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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
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67:『三学期最初のクラブ』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


67『三学期最初のクラブ』




「なんか、赤ちゃんのお手々みたいだね」


 三学期最初のクラブでの二番目の言葉。


「おっす、アケオメ」


 これが一番目。で二番目は、わたしが手のひらに乗っけてたそれを見た里沙の感想。


「ヒトデのミイラ」


 これは夏鈴の感想。例外的に里沙の方がデリカシーがある。


 で、その赤ちゃんのお手々のような、ヒトデのミイラみたいなものの正体は。


 マルチヘッドフォンタップと申します!


 何に使うかというと、テレビやオーディオに繋いで、最大五人まで同時にヘッドフォンが使えるという優れもの。



 で、なんで、新学期早々の部活でこれが必要だったかと言うと、以下の通りなんです。



「じゃあ、テレビとデッキ運ぶよ」


「「「おー!」」」


 と、元気はよかった……しかし現物を目にするとため息。別にイケメンを発見したわけではないのよね。


「どれでも好きなの持っていきな」


 技能員のおじさんは、フレンドリーに言ってくれたのよね。


「どうせなら、おっきいのがいいよね」


「40インチくらいなら、持てるけど……」


 わたしたちは、テレビの品定めをしている。


 テレビやネットが4K対応になって液晶テレビが更新されて、学校中のハイビジョンテレビが使えなくなり、倉庫に集められれていた。


 いずれ廃棄になるんだけども、デッキに繋げばDVDのモニターとして使えるので、技能員のおじさんが倉庫にとっておいた。それをいただきにきたってわけ。


 液晶テレビって、軽い! 薄い! 高い! と決まったものなんだ。まあ、高いものだから学校もなかなか廃棄せずに残してある。

 初期のハイビジョンテレビは今の数倍から十倍の値段だし、廃棄するにも一台5000円はするし、まだ使えるし。もったいないので残してある。

 

「この50インチくらいかな」


 夏鈴が、お気楽に指差した。クリスマスの我が家でも50インチだったしね。


「ヨイショ……重い(;'∀')」


 初期のハイビジョンは厚さが10センチほどもあって、スタンドのとこが転倒防止や角度調整機能とかで、見た目よりも、うんと重い。


 三人がかりでやっと台車に載せてゴロゴロと押していく。


「「「はあ……」」」


 三人そろってため息をついく。


 わたしたちの部室は、クラブハウスの二階にある。階段の幅も狭く、上と下に一人ずつ付くしかない。


「「「無理……!」」」


 これも三人そろった。


「テレビ運ぶのか?」


 その声に振り返ると、山埼先輩が立っていた。先輩とはジャンケン勝負以来だ。


「ここでいいか?」


 山埼先輩は、なんと一人でテレビを持ち上げ、マッカーサーの机まで運んでくれた。


「……観ることから始める。いいんじゃないか。マリ先生がいないんじゃ、今までみたいな芝居はできないもんな」


「機材もないし、人もいませんから」


 取りようによっては嫌みな里沙のグチを、先輩はサラリと受け流した。


「まあ、事の始まりってのは、こんなもんさ。ま、力仕事で間に合うことがあったら言ってくれよ。オレとか宮里は慣れてっから」


「先輩たちは、どうしてるんですか?」


 ペットボトルのお茶を注ぎながら聞いた。


「二年のあらかたは、G劇団に流れた。あそこ、うちの卒業生が多いから、違和感ないし。でも、ここに居てこそデカイ面できたけど、大人の中に入っちゃうとペーペー。勝呂だって、その他大勢だもんな」


「ま、事の始まりってのは、そんなもんですよ」


「ハハハ、そうだな。おまえらもがんばれや」


 そう言って、お茶を一気のみして爽やかに行ってしまった。


 DVDプレイヤーは、パソコンの方が便利だろうと、柚木先生がお古を無償貸与してくださった。



 一応柚木先生が正顧問。


 でも、自分は演劇には素人だからと、部活の内容には口出しされない。先輩たちとも先生とも良い距離の取り方。


 明朗闊達、自主独立。久方ぶりに生徒手帳の最初に書いてある建学の精神を思い出した……正確には、里沙が呟いたのに、わたしと夏鈴がうなづいたってことなんだけどね。


 それから、わたしたちは観まくった!


 古い順に、『風と共に去りぬ』『野のユリ』『冒険者たち』『スティング』『ロンゲストヤード』『ロッキー』『フットルース』『ショーシャンク』『クリムゾンタイト』『ラブアクチュアリー』『プラダを着た悪魔』『最高の人生の見つけ方』『インヴィキタス』『パイレーツロック』『英国王のスピーチ』『人生ここにあり』


 いずれも、不屈であり、我が道を行き、不利な状況を打ち破るお話ばかりで、広い意味で、お芝居って、人を元気にさせるものなんだと感じたよ。


 とても全部について感想言ってる余裕はないけど、『人生ここにあり』は笑って、大笑いして、大爆笑! なんだか「馬から落ちて落馬して」みたいな言い方だけど、その通り。イタリア映画で言葉なんか分からない。字幕みてる余裕もないんだけど、とにかくダイレクトで伝わってきた。ストーリーは、まだ観てない人のために言えないけど。


―― クラブを続けてよかったんだ。きっといいものが創れるんだ! ――


 そう確信できたことは確か。


 ちなみに、これらの映画は、はるかちゃん経由で、大阪のタキさん(チョンマゲのオーナーシェフの『押しつけ映画評』を門土社で連載やってるおじさん)のお勧め。


 で、DVDの大半は、はるかちゃんのお父さんからの借り物。


 非常に経済的なクラブ運営に、里沙でさえほくそ笑んでおりました。だって使い残した部費を年度末にはパーっと使えるでしょ~が(^▽^)/


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