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「この星は間違っている」
全身を悪寒が走った。
彼の目は力強い光を放って、私を正面から見た。
「大統領は隣の星と戦争しようとしている。そんなことは許されない」
私は黙った。
彼はこの星の政治がいかに腐りきっているか、大統領が法律をねじ曲げ戦争という自らの野望に向けて猛進しているかを激しく語った。
彼が喋るのは、この話だけになった。
「音楽の話をして」
「怪獣の話をして」
喉まで出かかったけど言えなかった。
彼が生き生きしてたから。
彼は弱音を言わなくなった。
彼の目は私を見なくなった。
そして、ついに彼はベンチに来なくなった。
私は泣いた。
号泣した。
どのくらい時間が経ったのか。
ふいに怒りが湧きあがってきた。
大統領も法律も、この星も隣の星も全て怒りに飲み込んで、粉々にしてやりたい。
そして彼を私だけのものにしたい。
荒唐無稽な子供の空想のような考えが身体を震わせた。
でも私は現実には何も出来はしなかった。
しばらくして、彼は工場を辞めた。
他の人たちが「あいつは反大統領運動に参加する」と言っているのが聞こえてきた。
私は彼と出会う前の日々に戻った。
私は空っぽだった。
ただ、彼の唄ってくれた歌だけが私の中に残っていた。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
大感謝でございます。