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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
84/106

84:『稽古は暗礁に乗り上げていた』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


84『稽古は暗礁に乗り上げていた』





「……さん」


 わたしたちには語尾しか聞こえなかったけど、マリ先生には全部聞こえたみたい。


「だれ……関根さんて?」


「あ……それは」


 マリ先生に聞かれてとぼけるのはむつかしい。潤香先輩も例外じゃない。


「……姉の元カレです。夢の中に出てきた人が……顔は見えないけど、そんな感じだったんです。わたしにも実の妹のように接してくださって……姉には内緒にしておいてください。姉には、大きなトラウマなんです」


「分かったわ……そういうことだったんだ」


「え……」


 潤香先輩をシカトして、先生は命じた。


「いまのことは口外無用。潤香も含めて……いいわね」


 はい……


 四人が声をそろえて返事をした。



 稽古は暗礁に乗り上げていた(-_-;)。



 最初の口上もそうだけど、歌舞伎や狂言的な表現には苦労ばっか。


 無対象の演技も、縄跳びなんかのレベルじゃない。見えないちゃぶ台に見えない食器、それも見えないお盆に載せて運ばなきゃならない。


 バケツに水を入れるのも一苦労。空と水が入ってるんじゃ重さが違う。


 ちゃぶ台を拭くのも、また一苦労。雑巾を水平に拭くのってムズイ!


 お茶を飲んだら、里沙と夏鈴はともかく乃木坂さんにまで笑われてしまう。


―― それじゃ、お茶を被っちゃうよ ――


「だって、ムツカシイんだもん!」


「まどか、誰に言ってんのよ?」


「え、あ……自分に言ってんの。自分に」


「ヒスおこしたって、前に進まないよ」


 そりゃあ、幽霊役の夏鈴はお気楽よね。壁でもなんでも素通りだし、この幽霊のノブちゃんだけ無対象の演技が無いのよ。



 で、稽古場の奥じゃ本物の幽霊さんがお腹抱えて笑ってるしい~(プンプン!)



 乃木坂さんは、ときどき上手に見本を見せてくれる。無対象でお茶を飲んだり、お婆さんの歩き方を見せてくれたり。


 でも稽古中にそっちを見ていると、こうなっちゃう。


「モーーー、どこ見てんのよ!?」


「いや、その……考えてんのよ。で、遠くを見てるような顔になんの!」


 乃木坂さんは、メモも残してくれる。


 ありがたいんだけど、古いのよね……「体」は「體」だし「すること」は「す可」だし、まるで古文。むろん理沙や夏鈴に見せるわけにはいかないし。


 はるかちゃんにも聞いてみた。説明はしてくれるんだけど、やっぱ、チャットじゃ限界。


 いっそ、乃木坂さんが理沙や夏鈴にも見えたらなって思ってしまう。



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

芹沢 紀香       潤香の姉

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

貴崎 サキ       貴崎マリの妹

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

乃木坂さん       談話室の幽霊

まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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