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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
78/106

78:『旧制中学の制服』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・


78『旧制中学の制服』




 スカートを繕って同窓会館の方に戻りかけると、理事長先生といっしょになった。


「さっきは、焼き芋の差し入れありがとうございました」


「なんのなんの、ちと多すぎやしなかったかね」


「いえ、先輩方も応援に来てくれたんで、ちょうどよかったと思います」


「そうか、そりゃよかった」


 そこへ、みんなが、ゾロゾロ同窓会館から出てきた。


「整理完了したから、お祝いの買い出しに……あ、理事長先生。先ほどはありがとうございました」



 一礼すると、里沙を先頭に、みんなで駅前のコンビニを目指して行った。



「ほう……綺麗になったね。いや、同窓生を代表して礼を言うよ」


「いいえ、とんでも。こちらこそ……」


 理事長先生は、懐かしそうに部屋を一周すると、ピアノに向かい、静かに撫でてから弾き始めた。


「……先生、この曲なんていうんですか!?」


「『埴生の宿』だよ……知っているのかい?」


「はい……ここで聞きました」


「……そうか、君にも聞こえたのか」


「人影も見えました……一瞬、シャンデリアが一瞬点いたときに、ほんの一瞬……」


「……旧制中学の制服を着ていなかったかい?」


「それっぽかった……かな。きっとバルコニーのガラス戸に映った自分の影を……」


「僕も、一瞬だけ見たことがある……このピアノに寄っかかってるところを刹那の間」


「先生……」


「そのときも、かすかに『埴生の宿』が聞こえた。そうか……君にも見えたんだね」


「その人って……」


「悪いやつじゃないと思うよ。時々物音をたてたり、椅子の場所が変わっていたり。ごくたまにこの曲を聞かせてくれたり……それは、こないだ話したね……そうか、君にも見えたんだ」


 理事長先生は、また、ゆっくりと慈しむように『埴生の宿』を弾き始めました。



 それから、たった三人の稽古が始まった。



 ほんとは、少し期待があった、先輩の誰かが見に来てくれないかって。


 だって、演出も舞監も、わたしたち役者が兼務。出番の少ないノブちゃん役の夏鈴が、稽古ごとに立ち位置や、演技のきっかけをメモってくれる。それを基に三人で、ああでもない、こうでもない。


 動画を撮ってやってみたけど、巻き戻して観るだけで稽古時間が無くなってしまう。帰りの電車の中で見ても、自分の未熟な演技って落ち込むだけだしね。


「ね、SNSに上げてコメントとかもらったら?」


「そ、そんな恥ずかしいことができるか!」


 夏鈴の提案は、一言の元に里沙が切り捨てた。さすがのわたしも、公演前の芝居を流すのはアウトだと思うよ(^_^;)。


 やっぱ、演出がいないとね……やってらんねえ! なんてヤケッパチのグチなどは言いませんでした……思っていてもね。


 それにね、役者以外誰もいない、道具も何にも無しの稽古場……これも地味に落ち込む。



 わたしだけ、もう一人分の気配を感じていたけど、それは言わなかった。



 理事長先生には言ったけど、漠然としていて、二人に言うどころか、自分で思い出すのもはばかられた……だって、怖いんだもん!!



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

芹沢 紀香       潤香の姉

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

貴崎 サキ       貴崎マリの妹

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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