第10話
「パパ、私に好きな人ができたって言ったら驚く?」
「そんなことないさ、紗矢が小学生でもね」
「それは、パパとママが3歳の時から付き合っているからでしょ?」
「人の運命なんてどうなるか分からない。自分の心には素直でいなさい」
「はーい」全然驚かない人だなと思った。そんな紗矢を乗せたまま、レクサスは首都高を横浜方面へと向かった。
横浜に着くと3人でランチになった。紗矢も145センチと小柄だが母も同じくらいしかなく、やせていて童顔である。たまに姉妹に間違われる。
ステーキ(たぶん高級な)を食べるが、紗矢も母も全部は食べられず、父に食べてもらう。そこで、母が父に「あーん」をして食べさせていた。紗矢は顔が真っ赤になるほど恥ずかしかったが、3歳から一緒の2人のすることだと思うと、それはそれでうらやましかった。食事の後、横浜スタジアムへ移動して野球観戦をした。DeNAと巨人の試合だった。紗矢は野球については詳しくないが、父も母も巨人が好きらしい。試合終了まで観ていると混むからと8回表の攻撃が始まったところでスタジアムを後にした。
礼の家から虎の公団までは自転車で5分くらいのところにある。礼は店の手伝いが終わると、手土産を持って虎のところまで遊びに来ていた。
「礼君じゃん!」出迎えたのは姉である。
「虎はまだですか?」
「たぶん、あと30分くらい、上がって待ってなよ」
「はい、あの、これどうぞ」差し出したのはコロッケ各種30個はあろうかという量である。
「え?こんなに?気にしないでいいのに、さあ、上がって」
「ありがとうございます」
ゲームでもやって待っていようかという話になり、姉が得意なぷよぷよをやり始めた。礼が姉に20連敗した頃、虎が帰ってきた。
「おう、来ていたか」
「お邪魔しているぞ」
「礼君、コロッケ持ってきてくれたんだよ!こんなにたくさん」
「お!すげー、カニクリームコロッケもあるじゃん!」
「2人とも座って、盛り付けるから」
3人の食卓には大量のコロッケとトマトサラダ、ご飯とオレンジジュースが並んだ。食べながら学校の話になる。姉は、最近虎はどうなの?などと聞いてくるが、礼は当たり障りのない言葉でごまかした。




