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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
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9:『もの動かす時は声かける!』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


9『もの動かす時は声かける!』




 結局(日付、時間、芝居のタイトル、フェリペの場所)だけをメールでヤツに打った。



 ドーン! と、晴れ渡った秋空に花火は上がらなかったけど、城中地区の予選が始まった。



 全てが順調だった、その時までは……。



 私たちの乃木坂学院は抽選で出番は二日目の大ラスになっていた。


 部長の峯岸先輩は、初日から全ての芝居を観ている。峯岸先輩は三年生がみんな引退した中、ただ一人、現場に残ってくれている。特別推薦で進学が確定していたからでもあるけど、次期部長に決まっている舞台監督の山埼先輩に、部長としての有りようを示すためだと、わたしは思っている。


 前日の朝、乃木坂の講堂で最後のリハをやった。午後は実行委員の仕事として割り当てられている舞台係(搬入、搬出、仕込み、バラシの手伝い)と受付をやった。


 潤香先輩は、カワユク受付……と、思いきや、がち袋を腰に、ペットボトルを太ももにガムテープで留め(バラシのときに出る釘や、木っ端なんか、要するに舞台上に残った危ない小物を拾うため)長い髪をヒッツメにして働いていた。


 初日最後のK高校のバラシの最中、K高校のスタッフが声をかけないで、三六サブロクの平台を片づけようとして、二人で担架のように担いでいた。落ちた木っ端を拾っていた先輩がちょうど立ち上がり、その平台の横面に頭をしたたかに打ちつけた。


 ゴッツン!


「アイテー! だめでしょ、もの動かす時は声かける!」


「すみません」


 先輩は、インカムを外して、痛む頭をなでてみた。


「でかいタンコブができちゃった……気をつけてよね!」


 他校の生徒でも、エラーには手厳しい。K高校のスタッフは、二人揃って頭を下げ、そのあと上目づかいにこう聞いた。


「すみません……あのう、乃木坂の芹沢……潤香さんですか?」


「え、ええ、そうだけど……」


「ウ、ウワー! ホンモノだ(๑✧∀✧๑)!」


 ポニーテールが叫んだ。


「わたしたち、去年の『レジスト』観て感動したんです(๑✧∀✧๑)!」


 カチューシャも叫んだ。


「あ、それは、ドモ……」


 潤香先輩は戸惑った。


 K高の二人のテンションは高く、ミニ握手会になった。で、写真を撮って、番号の交換までやった……ところで、マリ先生の声が飛んできた。


「そこ! なに遊んでんの!?」



 そのときは、それで済んだ……。



 二日目は、本番二時間前に楽屋に充てられた教室に集合することになっていた。


 たいていの部員は朝からやってきて、他の学校の芝居を「客席を少しでもにぎやかに(実際、力のない学校は、自分の部員数ほども観客動員ができない)するため」ということで睥睨(へいげい=偉そうに見下す)するように観劇していた。

 さすがに峯岸先輩は、冷静に化学実験を見るように、時々ペンライトで、ノートにメモをとっていた。昼の部が始まる前にはみんな会場や楽屋に集まっていた。


「潤香が、まだ来てません」


 山埼先輩がマリ先生にそっと耳打ちした。


「潤香が……?」


「サリゲにメールしてみます」


 山埼先輩の応えに、先生は軽くうなずいた。


 昼一番の芝居が終わると、部員全員、楽屋に招集された。予定よりも二時間も早い。


 楽屋に行くと、マリ先生が腕組みをして背中を向け、窓から見える四角い空を見上げている。峯岸先輩と、山埼先輩が付き従うように立っている。


「先生、なにが……」


「全員が揃ってから……」


 山埼先輩がつぶやいた。


 え……なに、この気持ち悪い緊張感は?



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達


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