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16.有力候補の令息

 母アフェンドラの言葉に分かりやすい程の動揺を見せたハロルドをローゼリアが不思議そうに見つめる。何故ならば現状有力な婚約者候補者は見つかっていないからだ。


「あら! もしかして条件の良い婚約者候補の方がいらっしゃるの!?」


 ハロルドの反応を見たアフェンドラは、今度はローゼリアの方へ確認してくる。


「いえ。確かに素敵な男性ばかりをご紹介頂いておりますが、今はまだ……」


 その返答を聞いたハロルドが、勢いよくローゼリアを凝視する。


「ええと……。殿下? どうかなさいましたか?」

「いや、その、私はてっきり……」


 何故か口ごもるハロルドの反応に更にローゼリアが不思議そうに首を傾げる。

 だが、そんな二人の様子を楽しげに観察していたアフェンドラが口を挟んだ。


「でもアドルフからは、とても有力な婚約者候補の男性がいる様子だと伺ったのだけれど……。確かあなたのお兄様のご友人のミオソティス伯爵家のご令息だったかしら?」


 思い出すように呟かれたアフェンドラの言葉に再びハロルドがピクリと反応する。アドルフというのは王弟でもあるエレムルス侯爵の事だ。恐らくこの間の夜会でのローゼリア達の様子からそのように感じ、義姉であるアフェンドラに話したのだろう。だがローゼリアにとって、ルシアンとそこまでいい雰囲気になっているという自覚は一切なかった。


「いえ。ルシアン様とは、エレムルス侯爵邸の夜会で初めてお会いした程度でございまして」

「でもアドルフの話では、ミオソティス伯爵家のご令息はとても積極的にあなたにアプロ―チをされていたと聞いているのだけれど?」

「そんな事は……」


 何故か瞳をキラキラさせて質問してくるアフェンドラにローゼリアが苦笑する。

 どうやらアフェンドラは、恋愛話が好きらしい。先程から手にしている扇子を両手でしっかりと握り締め、期待に満ちた視線をローゼリアに送ってくる。

 しかし、ローゼリアが誤魔化す様な笑みを返したので、探りを入れる相手を息子のハロルドに変更したようだ。


「ハル、あなたから見てお二人のご様子はどうだったの?」

「どうと言われましても……」

「もう! そもそもミオソティス伯爵令息をローゼリア嬢の婚約者候補の一人に選んだのは、あなたでしょう!? 本来ならお二人の仲を取り持つような雰囲気作りをするべきではなくて!?」

「現在ローゼリア嬢からは、ルシアン殿との交流を深めたいというお声を頂いておりませんので」

「ではローゼリア嬢からその要望があれば、あなたもお二人の交流を深めるきっかけ作りに協力する姿勢でいるという認識でよいかしら?」

「ええ、まぁ……。私が彼をローゼリア嬢に婚約者候補として紹介致しましたので……」


 何故か歯切れの悪い様子で返答したハロルドに再びローゼリアが首を傾げる。

 もしや近日中に新たな婚約者候補の紹介予定でもあったのだろうか……。

 もしローゼリアがルシアンとの話を進めたいと言い出した場合、その婚約者候補を選定していたハロルドの労力が無駄になってしまう。そう推察したローゼリアだったが、それは次のアフェンドラの言葉で違う事が判明する。


「でもあなたは、先程からどこか浮かない顔をしているわね……。もしかして、新たにローゼリア嬢へご紹介するご令息の目途が立っていたの?」

「そういう訳では……」

「ならばローゼリア嬢とミオソティス伯爵令息の交流の機会を設けても問題はないわよね? アドルフの話だと、お二人はとても良い雰囲気だったと聞いているし。ローゼリア嬢もお兄様のご学友ならば安心して親睦を深められるのではなくて?」

「母上! 勝手に話を進めようとならさないでください! ローゼリア嬢にも気持ちの整理や、検討なさる時間が必要かと思います!」

「何を感情的になっているの? 今日は本当にあなたらしくないわね……。そもそも本来の目的は、ローゼリア嬢にとって良き婚約者との出会いをお手伝いする事だったのでしょう? でも今のあなたは、どうもその事に対して後ろ向きのように見えるのは、わたくしの気のせいかしら?」


 目を細めて微笑みを色濃く見せる母にハロルドが盛大なため息で返す。


「ですが、物事には段階という物がございます。恐れ入りますが、もう少々私と彼女のペースでこの件は進めさせて頂きたいのですが?」

「あら、変ね。何故、あなたとローゼリア嬢のペースが一緒なのかしら?」

「彼女はまだルシアン殿とは一度しか顔を会わせておりません。その状況で急に交流を深める場を設ける事は、ローゼリア嬢の候補者を精査する時間がなさ過ぎると私は感じてしまいますが?」

「確かにそうね……。では、そういう事にしておきましょうか。でもね……」


 そこで一度言葉を止めたアフェンドラは、テーブル越しでローゼリアの両手を取り、ニッコリと微笑む。


「ミオソティス伯爵令息とのお話を進めたい場合は、遠慮なくわたくしに相談してね?」


 ニコニコしながら、しっかりと両手を取られたローゼリアは、やや困った笑みを浮かべる事しか出来なかった。




 そんな全く違う話題で終了してしまった第三王子フィオルドの対策会議だったが、最終的には週に一度ローゼリアが登城し、ハロルドと自分の元に届いたフィオルドからの相談内容を王妃アフェンドラとシャーリーと共に話し合いをしながら助言内容を考え、最後にハロルドによってその助言内容が適切かを検証してもらってから、フィオルドに返事をするという流れになった。


 フィオルドにとっては、自分の事をよく知る次兄と元婚約者のローゼリア二人から相談に乗って貰っている認識だが、実際は自分の母と意中の女性もその相談内容を把握しているという何とも情けない状況である。

 しかし、今回の婚約破棄未遂事件で一番被害にあったシャーリーが助言する側に参加してくれた事で、フィオルドが無自覚に暴走気味になってしまう背景が見えてきた。


 だが何故シャーリーが、そこまでフィオルドに対して協力的なのか、その理由ははっきりしていない。稀にシャーリーがその相談対策のお茶会に参加出来ない時があるので、ローゼリアとアフェンドラの間でシャーリー不参加時にその話題となる事がある。本日もそんなシャーリーが参加出来ないという状況だった。


「ねぇ、ローゼリア嬢。わたくし思うのだけれど、シャーリー嬢はそこまでフィオの事を迷惑がっていないような気がするのだけれど」

「王妃殿下もそう思われますか? 実はわたくしもそう感じておりまして……」

「やっぱり!? でも、あの子は公の場であなただけでなく、シャーリー嬢も悪い意味で注目の的にさせてしまったのだから、嫌われてしまってもおかしくない状況なのよね……。何故かしら?」

「以前、シャーリー様がおっしゃっていたご自身とフィオルド殿下の境遇が似ている事から放っておけないというお気持ちになられているからでしょうか?」


 ローゼリアの解釈にアフェンドラは、やや腑に落ちないという反応を見せる。


「でも……いくら親近感が湧いたとはいえ、ここまで協力してくれるかしら……。それにシャーリー嬢はフィオと違って優秀でしょ? あの愛らしい容姿と努力家な部分が、爵位等を物差しにしない貴族達から高評価を受けているのだから、いくら才能ある姉妹に挟まれているとは言え、フィオのような劣等感は抱いている様子がしないのよね……」

「こればかりは直接シャーリー様に伺った方がよろしいかと思います」

「そうね。今度やんわりと聞いてみま……」


 しかし急に鳴り響いた扉をノック音で、アフェンドラは途中で言葉を止める。

 恐らくハロルドが公務を終えて、ローゼリアを迎えに来たのだろう。

 週に一度の頻度でローゼリアとシャーリーは登城し、フィオルドから送られてくる自己改善の為の相談内容を三人で検証し、助言内容を考えている。

 その助言内容を今度はローゼリアがハロルドと検証し、その後フィオルド宛ての手紙にその内容で返信するという流れだ。


 この後、ハロルドの執務室に案内されるであろうと予想したローゼリアは、スッと席を立った。だが、入室して来たのは、眩いプラチナブロンドを持つ王太子リカルドだった。


「リカルド殿下? どうかされたのですか?」


 ローゼリアの問いに何故かリカルドが、ニヤリと口の端を上げる。

 その様子を確認したアフェンドラが、小さく息を吐く。


「ローゼリア嬢、ハロルドの公務処理が長引いていると報告を受けたのだが、もしよければ時間つぶしとして、私達と一緒にお茶でもいかがだろうか?」


 口調は爽やかだが、先程から何か企んでいそうな口元の笑みは崩れない。

 だからと言って、王太子のお茶の誘いを無下に断る訳にもいかない。


「喜んで……と二つ返事を致したいのですが、現状は王妃殿下とのお茶を楽しませて頂いている最中でして……」


 申し訳なさそうにローゼリアが答えると、リガルドがフッと笑みをこぼす。

 そして母である王妃にチラリと視線を向けた。


「母上はもう十分に本日ローゼリア嬢とのお時間を満喫されたのではありませんか? ですので、これ以上素晴らしいご令嬢を独占する事は、お控え頂きたいのですが?」

「まぁ! あなた達は兄弟そろって、わたくしとローゼリア嬢の楽しいひと時に水を差すのね!」


 そう言ってプリプリ怒り出した王妃に苦笑しながら、リカルドが言い訳をする。


「実は今、東国との新たな交易品について相談の為、ミオソティス伯爵家のご令息ルシアン殿に登城頂いているのです。確か彼はローゼリア嬢の婚約者候補の一人だったと記憶していたので、もし良ければお二人の交流の機会を設けたかったのですが……。いかがですか? 母上」


 その話を聞いた王妃は、急に瞳をキラキラと輝かせ始めた。


「そのような話であれば仕方がないわね。ミオソティス伯爵令息はローゼリア嬢にとって、婚約者としての好条件をたくさんお持ちの方だと聞いているわ。これを機に是非交流を深めて頂いた方が、お二人にとっても良い流れとなるものね!」


 やや興奮気味で熱弁を始めた王妃に若干ローゼリアが困惑する。

 確かにルシアンは今までハロルドから紹介された婚約者候補の中では、マイスハント家にとって一番有益な相手となる。

 だが現時点ではローゼリア自身が、そこまでルシアンに惹かれてはいない。

 もちろんルシアンが魅力的な貴公子である事は一目瞭然なので原因は彼にではなく、ローゼリア自身の気持ちに問題がある。


 何故なら現状のローゼリアには、ルシアン以上に気になる男性が心の中に存在してしまっているからだ。だがその相手は、今まさにローゼリアにとって、もっとも有益な婚約者候補となる男性探しに奮闘してくれている。

 そんなやるせない自分の現状を思い出してたローゼリアは、アフェンドラの提案に薄っすらと苦笑を浮かべてしまった。

 だが、その事に気付かないアフェンドラは更に話を続ける。


「でもローゼリア嬢は、このあとハルとフィオの事で話し合いをする予定になっているのよね……。そうだわ! ならばハルをそのお茶席に途中参加させればよいのではなくって? あの子は臣籍降下後、東国との窓口的な領地の管理をする事になっているでしょう? 東国との取引が盛んなミオソティス伯爵令息から有益なお話も聞けるだろうし、ローゼリア嬢との話し合いも出来るから、あの子にとっても有意義な時間になると思うの!」


 何故かハロルドもそのお茶席に参加する流れになっている事にローゼリアが戸惑い出す。自分にとっての最有力婚約者候補の男性と、自分が今一番気になっている男性が同席する状況に複雑な感情を抱かずにはいられない。

 だが、アフェンドラは名案だとでも言いたげな表情で、この提案をリカルドにグイグイ押して来た。


「ねぇ、リード。あなたもそう思わない?」

「ええ。私も母上のそのご提案には賛成ですね。ですが……まずはローゼリア嬢の了承を得ないと」


 そんな会話をする王妃と王太子の表情は、何故か楽しそうだ。

 二人から了承する事をじわりと促されたローゼリアは、苦笑を浮かべたまま返答する。


「リカルド殿下、喜んでそのお茶のお招きに応じさせて頂きます」


 しかし、この選択で後にハロルドとの関係が微妙な雰囲気になってしまうとは、この時のローゼリアは全く予想していなかった。

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