36:『ジャンケン必勝法』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語
36『ジャンケン必勝法』
愛おしさがマックスになってきた……。
まどか……
忠クンの手が、わたしの肩に伸びてきた……引き寄せられるわたし……去年のクチビルの感覚が蘇ってくる……観覧車のときのようにドギマギはしない。ごく自然な感覚……これなんだ!
「ね、なんで、ここ『アリスの広場』って言うか知ってる?」
薮先生のおまじないが口をついて出てきた。
「……え、なんで……」
「アリスの『ア』は荒川のア。『リ』はリバーサイドのリ。『ス』はステージのス。ね、ダジャレ。笑っちゃうけど、ほんとの話なんだよ」
「「「へえ、そうなんだ!」」」
二段上の観客席で声がして、振り返るとクソガキ三人が感心している。
「どーよ、勉強になったでしょ<(`^´)>?」
怖い顔でにらみつけてやる。
「「「は、はひ(;'∀')」」」
クソガキ三人が頭をペコリと下げて、川べりに駆けていった。
「まどか……」
忠クンが夢から覚めたようにつぶやいた。
マックスな想いは、表面張力ギリギリのところで溢れずにすんだ。
出番を間違えて舞台に立った役者みたく突っ立て居る忠クン……これじゃあんまり。
「これ……」
わたしは、ポシェットから花柄の紙の小袋に入れたそれを渡した。
忠クンは、スパイが秘密の情報の入ったUSBを取り出すように。子袋のそれを出した。
「これは……」
「リハの日にフェリペの切り通しで見つけたの」
わたしは、台本の間で押し花になったコスモスを兄貴に頼んで、アクリルの板の間に封印してもらった。以前、そうやって香里さんの写真を永久保存版にしていたのを見ていたから。兄貴はニヤッと方頬で笑ってやってくれた。
「え? あ! オレも、持ってるんだ!」
忠クンは、定期入れから同じようにアクリルに封印したコスモスを出した。
「友だちに頼んでやってもらった。理由聞かれてごまかすのに苦労した」
「これ……あのときの!?」
「うん。花言葉だって調べたんだぜ」
「え……?」
―― よしてよ、また雰囲気になっちゃうじゃない ――
「赤いコスモスだから……調和。友だちでいようって意味だったんだよな」
―― 違うって、わたしそこまで詳しく知らないよ、コスモスの花言葉 ――
「今度のは白だな。また、帰って調べるよ」
「う、うん。そうして」
―― 白のコスモスって……わたしも帰って調べよう(^_^;) ――
川面を水上バスがゆっくり走っていく。西の空には冬の訪れを予感させる重そうな雲。でも、わたしの冬は熱くなりそうな予感……。
「オレも、もう一つ、ささやかなプレゼント」
「なに……」
ト、トキメイタ(#^△^#)。
「大久保家伝来のジャンケン必勝法!」
「アハハ……!」
思わずズッコケ笑いになっちゃった。
「一子相伝の秘方なんだぜ。ご先祖の大久保彦左衛門が戦の最中に退屈しのぎに仲間と『あっち向いてホイ』をやって全勝。神君家康公からご褒美までもらったって秘伝の技なんだぞ」
「そりゃ、たいへんなシロモノね」
「いいか、ジャンケンてのは、『最初はグー!』で始まるだろ」
「うん」
「そこで秘伝の技!」
「はい!」
「次には、必ずチョキを出す……」
忠クンは胸を張った。
「……そいで?」
「……それだけ」
わたしは本格的にズッコケた。
「これはな、人間の心理を利用してんだよ。いいか、最初にグーを出すと、次は人間自然に違うものを出すんだよ。違うものって言うと?」
「チョキかパー」
「で、そこでパーを出すとアイコになるかチョキを出されて負けになる……だろ?」
「……だよね」
「ところが、チョキを出すと、アイコか勝つしかないんだ」
「なるほど……さすが大久保彦左衛門!」
「でも、人には喋るなよ!」
「大久保家の秘伝だもんね……でも、これを教えてくれたってことは……」
「あ、そんな深い意味ないから。まどかだからさ、つい……アハハハ」
「アハハハ、だよね」
笑ってごまかす二人の影は、たそがれの夕陽に長く伸びていった。
そいで……このジャンケン必勝法は、始まりかけた熱い冬の決戦兵器になるんだよ。
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
まどかの家族 父 母 兄 祖父 祖母




