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ハイファンタジー

マッチ売りの追放少女

「そのマッチを全部売るまで帰ってくるな!」


「そうよ、このごくつぶし!」


私に対して両親は罵倒の言葉を浴びせかけて、池の水も氷るほどの家の外に追い出した。


追い出されたドアの内側からは、


「まったく、あんないらない子、死んだらいいのに」


「ははは、まあ今日持たせたマッチは全部しけった不良品だ。もう帰ってくることはないよ」


そんな会話が聞こえてきた。


どうやら、私は今日を最後に家には帰れないようだ。


悲しくて涙が出そうになるが、そんなものはとうに枯れはてている。


私はとぼとぼと、街頭に立ってマッチをそれでも売るために、歩き始めた。


ただ、今日は本当に寒い日で、数十年に一度あるかないかの大寒波だ。


このままじゃあ、私自身がマッチを売る前に、凍死してしまう。


だから、いけないと思いつつも、しけったマッチを擦った。


そうすると、なぜか簡単に火がつく。


そうこれは何も持たない私の唯一の取り柄だ。


どんなにしけったマッチであっても、必ず火をつけることができる。


もちろん、そんなことが出来ても、マッチを売ることには何の役にも立たないのだけど。


「ああ、でもだめだ……」


私はマッチのかすかな灯火に手をかざして、ほのかな温かさを手のひらに感じつつも、死の予感をひしひしと感じ始める。


今日は大寒波の日だ。


そんな日にマッチがいくら点いたところで、何の役にも立たない。


「せめて薪とか火のつくものがあれば助かるんだけどな……」





「……? あれは何かしら」


私が眠くなりそうな目を必死にこらしていると、大通りの片隅で、一つの馬車が停止しているのが見えた。


どうやら余りの寒さに馬が凍死してしまったようだ。


近づいてみると、馬車の籠の中からかすかに声が聞こえる。


「ああ、旅先でこんな大寒波にあうとは。部下も寒さで死んでしまった。薪はあるが、この寒さのせいでしけってしまって、マッチの火がつかない」


マッチならある。だけど、どうやら馬車の紋章を見るに、この国の王子のようだ。とてもではないが、自分のような身分の低いものが声をかけるような相手ではない。


そんなことを思っているうちにも、王子は、


「こんな大寒波の中でもし火を扱えるものがいるとすれば、それは女神アローネの生まれ変わりに違いない……。なくなった母様が信仰していた暖かで穏やかな女神……」


その声を最後に、馬車の中の声は消えてしまう。


いけない、気絶してしまったようだ。


「気絶してるなら、許してもらえるよね?」


そう言いながら私は馬車の中に入り込む。


そこには王子様が蒼い顔をして寝そべっていた。


馬車の籠の中にある暖炉には、たくさんの薪がくべてあるが、そこにあるマッチは全てしけっていて使い物にならないようだ。


「だけど私なら……」


私はつぶやくと、すぐにそのマッチを擦って、薪へと火をくべた。


馬車の中はすぐに暖かくなって、王子様の顔色もすぐに回復していく。


「いけない、すぐに出ないと」


私は王子様の意識が回復する前に急いで馬車の外に出る。


身分違いの私が王子様と直接顔をあわせるなんて、あってはならないことだ。


私は元いた街頭へと戻ると、またマッチを擦ってほのかな温かさにすがるようにする。


でも、すぐに限界が来た。


大寒波は私だけでなく、町全体を、凍えさせようとするかのようだ。


(ああ、でも最後に人のために役立つことが出来てよかった)


私は今まで両親から、役立たずとか、ごくつぶしなどと言われて育ってきた。


そんな私が王子様を助けることが出来たのだ。


もう悔いはない。


きっと私は微笑んでいただろう。


マッチのかすかな光が消えるように、私の見る視界もゆっくりと暗闇に飲み込まれて行った。


ただ、私が意識を失う寸前。


何か温かいものに私の体がくるまれるような感覚を受けた。


(ああ、これが天国に行くということなのかな)


そんなことを思って、今度こそ私は意識を手放したのだった。





「あれ?」


私は目を覚ますと同時に、目を疑った。


なぜなら、私は寝たことも見たこともない、温かな天蓋付きベッドに眠っていたからだ。


「ああ、ここが天国なのかしら?」


間違いないだろう。


そんなことを思っていると、


「ああ、起きたのか! 火の聖女よ!」


興奮した面持ちの年若く、しかしたくましい青年が私の方に駆け寄ってきた。


そして、私の手をつかむと、


「ああ、聖女よ。ずっと君を探していたんだ。ぜひ、この国の王子であるボクと結婚をしてほしい!」


そう一息に言ったのだった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


そのあとの私の人生は、今までとは全く違ったものになった。


王子は冬の精霊が強くなった現在の世界を憂いて、火の聖女をずっと探して旅をしていたらしい。


だが、大寒波に見舞わられ、死にかけていたところを、偶然私に助けられたということらしい。


私が聖女であることは、あの大寒波の中でマッチがつけられることで、確信をして、去った私を全力で追いかけ、救ってくれたという話だ。


そして、一方で、私の両親なのだが、あの後どうなったのか、実は知らない。


今まで聖女である自分に対して、多くの虐待をしてきたことは、私は言わなかったのだけども、周囲の住人達が知るところであり、それが王子の耳に入ってしまったため、それ相応の処罰がくだされたようだ。


そういう噂を小耳にはさんだ。


とある噂によれば、国外追放か何かの罰を受けたらしい。


可愛そうではあるが、すでに私はあの日、あの家を追い出された人間で、残念ながらどうしようもない。


出来るならば、心を入れ替えて、この国と同じ温かな人生を送られんことを。


YouTubeで執筆風景を公開した作品の完成版です!


恋愛ジャンルを書いたのは初めてで、良い経験が出来ました!!


1/7には新刊も出ますので買ってくださいね(*^-^*)

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SQEXノベル様から書籍化・コミック化決定しました!
  ノベルは2021年1月7日出版‼
  Web版とはまた違った展開をお楽しみくださいv( ̄Д ̄)v イエイ
https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/

また、書籍化作業と平行して、Web版も毎週月曜日20時頃に更新するようにします。
そして、キャラデザとカバー絵を大公開します。どうですか、素晴らしいですね!
イラストの説明
イラストの説明
イラストの説明
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― 新着の感想 ―
[一言] わわわ、斬新!
2023/04/25 17:32 退会済み
管理
[良い点] 表現の問題と設定の不備と描写力の完全な欠如がこの短い文章だけで見事に出ている点。逆に凄い。 [気になる点] こんな茶番を見せられるぐらいなら最初の家に火を放ってめでたしめでたし、とした方が…
2021/07/06 23:09 ぶーめらん
[良い点] 無いなぁ 一瞬で読み終える空気感? [気になる点] 強くなった冬の精霊をなんとかする為に、火の聖女を探してたらしいが… 火の聖女、その冬で凍死しかけてるんだが大丈夫? あとジャンルが恋愛…
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