第9話
「いくら勝ったの?」とさくらが聞く。
「5万円」
「じゃあ、2万5千円置いて行って」
「え、うん分かったわよ」
最近になってようやく、お金の管理はさくらがすることになった。母に持たせてアパート代の未納から立ち退けとまで言われたことがきっかけである。
また、別れた夫、さくらからすればお父さんになるが、からの慰謝料の振り込み先も6月からさくらの口座にしてもらった。神無月家は少しずつ経済的に持ち直しつつあった。
朝起きると芽衣の目は腫れていた。泣いたまま寝ちゃったのか、私らしくないな。気分転換に掃除機をかける。そう言えば虎も今頃バイトで掃除機使っているかな?ああ、気分転換になっていない、などと考えが空回りしていた。
昼からは近くのコンビニでバイトをしており、歩いてコンビニへ向かった。シフトに入ると、まずは大量に並んでいるレジ待ちをさばくべくレジ打ちをする。午後2時くらいまではレンジで温めるお客さんがほとんどで切れ目なく続く。何も考えずに集中できるなと思っていると、同じ文央高校の1-Cの男子がお店に入ってきた。知っている顔なので挨拶をする。
「高坂だよな?」
「はい」
「あの、良かったら これ」と言って、おそらく本人のものだろうLINE IDと名前の書いてある紙を渡された。この手の手紙はこれで何人目だろう。今日の人もそこそこかっこいいと思うけど・・・。
空いている時間にトイレ掃除や品出しをして、夕方5時に交代してバイトは終了となった。妹のためにアイスを買ってあげた。もちろん、自分のアイスも忘れずに。
紗矢が、父と母にドライブ中に勉強会の承諾をもらおうと聞いてみると「みんな連れてきなさい」の一言だった。いつも思うのだが父も母も紗矢にはとことん優しい。何をするにも反対されたことがない。一度飛んでもないことを言って反対してもらおうかと思うこともある。でも、例えばアイドルになりたい!と言っても、頑張れで終わるような気もする。
横浜までの道のり、助手席には母が座って、まるでデートしているかのように仲が良かった。多分、自分が生まれてからずっと変わっていない。何で弟や妹が生まれなかったのか不思議なくらいだ。