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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
45/106

45:『四本のミサンガ』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


45『四本のミサンガ』




「あの、これ持ってきたんです!」


 やっと紙袋を差し出した。


「これは?」


「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」


「あ!? まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれてた……!」


「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」


「丈だけ?」


 夏鈴が、また混ぜっ返す。


「丈だけよ!」


「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」


 里沙までも……。


「あんた達ね……!」


「アハハハ……」


 お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。


「こんなのも持ってきました……」


 里沙が写真を出した。



「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね!」



 勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。


 部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。その下にタヨリナ三人娘。それが往年の名作映画『幸せの黄色いハンカチ』のオマージュだってことを。


 わたしは理事長先生の言葉に閃くものがあったけど、ネットで調べるまで分からなかった。


 伍代のおじさんが大の映画ファンだと知っていたので、当たりを付けて聞いてみた。大当たり。おじさんは、そのDVDを持っていた。はるかちゃんもお気に入りだったそうだ。


 深夜、自分の部屋で一人で観た……ティッシュの箱が一つ空になった。


 それを、お姉さんは一発で理解。さすがだ(*・ω・)。


「ティッシュ一箱使いました?」


 と聞きたい衝動はおさえました。


「これ、ちゃんと写真が入るように、写真立てです」


 里沙が写真立てを出した。あいかわらずダンドリのいい子だ。


 写真は、すぐにお姉さんが写真立てに入れ、部員一同の集合写真と並べられた。


「あ、雪……」



 写真立てを置いたお姉さんがつぶやくように言った。


 窓から見える景色は一変していた。


 スカイツリーはおろか、向かいのビルも見えないくらいの大雪になっていた。


「これ、交通機関にも影響でるかもしれないよ……」


 里沙が気象予報士のように言う。


「いけない。じゃ、これで失礼します」


「そうね、この雪じゃね」


「また、年が明けたら、お伺いします」


「ありがとう、潤香も喜ぶわ」


「では、良いお年を……」


 ドアまで行きかけると……。


「あ、忘れるとこだった!」


 夏鈴、声が大きいってば……カバンから、何かごそごそ取り出した。


「ミサンガ作り直したんです」


 夏鈴の手には四本のミサンガが乗っていた。


「先輩のにはゴールドを混ぜときました。演劇部の最上級生ですから」


「……ありがとう、ありがとう!」


 お姉さんが、初めて涙声で言った。


「わたしたちこそ……ありがとうございました」


「あなたたちも良いお年を……そして、メリークリスマス」



 ナースステーションの角を曲がって見えなくなるまで、お姉さんは見送ってくださった。



 結局トンチンカンの夏鈴が一番いいとこを持ってちゃった。ま、心温まるトンチンカン。芝居なら、ちょっとした中盤のヤマ。


 こういうのをお芝居ではチョイサラっていうんだ。ちょこっと出て、いいとこさらっていくって意味。



 わたし達は地下鉄の駅に向かった。



 そのわずか二三百メートルを歩いただけで、雪だるまになりかけた。駅の階段のところでキャーキャー言いながら雪の落としっこ。


 こんなことでじゃれ合えるのは、今のうちの女子高生特権なんだろうな。


 里沙と夏鈴は、駅のコインロッカーから荷物を出した。


 今夜は、わたしんちで、クリスマスパーティーを兼ねて、あるタクラミがある。


 それは、合宿みたいなものなんだけど、タヨリナ三人組の……潤香先輩も入れて四人の演劇部のささやかな第二歩目。


 第一歩は部室の片づけをやって、黄色いハンカチ三枚の下で写真を撮ったこと。


 心温まる第二歩は、次の章でホカホカと湯気をたてて待っておりますよ~(*´ω`*)。



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

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