70:『誕生日おめでとう』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語
70『誕生日おめでとう』
それから潤香先輩は回復の兆し。
病室は胡蝶蘭の造花と貴崎イエローの洗い観音さまを洗ったハンカチでいっぱいになった。
その日の夕方、忠クンからメールが来た。
―― 誕生日おめでとう。誕生日のお祝いをしたいので、よかったら返事ください ――
で、わたしたちは定期で行けるTAKEYONAの一番奥の席に収まっている。
テーブルの上には、とりあえず「海の幸ホワイトソ-スのパスタ」ジンジャエールで乾杯したところに、サラダとチーズのセットがやってきた。
「やっと同い年だな」
「うん。四捨五入したら二十歳だぞ!」
自分で言ってドッキリした。
二十歳って重たくて嬉しい年齢……実際にはもう少しかかるけど、あっという間なんだろうなあ……忠クンの顔が眩しく見えた。
十六歳というのもなかなかの歳だ。ゲンチャの免許もとれるし、その気になれば、ウフフ……結婚だってできちゃうぞ。目の前の糸の切れた凧は、まだ二年しなきゃ……ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?
「これ、ささやかな誕生日のお祝い」
「え、こんなにご馳走になってんのに」
「大したもんじゃないから」
……大した物じゃなかったけど、心のこもったものだった。折り紙の胡蝶蘭。
「今日の誕生花なんだよな。本物は高くて手が出ないけど。オレ必死で折ったから」
「ううん……本物より、こっちがずっといい。だって、これだったら枯れることないもん」
「そか……そう言われると嬉しいな。なんだか、まどか十六になったとたん口が上手くなったな」
「心から、そう思ってるんだよ」
クチバシッテしまった。目が潤んできた……いけません。フライングはしません!
封筒に、まだなにか入っている……これは!?
リングでもラブレターでもありません。念のため。
それは自衛隊体験入隊のパンフレットだった。
「忠クン……これは?」
「高等少年工科学校は反対されてあきらめた。で、一回体験入隊だけでもって思って……あ、まどかを誘ってるわけじゃないんだぜ。一応知っておいてもらいたかったから」
「そうなんだ……」
そのとき、観葉植物を挟んだカウンター席から、聞き覚えのある声がしてきた。
「え、マリちゃん、本気かよ……」
この品のいいバリトンは、忘れもしないわ。
コンクールで乃木坂を落とした高橋誠司……!
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
芹沢 紀香 潤香の姉
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
貴崎 サキ 貴崎マリの妹
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母




