ややこし人魚のおまじない①
太陽が力強く輝く季節になりました。
ミミルの街のお日様も元気いっぱいで、街の人たちがまだ夜だと思っていた時間から、もう東のお空に顔を覗かせています。
街の中心にある、寝坊助の時計台も、朝早くから目を開けていられないような強い光でジリジリと顔を照らされたものですから、普段なら絶対に起きない時間に目を覚ましてしまいました。
逞しい二枚の羽根で朝方のフライトを楽しんでいたフクロウのフクロウタさんは、ため息をつくように、ホウと一声鳴きました。
「やれやれ。眩しくてかなわんわい。年寄りは早くベッドに入れということかの」
と、ブツクサ言って森に帰って行きました。
お日様は、ミミルも起こしてやろうと思って、黄色い光の腕をおまじない屋の窓から差し入れて、まだ寝ているミミルのほっぺたをナデナデしました。
でも、すぐにそれは無理だとわかって、大きなため息を一つつくと、お空の高いところへと昇っていってしまいました。
◇
お日様が悠々と空の旅を楽しんでいる頃、いつものようにたっぷりと朝寝坊をして、ミミルはようやく目を覚ましました。
「ふう。汗かいちゃったじゃないの。もう、お日様ったら、こんなに暑くしてくれなくたっていいんだから」
その頃、お日様はもう既にお空の上で、西の山の向こうから吹いてくる涼しい風に、火照った顔をあてて涼んでいましたから、ミミルの文句にも、どこ吹く風。
ワハハハと大きく笑って、空を渡るカモメを驚かせました。
ミミルは夏用の半袖の服に着替えると、鏡の前でニカッと笑いました。
ミミルミルミル ミミルミル
ナツノゲンキナ オマジナイ
オヒサマギラギラ マブシイナ
ショクヨクバッチリ オソウメン
ナガシテグルグル メガマワル
コンナイイヒハ オシャレシテ
オデカケマエカケ コボサズニ
ステキナデアイヲ ノガサナイ
ミミルミルミル ミミルミル
ウスギノキセツノ オマジナイ
朝のおまじないを済ませたら、いつものようにホットミルクとはちみつトーストの朝ごはんです。
どんなに暑い日でも、朝は温かいものを食べると決めていますから、ミルクはホットで、パンはトーストするのですよ。
食事を終えたミミルは、そうだ、海に行こう、と思いました。
こんなにいいお天気の日には、海に行けば素敵な出会いがあるに決まっています。
それに、ネコヤナギさんからもらったバラは、もうとっくに枯れてしまっていましたから、ハマユウだとかハマナスだとかいった、海辺に咲く花を摘んでこようと思ったのです。
ミミルが住んでいる街は、南側は海が入り組んだような形をしていて、街の中心から南に行くと、ちょっとした砂浜が広がっていました。
外は、カラッとした、爽やかな夏の日差しが降り注いでいます。
ミミルはこういう日の為にと、取っておいた麦わら帽子を被って、洗面所の鏡に自分を映してみました。
「ねえ、お帽子似合うかしら」
ミミルが微笑むと、鏡の中のミミルも微笑み返してくれますが、いくら待ってもニコニコとしているだけで、帽子を褒めてはくれませんでした。
ミミルは、プウとほっぺを膨らまして、そそくさと外に出ました。
◇
外は日の当たる場所を歩くと汗ばんできますが、日陰になったところでは、まだ涼しさを感じます。
ミミルは歌を歌いながら、日向と日陰を交互に選んで歩いて行きました。
クワガタ ひなた ぽぽぽのぽ
トカゲ ひかげ ひややのや
ホタル わたる かもめのめ
みずに ミズスマシ
カエル ヨウスマシ
かげと きょうそう えっちらほ
ゴールは よるだ どこいった
海に行くのだと思うと、気持ちが高ぶって自然と駆け足になります。
緩やかに下る、砂浜へと続く道を、ミミルは急ぎ足で駆けていきました。
「どう、どう、ミミル。そんなに急いだら疲れちゃうわよ。落ち着いて。ゆっくりこん、ゆっくりこん」
ミミルは木陰で一休みしていくことにしました。
適当な木を選んで根元に腰を下ろすと、ヒューゥ、コテッという音がして、何かが上から降ってきました。
よく見ると、それはリスミンさんでした。
「あらリスミンさん、ゴキゲンヨウですこと」
見事に背中から着地したリスミンさんは、立ち上がってパンパンと埃を払いました。
「木から落ちてきたんじゃないよ。ミミルが見えたから、降りてきたんだよ。本当だよ」
リスミンさんの木登り下手は、相変わらずのようです。
「ゴカンゲイ、オソレイリマスだわ」
ミミルはクスッと笑いました。
「わたし、海に行く途中なのよ。シルクハットに飾るお花を、海のものにしようと思うの。夏らしくって、素敵だと思わない?」
「海にはお花は咲いていないよ。昆布ならあるよ」
「砂浜にはあるわ」
「シルクハットに砂がいるね」
「じゃあ、砂も持っていくわ」
「それより、海にパパナッシュさんがいるよ」
パパナッシュさんとは、樽の中に住んでいる男の人です。
歳はミミルよりもずっと上だと思いますが、誰も本当の歳を知りません。
大抵いつもしかめっ面をしていて、ぼろ切れ一枚をまとっただけの格好をしていますが、この人の持ち物はといえば、この、ぼろ切れと樽があるだけなのです。
髪はボサボサ、ヒゲはもじゃもじゃで、どこまでが髪で、どこからがヒゲか区別がつきません。
いつも決まったところにいるというのではなく、昨日は東にいたかと思えば、今日は西にいたりします。
ミミルは、パパナッシュさんが樽の外に出てどこかに歩いていくのを見たことがないので、この人は樽に入ったままゴロゴロと転がっていくのだと、勝手に思っていました。
でも、そんなことができるかどうかは、ちょっと考えてみれば、誰にでもわかるはずですけどね。
「きっと昆布を取ってるんだわ」
「ぼくはお魚だと思うな」
「あの人、釣り竿なんて持ってないわよ」
「もじゃもじゃヒゲでからめとるのさ」
◇
しばらく休憩してから、二人で行くことにしました。
今度はゆっくり行くつもりだったのに、リスミンさんはチョコチョコと、先に行こうとします。
結局ミミルも、待って待ってと追いかけました。
トットコ、チョコチョコ。トットコチョコ。
抜きつ抜かれつ、人間とリスとの競争です。
そのうちに背の高いシュロの木が並んでいるところまで来ました。海が近い証拠です。
風の匂いも、潮を含んだものに変わってきました。
「見て見てリスミンさん。海が見えるわよ」
太陽の光を反射して、キラキラと光る海が見えてきました。
ミミルは何度も海を見たことがあっても、やっぱり海が見えてくると毎回興奮してしまうのでした。
ザザザザ、ザバァ。
ザザザザ、ザバァ。
白い波頭を持った波が、生き物のようにうねり、砂浜に寄せては返します。
キェア、キェアと、カモメが押し潰した風船のような声で鳴きました。
砂の上には、まるでついさっきそこを透明人間が歩いたような足跡が、点々とついていました。
それを目で辿っていくと、うじゃうじゃとした黒っぽいものに囲まれて、ぼろ切れを纏った男の人が何かをやっていました。
側には古ぼけた大きな樽が転がっています。
「ほら見てよ。パパナッシュさんたら、昆布を引き上げているわ」
「魚じゃない?昆布の間に魚が見えるよ」
リスミンさんの言う通り、昆布の間に大きな魚の足が見えました。
頭は樽の陰になって見えませんが、かなりの大物と見て間違いないようです。
二人は透明人間の足跡を追って、砂浜を駆けていきました。
「ゴキゲンヨウですこと、パパナッシュさん。大きなお魚が獲れたみたいね」
パパナッシュさんはミミルを見ると、日に焼けたシワクチャの顔にさらにシワを寄せて、いつものように不機嫌そうな顔をしました。
「ご機嫌ようなものか。魚なんてどこにもおらんわい」
「あら、じゃあ、そのお魚は作り物かしら?百人分のお造りだってできそうよ。お客様がいっぱい来るようなら、今夜はウォーターベッドの用意をしなくちゃいけないわね。それとも、まな板の方がお好みかしら。わさびを枕にしても、よろしくてよ」
ミミルは冗談を言ったつもりでしたが、パパナッシュさんは笑ってくれませんでした。
「お前さんには、これが魚に見えるのかね」
パパナッシュさんに促されて、樽の陰に回ってみると、ミミルはそこに思いもよらないものを見ました。
「あら、あら、あら、あら」
驚きすぎて、ミミルの口からは、あら、あら、としか出てきませんでした。
大きな魚だと思っていたのは、下半身だけで、上半身には、綺麗な女の人の体がついていたのでした。人魚です。
「まあ、まあ、まあ、まあ」
今度は、まあ、まあ、としか出てきません。
人魚なんて、絵本や物語で知ってはいたけれど、お話の中だけのことだと思っていたのです。
まさか本当にいるだなんて、ミミルは思ってもみませんでした。
それで、あら、と、まあ、としか出てこなくなってしまったのです。
こういうときに、うまい具合に言葉が出てきてくれるといいんですけど、ミミルには、驚きながら他のことをするなんていう器用なことはできなかったのでした。
それにしても、ミミルが驚くのも無理がないほど、人魚は綺麗な姿をしていました。
瞳の色は太陽の光を受けて輝く海の色。
髪の毛も同じ色で、それが頭のてっぺんから豊かにこぼれ落ちて、毛先は腰のあたりでカールしています。
肌は真珠色で、ほんのり上気して桃色がかっていました。
ほっぺたはつるんとして、まるで殻を剥いたばかりのゆで卵のよう。
胸には、絵本で見たような貝殻の水着。
足のうろこは、一枚一枚が別々に太陽の光を反射して、虹色に輝いていました。
「はあ。まるでお人形さんだわ」
ミミルは、感嘆して大きなため息をつきました。
思わず目を逸らしてしまうほど、人魚は綺麗な姿をしていました。
「人形じゃないよ。人魚だよ」
リスミンさんが冷めた調子で言いました。
「わかってるわよ。どうしてあなた、そんなに落ち着いていられるのかしら。だって人魚よ、人魚。こんなことって、あるかしら?ねえ、あなたのうろこを触ってもいい?あ、いや、駄目よね、そんなこと。レディに対して失礼だわ。でも、あんまりあなたが綺麗なものだから」
ミミルはすっかり興奮してしまいました。
するとそれまで黙っていた人魚の口が開いて、鈴が鳴るような声が聞こえてきました。
「あ、ありがとう、ございます。そのう、助けていただいて」
その声の美しさは、まるで天から天使が降りてくるときに奏でられる音楽のようでした。
「私、人間の世界に憧れていて。もっと南の海からやって来たんですのよ。でも楽をしようと思ってイルカの背に掴まってたら、途中で放り出されちゃったんですわ。そうしたら昆布にからまってしまって。そこを偶然通りかかったこの人に助けてもらったんです。危ないところでしたの。私、この人に助けてもらわなかったら、ずっと昆布だけを食べて生きていかなくてはならないところでしたわ」
あろうことか、人魚はパパナッシュさんを見て、ポッと頰を赤らめました。
「わしは助けたつもりはないぞい。魚を獲ろうとしとったんじゃ。そしたら代わりにこんなものがかかっとった。こんなもの、煮ても焼いても食えんわい」
パパナッシュさんはしかめっ面でした。
「なんで人間の世界に憧れたの?」
と、リスミンさんがマイペースな質問をしました。
「だって、人魚って、そういうものでなくって?私も幼い頃に絵本で読みましたのよ。大昔、人魚のお姫様が、人間の王子様と恋に落ちたこと、ご存知じゃないかしら?私も、いつか素敵な王子様と出会って、情熱的な恋に落ちるのだと、ずっと思っていましたの。ああ、やっと夢にまで見た人間の世界に来れましたわ」
「じゃあ、あなたはしばらくこの街にいるのね」
ミミルは顔を輝かせました。
「ええ。どこかに私を泊めてくださる方がいらっしゃらないかしら。例えば、この方とか」
人魚は濡れたまつげで、上目遣いにパパナッシュさんを見ました。
それは大変に色っぽかったのですけど、パパナッシュさんは海の方を向いて魚を気にしていました。
「わたし、わたしの家に行きましょうよ!パパナッシュさんのお家はこの樽しかないし、リスミンさんのお家にもお風呂がないわ」
ミミルは興奮して言いました。
「大丈夫、ミミル?金魚を飼うのと違うよ」
と、リスミンさんが気にしました。
「オヤスイゴヨウだわよ。人魚と一緒に暮らせるなんて、夢のようだわ。ねえ、パパナッシュさん。この人を樽に入れて、一緒にわたしの家まで運んでくれないかしら」
「わしゃあ、魚を獲っておったんじゃぞ。そんな暇はないわい」
パパナッシュさんは反対のようです。
「そうねえ。家には魚はないけど、バナナならあるわ」
パパナッシュさんはしばらく考えていましたが、バナナをもらえるのならと、渋々承知してくれました。
「ミルクも付けてくれよ」
と、付け加えることも忘れませんでした。
「もちろんよ。夏のホットなミミルの、ホットミルクをご馳走するわ。じゃあ、人魚さん。そうと決まれば、わたしの家まで行くから、よろしくね。それより、いつまでも人魚さんじゃ呼びにくいわね。あなたって、名前があるのかしら?あ、人に名前を尋ねるときは、まず自分からよね。わたしはね、ミミル。街外れのおまじない屋のミミルよ。この人はリスのリスミンさん。それから樽のお家のパパナッシュさん」
「わたしはココナッツといいますのよ」
「へえ、可愛らしい名前ね。音だけ聞くと、なんだかパパナッシュさんみたいね」
それを聞いて、また人魚はポッと顔を赤らめましたけど、大丈夫かな?
まるで妖精みたいな人魚と、ヒゲボーボーでお風呂にも入らないようなパパナッシュさんでは、釣り合いが取れないように思いますが。
そんなパパナッシュさんは相変わらずしかめっ面です。
「ミミルさん、よろしくお願いしますですわ」
こうしてみんなは、おまじない屋に行くことになりました。
樽に人魚を入れて、胸にそれぞれの思いを秘めて。
「この街に王子様なんていないけどね」
リスミンさんがボソリと言いましたが、それは海風にかき消されてしまいました。
◇
「ちょ、ちょっと、やめて、やめてくださりませんこと!?」
早速、樽を横にしてコロコロと転がして運ぼうとしたら、ココナッツが悲鳴を上げました。
そりゃ、そうですよ。いくらなんでもそれは無理ってもんです。
家に着くまでに、あざだらけになってしまいます。
それならばと、今度は樽を縦にして、持ち上げて運ぼうと思いましたが、リスミンさんは数に入りませんし、ミミルもまだ子供。
ほとんどパパナッシュさん一人の力です。
少し持ち上げては、うんしょ、うんしょと運びますが、すぐに下ろしてしまいます。
大体にして、この樽だって結構重いのですよ。
ミミルが、どうしよう、オオカミラさんでも呼びに行こうかと悩んでいると、おずおずとココナッツが口を開きました。
「あのう、わたし、歩きましょうか?そのう、もし、皆さんが良かったらということですけど」
ココナッツはミミルたち一人一人の顔色を伺っているようでした。
「え、ココナッツさん、歩けるの?」
ミミルは目をまん丸にして、人魚の尾ひれを見ました。
「はい。少しの間でしたら、魔法で人間の姿になれますのよ」
なんと、驚きです。そんなことができるのなら、早く言ってくれれば良かったのですけど。
「だって、皆さんが運んでくださるっておっしゃるものですから。それをお断りするのも悪いでしょう?それに皆さん人魚の姿がお気に入りのようでしたので」
ココナッツは困ったように小首を傾げました。
ミミルは何か言おうと思ったのですけど、そこまで出かかったと思った言葉が、どこかにいってしまいました。
きっとそれは、人魚の困り顔が、あまりにも可愛らしかったせいだと思いました。
◇
ココナッツは17歳くらいの人間の少女に変身しました。
尾ひれは、すらっとした二本の足に変わり、貝殻の水着は、白いヒラヒラしたワンピースになりました。
足元にも、紐のサンダルを履いています。
本当にお人形さんそっくりだったので、リスミンさんでも、思わず見とれてしまいました。
みんなは緩やかな登り坂を、パパナッシュさんの樽を転がしながら押していきました。
ココナッツも一緒に押してくれたので、ずっと楽でした。
コロコロと樽が転がる音は、自然と歌になりました。
たるころ まるころ 鬼さんとおる
夕焼け 胸焼け 食べすぎ注意
グラタン あまたん マタタビフーフー
西の山には 日が昇る
東の森は 大洪水
太陽が西の山のてっぺんに差し掛かり、ふわわ、とあくびをしました。
それを合図に、帰るところのない赤い光がだらしなく街をさまよいました。
仕方ないですね。お日様だって、いつもいつもキリリとしているわけにもいきませんから。
早起きのお日様は、この時間は、もう眠くってしょうがないのですよ。
カラスがカアカアと鳴いて、街の人たちに帰宅を促している頃、ミミルたち一行もようやくおまじない屋に着きました。
「ふう。ようやく着いたわね。もうじき夜よ。ココナッツさん、あなた自分でお風呂に水を張れるかしら?わたしはちょっと休憩。今日はお昼寝もしてないのよ」
ミミルはもうクタクタでした。
ひとまずベッドに入ろうと思いましたが、パパナッシュさんがそうさせてはくれませんでした。
「バナナはどこじゃ、バナナは。ミルクも沸かしてくれるんじゃろ」
「ううう。バナナは戸棚よ。ミルクは、わたしが沸かすしかなさそうね」
「あのう、ミミルさん。お風呂って、これのことですか?」
「それはタンスよ!水なんか入れちゃダメ!」
結局、ミミルが一人で全部やらなくてはいけないようでした。
パパナッシュさんにバナナをたらふく食べさせて、人魚をお風呂に入れて、温かいミルクをお腹いっぱい飲んで、ようやくミミルはひとごごちつきました。
「ああ、目が回る。こんなんだったら、樽に入って転がってくれば良かったわ」
ベッドに倒れ込んだミミルに、リスミンさんが近づいてきました。
「リスミンさん、あなたもうちに泊まっていきなさいよ。ちょうどリンゴを入れる籠が空っぽだから、そこで丸くなるといいわ。パパナッシュさんに食べられないように気をつけてね」
「ねえ、ミミル。これ」
リスミンさんはミミルに何かを手渡そうとしました。
見ると、それは綺麗なハマナスの花でした。砂浜を出るときに、こっそり摘んできてくれたのでした。
「あら、お花じゃない!そうだわ。そういえば、わたし、そもそもお花を摘みに海に行ったんだった」
さっきまでクタクタだったのに、ミミルは急に元気が出てきました。
「リスミンさん、覚えててくれたのね。嬉しいわ」
ぎゅうっとリスミンさんを抱きしめました。
「苦しいよお、ミミル。やめてよお」
リスミンさんは顔を真っ赤にして、しっぽをジタバタさせました。
早速ミミルがシルクハットにハマナスを挿すと、なんだか、おまじない屋に急に血が通ったような、途端に夏めいてきた感じがしました。