナが水筒を抱えて立ち上がろうとした瞬間、彼女の背中が激しく打たれ、飛ばされた。
「ラナ!」マリーが叫ぶ。
一瞬、ラナの息が詰まる。
弾き飛ばされ、身体が地面に叩きつけられる。
抱えていた水筒もどこかに飛んで行ってしまった。
ラナの背後にあった別の泉から水魔がせり出している。
マリーが剣でなぎ払うが、致命傷にはならない。
マリーがラナに駆け寄る。
ラナが咳き込んで、起き上がった。
「水筒が…」
ラナが手を伸ばす。
ラナに絡みつこうとする水魔をマリーが切り捨てるが追いつかない。
「お願い! 届いて!」
転がっている水筒が姿を揺らしてラナのほうに動き始めた。
その間を水魔が邪魔をする。
「チッ!」
マリーが舌打ちした。
(ラナを引きずって逃げるか。
水辺から離れれば…)
マリーがラナの背中を掴んだ。
水魔がラナに飛びかかってくる。
(まずい!)
二人の目の前に長槍が弧を描いて突き刺さった。
穂先は青く仄めく光にまとわれ、それは地面に水魔の黒い塊を突き刺していた。
黒い塊はしばらく動いていたが、やがて止まってしまった。
「助かったのか…」
マリーは突き刺さった槍を見ていた。
覚えのある青い穂先。
「情けねえな。
副団長。」
グレンは、マリーに冷ややかに笑いかけながら、自分の槍を地面から引き抜いた。
「『魔槍のグレン』…」
マリーが呟いた。
◇◇◇
「ずぶ濡れだねぇ、マリー。」
シェリーは、笑いながら、乾いた手ぬぐいをマリーとラナに渡した。
「そちらのお嬢さんもどうぞ。」
「…ありがとうございます。」
ラナが頭を下げた。
「『将軍』には、礼を言う。」
マリーがグレンを見た。
「『将軍』じゃねえよ。
今じゃ『魔物退治のおっさん』だ。」
「マリー様…」ラナがマリーを見る
「『魔槍のグレン』殿だ。」
ラナの水色の瞳がグレンを見上げた。
マリーの言うようにごつごつした大男だ。
ダーナクレアの父よりも年上だろう。
ダーナクレアの堤防作業にいるごつい人夫を思い出させる。
「その二つ名は好きじゃねえ。」
グレンが面白くなさそうにいうと、
「でも否定はしないんですよ。」
シェリーがくすくす笑いながら補足する。
「まあ、なかなかの見世物だった。」
グレンが鼻で笑う。
「人が悪い…」
マリーが渋い顔をする。
「そこの小娘が水魔の相手をするとはな。」
グレンがラナを見下ろした。
「王国も人材不足か?」
「彼女は特別だ。」
マリーがラナとグレンの間に割って入った。
「公爵が水魔を退治できないから、彼女が代わりを引き受けてくれている。」
「ふーん…。
で、小娘、お前は誰に剣術を習った?」
グレンがラナを見下ろして言った。
「…習ったことはありません。」
ラナが情けなく答える。
「自己流か…。
だからな、力の加減が悪すぎる。
水魔一匹、倒しただけで、力尽きてるだろ。
続けて出てこられたら、殺られてしまうぞ。」
ラナは言い返せずに唇を噛んだ。
薄青のドレスからはまだ水が滴っている。
「公爵は教えてくれんのか。」
グレンが肩から笑う。
「アレには無理だ。
人を教えられるほど、人間ができていない!」
マリーが答えた。
「彼もマリーには切り捨てられるねぇ、昔から。」
シェリーは笑い続けている。
「シェリー師匠、いい加減に笑うのをやめてください。」
マリーが困ったように言う。
「師匠?」ラナがマリーとシェリーを見比べる。
「マリーとギルバートが騎士見習の頃、二人の教官をしていたんだよ。」
シェリーがやっと笑うのをやめた。
ラナに顔を向ける。
「君は、腕力がない分、身体ごと向かっていたね。
両足で踏ん張っていたけど、脚力が足りない。
上体がふりまわされていた。
走り込みがいる。」
「走り込み…」
呟いたマリーの顔が険しくなった。
「この師匠は、見習いに大剣を背負わせて、山を駆けるのを三日させた。
きれいな顔をして、やることは滅茶苦茶だ。」
「でも、完走したのは、マリーとジェイドとギルバートだけだったよ。」
シェリーが嬉しそうに言った。
ラナが目を丸くする。
「もういい。
ラナ、帰ろう。」
「は、はい。」
マリーが苦い顔をしてラナを促し、歩き出した。
ラナも後に続く。
「おい、小娘。」
グレンがラナを呼び止めた。
ラナの足が止まる。
「剣が習いたきゃ、宿営に来るといい。
森との境に俺達はいる。」
ラナは答えず、小さく頭を下げるとグレンのもとを離れた。
「いい筋だと思いましたが。」
シェリーが笑みを浮かべた。
「魔物にはな。
あれは、人切りはしてないだろう。
ちゃんと教えてやらんといざというときに困る。」
「彼女、来ますかね?」
「さあな。」
グレンが少し笑った。