74:『奥の院』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語
74『奥の院』
理事長先生は来客中なので、わたしたちは廊下で待っていた。
通称奥の院。
事務室、校長室、応接室と続いて左へポキッと廊下を曲がって奥の方。
普通、生徒はこの廊下に立つこともなく卒業していく。
待っているだけで緊張しまくり。
やがて、廊下を曲がって、みごとな禿頭を神々しく光らせながら、とても九十代とは思えない足どりで理事長先生がやってこられた。
「やあ、君たちか。待たせたね。さ、中に入り給え」
給えだよ給え! アニメ以外で「給え」聞いたの初めて、リアル給え!
マホガニーのドアを開けて、気安く招き入れてくださった。
わたしってば、緊張と待ち時間が長かったせいで、部屋に入るとすぐにポケットから施設一覧を出した。
「あ……」
一覧といっしょに自衛隊のパンフ出して、落っことしてしまった!
それを、理事長先生が拾ったのだ。
「ほう……君たち自衛隊の体験入隊をするのかい。なるほどね、こりゃ校長さんでも直ぐに返事をしかねるね。なんせ先生や保護者の人たちの中にはいろんな考えの人がいるからね……そうか、君たちはここまで腰を据えて演劇部の再建に思いをいたしているんだねぇ。こうまでして君たちは演劇部を盛り上げようとしているんだ……よろしい、わたしが許可をしよう。校長さんにはわたしから言っておく。校長さんや教頭さんが若ければ一緒に行ってもらいたいところだなあ。うん、しかしよく決心した。まずは誉めておくよ」
「エヘヘ……」
夏鈴が頭を掻いたもので、引っ込みがつかなくなり、自衛隊の体験入隊が決まってしまった。
世の中、どこで、なにが、どう転ぶか分からないもんだ。
「あのう、もう一つお願いがあるんですが……」
里沙が、仕方なく続けた。
「……構わんよ、どうぞ好きなように使いなさい」
本編の方もあっさり許可が出た。
「ただ……あそこは、時々不思議なことがおこる。まあ、人体に悪影響を及ぼすようなことじゃないがね。一応言うだけは言っとくよ」
それから理事長先生は、談話室の不思議なことについてレクチャーしてくださった。
その間、お客さんが持ってこられたというケ-キまでご馳走になった。
お茶とケーキを運んできた事務のオネエサンにも自衛隊の体験入隊を話しちゃうもんだからもう、わたしたちは腹をくくるしかなかった(`•︵•´) 。
「あ、このケーキを下さったのは貴崎先生だよ」
「え!?」「先生が!?」「先生、戻って来るんですか!?」
封印していた期待がせき上げてくる。
理事長先生は、静かに首を横に振った。
「なにか自分の道を探っていらっしゃるようだ。もう乃木高にも教職にも戻らない不退転の決心でおられる。その決心を伝えに来られたんだよ。正直、このわたしも先生の復帰を願う気持ちはあったからね、そういう周囲の期待やら思惑を断ち切るために挨拶にこられたんだ」
やっぱりね。
TAKEYONAで先生の決心は見抜いたつもりだった。はるかちゃんも大人の解説してくれて分かっていたつもりだった。でも、心のどこかで期待していたんだ。理事長先生もそう思っていて、そういうものをキッパリと打ち消しに来たんだ。
里沙と夏鈴はショックな様子だった。TAKEYONAのことは、まだ二人には言ってなかったしね。
「今は、ただ驚いていればいい。いつか貴崎先生の気持ちが、君たちの心の糧になると、わたしは信じている」
東の窓には気の早いお月様が、良いのか悪いのか分からないわたしたちの運を予言するかのように昇っているのが見えた。フェリペで見たときと違って満月だ。
覚えてる、夏鈴?
狼男は満月の夜に……わたしたちも、ひょっとして変身するかもしれないわね。
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
芹沢 紀香 潤香の姉
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
貴崎 サキ 貴崎マリの妹
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母




