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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
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92:『演習場』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


92『演習場』         




 この日は、トラックに乗って演習場に行った。


 西田さんのとちがって七十三式大トラ。新型らしいけど乗り心地は西田さんのクラッシックな方がいい。ドライバーのテクニックかなあ……なんて思っていたら、いつの間にか一般道に出ていた。後ろから、ノーズが凹んだポルシェがついてきている。


―― よくやるよ。おまえら、何が悲しくって自衛隊なんかやってんだ ――てな顔したアベックが乗っていた。


―― お、自衛隊にもカワイイ子いるじゃん ―― なんて、思ったんだろう、女の子に携帯でボコられてやんの。


 でも、二人ともニヤツイテ感じわる~。


 一番後ろに座ってた西田さんが、ヘルメットを脱いで、ポルシェに向かってニターっと笑った。とたんにポルシェは運転がグニャグニャになり、ガードレールに左の横っ腹を思い切りこすって停まった。


「今度は廃車だな……」


 西田さんは小さく呟くと、ヘルメットをかぶり直した。


 演習場に着いた。一面雪の原野でチョー気持ちいい!


「まずは、演習場を一周ランニング。小休止のあとテント設営。壕掘りを行う」


 オッチ、ニ、ソーレ! オッチ、ニ、ソーレ!


 雪の進軍が始まった。


 昨日の五千もきつかったけど、雪の上のランニングもね……と思ったら、案外楽に行けた。やっぱ慣れってスゴイってか、自衛隊の絞り方がハンパじゃないのよねぇ。


 走り終わると、みんなの体から湯気がたっているのがおもしろかった。


「では、テントの設営にかかる。各自トラックから機材を取り出す……」


 教官ドノは、ここで西田さんと目が合って、言い淀んだ。


「教官。ただ命じてくださればよろしい。『かかれ』が言いにくければ『実施』とおっしゃればよろしい」


「テント張り方用意……実施!」


 教官ドノのヤケクソ気味の号令で始まった。支柱を立てて打ち込む。その間支柱を支えていることを「掌握」 支柱をロ-プで結びつけることを「結着」という。



 企業グル-プさんは手間取って、規定時間をオーバーしてしまった。



「腕立て伏せ、用意!」


 あらら……お気の毒。と、同情していたら、大空助教が宣告した。


「では、乃木坂班は、これより壕掘りにかかる。各自円匙えんぴ用意!」


「エンピツ!?」


 夏鈴が天然ボケをかます。大空助教が吹き出しかけた。


「円匙とはシャベルのことである。用意、実施!」


 大空さんも、西田さんを相手に「かかれ!」とは言いにくそう。


 結局、このカワユイ大空助教の「命令」が、一番きつかった。むろん夕べの不寝番は別にしてね。


 気がついたら、乃木坂さんがいっしょに壕を掘っている。


「これ、よくやらされたんだ。校庭の土は硬くてね。それに比べれば、ここは何度も掘ったり埋めたりしてるから、楽だよ」


「あのね、乃木坂さん……(^_^;)」


 ひとりでに動いているとしか見えない円匙を隠すのは大変でした……はい。



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

芹沢 紀香       潤香の姉

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

貴崎 サキ       貴崎マリの妹

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

乃木坂さん       談話室の幽霊

まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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