第2話
文央高校は大学受験に力を入れていることもあり、火曜日は受験の配点の高い英語が3時間あり、それも午後の3時間が全て英語である。1-Aの生徒からはデビルチューズデイと呼ばれている。3時間のうち2時間は学校から支給されているタブレットを使った授業なので多少は時間が早く流れるが、それでも退屈であった。
7時間目の終業のチャイムが鳴ると、全員が生き返ったように元気になり、それぞれ教室から出て行く。
礼は柔道部へ、真人は予備校へ、さくらはバイトに、虎と芽衣と紗矢は天文部へと出発した。
天文部は空を見ないと言われている。それぞれ自習をしたり、スマホをいじったり、ゲームをしたりと、他人に迷惑をかけるような大声や騒いだりなどしなければ何をしてもよかった。
虎たち3人は集まって、今日できたLINEグループの6人について話していた。礼については、いわゆるお人好しで人付き合いも悪くないだろうということになった。真人はおそらく東京大学を目指して頑張っていて、あまり校外では一緒に遊ばないだろうということだった。さくらについては家が大変そうで、あまりお金を使う遊びには誘えないかというような分析がされた。
そうなると天文部の3人と礼の4人で遊ぶのが男女比的にもいいのかとなった。
4人の都合をLINEで調整すると、6月の最初の土曜日がいいということで、午後1時に池袋駅東口の交番前集合となった。
当日の朝早くから紗矢は入念にシャワーを浴びていた。身長は145センチしかなく、体重も30キロ台だ。普段は眼鏡をしていて大人しくあまりしゃべらない。
浴室から出て、バスタオルを体に巻き、姿見の前で色々なポーズを取ってみる。
・・・こんな子どもみたいな体型じゃ男子には相手にされないかなぁ、芽衣なんか身長も155センチくらいあるし、胸も大きいし、性格も明るいし、虎だって礼君だって芽衣みたいな子がいいよね。ハァ。
紗矢の部屋に戻ると、時間はまだ10時だった。短めの髪はドライヤーで既に乾いている。お気に入りのテディベアを抱きながら、あーでもない、こーでもないと悩んでいた。
礼は前日の夜から緊張していた。虎と真人とは中学時代からの友達だが、女の子と遊ぶのは今日が初めてだった。スマホの記事で「女の子に嫌われない方法」等をたくさん読んでみたが、いまいちしっくりこない。ゲームをしたり、動画を観ているうちに朝になってしまった。このまま徹夜かと、朝から少しランニングして気合を入れなおしていた。
・・・まあ、なるようになるか。ようやくそう思えた。